●Naxos Music Libraryにアクセスしたら、新レーベルとしてEdiciones Singularesが加わったというお知らせがあって、サリエリのオペラ「ダナオスの娘たち」の音源が載っていた。クリストフ・ルセ指揮レ・タラン・リリクの演奏。なにげに再生してみると、ドラマティックで躍動感あふれる序曲をはじめ、生気に富んだ音楽が次々と飛び出してきて、耳を奪われる。そういえば、「ダナオスの娘たち」って前にもなにかで話題にしたような……。で、思い出した。
●サリエリの評伝「サリエーリ モーツァルトに消された宮廷楽長」(水谷彰良著/音楽之友社)に出てきたのだった。というか、この本に出てきたベルリオーズの回想録からの引用のなかで出てくる。若き日のベルリオーズはパリ・オペラ座で「ダナオスの娘たち」の上演を目にして、感激のあまり忘我の境地に至る。引用の引用になってしまうが、こんな一節。
ある晩、私はオペラ座へ行った。サリエリの「ダナオスの娘たち」が上演されていた。そこには荘厳、舞台の輝き、オーケストラと合唱団の壮大な響き、ブランシュ夫人の悲壮な演技と見事な声、デリヴィスの崇高な荒々しさがあった。(中略) 私が混乱と興奮で陥った忘我状態は言葉で表せそうにない。山奥の湖で小舟しか見たことのなかった船乗り志望の若者が、大海を進む三層ブリッジの大型船に突然乗せられたようなものなのだ。その夜は一睡もできなかった。
●少なくとも「中身のない音楽ばかりを書いて権謀術数だけでのし上がった作曲家」というイメージは払拭されるのでは。モーツァルトといったいなにが違うんだろうと思う、ルセの演奏を聴きながら。