●で、その来日中のロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団だが、今回の指揮者はグスターボ・ヒメノ。ヤンソンスではなく。このオーケストラの元首席打楽器奏者ということで、お互いをよく知るチームでの来日ということになった。12日、東京芸術劇場の公演へ。
●前半はユジャ・ワンの独奏でチャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番。期待通りの俊敏で鮮烈なピアノ。第1番ではなく、第2番を選んでくれたのがうれしい。え、第2番ってそんなに傑作かって? いや、ぜんぜんそう思わない。第2番のどこがいいかと言われたら、第1番のセルフ・パロディのようなところ、って答えると思う。第1番は奇跡の名作。アンバランスなりにバランスがとれてしまったみたいに見える。第2番には、懸命に書けば書くほど前作に似てきてしまうみたいな作曲家の苦悩が透けて見えるようで(こっちの思い込みなんだけど)、そこがおもしろい。第2楽章では独奏ピアノも放置してヴァイオリン独奏とチェロ独奏が二重奏を始めるという破れかぶれな荒技まで飛び出す。これはスゴい。
●ユジャ・ワンのドレスは青。いつも薄着で風邪をひかないのかなと心配になるが、この日はロングだった。でもシースルー。高速ひねりお辞儀も健在。ユジャ・ワンはユジャ・ワンであり続けるために見えないなにかと戦い続けている……という物語性を喚起するのが秀逸。アンコールにスクリャービンの「左手のための小品」op9-1、チャイコフスキー~ワイルド編の「白鳥の湖」より「四羽の白鳥の踊り」。
●後半はチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」。これはユニークな演奏だったと思う。悲劇的な強い情動といったものを決して前面に出さず、洗練された美音で綴る音の芸術。ダイナミクスも控えめ。透明感があって、きらめくような「悲愴」というか。第3楽章と第4楽章はつなげて演奏(第3楽章の勇ましい終結部の真っ最中にヴァイオリン奏者が譜面をめくるのが目に入って、なんでそこで?と思ったら)。弦楽器は通常配置。ファゴットとクラリネットの位置が通常とは逆になるのはいつものことか。曲が終わると客席に完全な沈黙が訪れた。ヒメノもゆっくりとしか棒を下ろさないので、だれも拍手のタイミングがつかめずガマン大会みたいに(?)ずっと沈黙が続く。そうだな、今日はこのまま拍手をせずにみんなしめやかに帰宅するのも悪くない。と一瞬思うがそんなわけなくて、やがて盛大な喝采に続いてアンコールを2曲。シューベルトの「ロザムンデ」間奏曲、チャイコフスキーの「エフゲニー・オネーギン」のポロネーズ。
November 13, 2015