●名作の予感がして手に取った一冊。「美しき廃墟」(ジェス・ウォルター著/岩波書店)。実在のハリウッド映画を軸としながら、1960年代のイタリアと現代のアメリカを舞台に、多彩な登場人物たちによる大小さまざまの物語が交錯する。なにもない辺鄙な農村にホテル経営の夢を見る男、運命に翻弄される新人女優、野心家の敏腕プロデューサー等々。60年代と現代を行ったり来たりしながら、読み進めるうちに次第に過去と現在がつながってゆく。大きなテーマとなっているのは、時の移ろいということになるだろうか。若さがもつ輝きや純粋さというのは、後になって振り返ってみて初めて気づくものでもあるが、同時にその小ささ、頼りなさも際立つというか。切なくて、可笑しい。
July 1, 2015