●村上春樹「職業としての小説家」(スイッチパブリッシング)。読んでみた。いかにして小説を書くかというテーマを柱に、仮想講演録の体裁で記された自伝的エッセイ。以前に別のところで読んだような内容も多く(たとえば「夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです」とかで)、新鮮味はあまりなかったのだが、それでもとてもおもしろかった。特にいいなと思ったのは第6回「時間を味方につける──長編小説を書くこと」と第11回「海外へ出ていく、新しいフロンティア」。前者は長い文章を書くための具体的な方法論が言及されていて、特に書き直しの仕方がすごく興味深い。後者はアメリカで自分の本を売るためにどんな方法をとったかというプロセスが書かれている。アメリカと日本では出版の仕組みとか流儀がぜんぜん違っていて、まずはエージェントありきなんだけど、アメリカ人作家と同じ土俵に立つために、自分で翻訳者を見つけて個人的に翻訳してもらった英訳原稿(自分でもチェックしたもの)をエージェントに持ち込んだという話に、目からウロコ。そりゃそうじゃん、先方は日本語なんか読めないんだから!と思われるかもしれないけど、そういうことをしている人/できる人ってなかなかいないのでは。
●似たようなことを書いていても、過去のエッセイとはいくらか手触りが違っていて、少し肩の力が抜けているというか、ガードが下がっているというか、なんというのかな、だれでもそうだと思うんだけど年をとるとともに、いろんな面で言うことが率直かつ自由になるじゃないすか。そのあたりはかなり強く感じたかな。
October 20, 2015