●光文社古典新訳文庫から刊行された「スペードのクイーン/ベールキン物語」(プーシキン著/望月哲男訳)を読む。訳題が「スペードの女王」ではなく「スペードのクイーン」。チャイコフスキーがオペラ化している。
●もちろん作品本編も古典中の古典だけあって味わい深いに決まっているのだが(訳文もとても読みやすい)、訳者による50ページほどもある巻末の「読書ガイド」がおもしろい。「スペードのクイーン」でカードゲームの鍵となる「3、7、1」の数列について、ずいぶんいろんな解釈があるのだと知った。倍々ゲームのギャンブルで3回連続して賭けたときの配当、2、4、8から、元金を差し引いた1、3、7(2のn乗マイナス1)に由来するというのが、どう見ても自然だと思うが、そこからいろんな解釈が膨らむというのも理解できる。
●で、問題は「スペードのクイーン」に登場するカードゲーム、ファラオ(=ファロ)だ。ファラオの基本ルールを知らないでこの話を読むのは(廃れたゲームなので普通は知らない)、麻雀のルールを知らずに「ノーマーク爆牌党」とか「スーパーヅガン」を読んでるような(←麻雀マンガの例)隔靴掻痒感がある。訳注を読み、検索もしてみた感じだと、どうやら運だけで勝敗が決着するようなタイプのゲームのようだ。子が1枚カードを選んだ後に、親(胴元)が山から2枚のカードをめくって左右に置く。右のカードと子のカードの数字が一致すれば親の勝ち、左のカードが子のカードと一致すれば子が勝つ。一見、親も子も等しい条件のようだが、左と右のカードが同じ数字だった時は親の取り分が発生するそうで、少なくともこれが胴元の取り分(ハウスエッジ)になるらしい。だったら、子は賭ければ賭けるほど損をすることがわかっているのだから、なんでそんなものをするのかと思うが、たいていのギャンブルはそうなっている。
●この「読書ガイド」によると、ギャンブル好きのプーシキンは、少なくとも35回の大勝負に挑み、負けの総額が80,000ルーブリ、勝ちの総額が7,000ルーブリだったという。とてつもなく負け越している(プーシキンの外務院での9等官としての年俸が5,000ルーブリ)。ここまで大金を失っているとなると、ハウスエッジに負けたという以上に、イカサマも横行していたんじゃないかと想像するのだが、どうなんだろうか。
June 11, 2015