●すっかり都内は年末年始モード。日中に出歩くと、オフィス街は閑散としているが、原宿なんかだと駅がごった返して自動改札に行列ができている。当ブログも年末年始モードで不定期随時更新で。
●今年のベストコンサートは「モーストリー・クラシック」誌に挙げたけど、〆切の都合上、12月後半のコンサートってあらゆる一年の回顧企画から漏れてしまうんすよね。Twitter等を眺めていると、暮れの「第九」がこれだけ盛りあがった年はなかなかないと感じる。特にパーヴォ&N響、上岡&読響、バッティストーニ&東フィルが、三者三様のスタイルながらともに60分前後の快速仕様だったというのが印象的。本来だったらこの「第九」祭りは一年のトピックスとして振り返られるべきものだったかもしれないのだが、しかし年が明けてから前年を振り返る企画を仕込むってわけにもいかないのだよなあ。
●勇気を奮ってお知らせ。大晦日の午後9:20から、NHK Eテレ「クラシック・ハイライト 2015」にゲスト出演しています。アナウンサーは上條倫子さん。一昨年以来の出演であるが、つたない喋りでひたすら恐縮。
●大晦日はもうひとつ、ラジオ出演情報を。新潟のFM PORTにて年越し特番「GOODBYE 2015 HELLO 2016 クラシックの世界へようこそ」に出演します。23時から25時までの生放送。今年はゲストにヴァイオリニストの井上静香さんも招かれるということで、心強い限り。ピアニスト小山実稚恵さん他のインタビューも交えつつ、松村道子さんのナビゲートでお届けします。
●よいお年をお迎えください。
2015年12月アーカイブ
2015年を振り返らない
「くるみ割り人形とねずみの王さま」
●チャイコフスキーのバレエ「くるみ割り人形」のE.T.A.ホフマンによる原作は、これまでにもたくさんの翻訳があった。以前、当欄で河出文庫の種村季弘訳「くるみ割り人形とねずみの王様」を紹介したことがあったけど、大人向けで手軽に入手可能なものがイマイチないのが惜しいなあ……と思っていたら、光文社古典文庫から出ていた。「くるみ割り人形とねずみの王さま/ブランビラ王女」 (大島かおり訳/光文社古典新訳文庫)。しかもKindle版だと現在セール中で半額で購入可。すばらしい。
●以前も書いたけど、チャイコフスキーのバレエを見たことがあっても、これがどういう話か説明しようとすると、いまひとつピンと来ないんじゃないだろうか。原作を読むと、くるみ割り人形なる登場人物の前史がわかる。主人公の名はマリー。バレエの主人公であるクララという名は、原作では別の名前として登場する。「あれは全部主人公の夢でした」という夢オチ的な展開は原作でもあるのだが、その夢から覚めた後にもう一息、話が続くんすよね。
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●本日で仕事納めという方も多かったはず。当ブログも年末年始の間は不定期随時更新モードで。
メリークリスマス2015、プレミアリーグ篇
●近所中で電飾がやたらと外に向かって明滅していて眩しい。今ごろブラック・サンタさんが「悪い子はいねが~」と街を徘徊しているのであろうか。真サンタさんはそろそろ仕事を終えているであろう。
●イングランドのプレミアリーグであり得ないようなことが起こっているので書いておくと、クリスマスのこの時点で首位に立っているのはレスターだ。は? いや、本当に。あのレスター・シティだ。岡崎慎司が17試合中10試合先発、16試合出場、3ゴール。絶対的なエースは現在得点王のヴァーディ。監督はまさかのラニエリだ。だれひとり予想してなかっただろうし、今こうして書いていても現実とは思えないことが起きている。
●じゃあ、ビッグクラブはどうなっているのかといえば、2位アーセナル、3位シティはいいとして、マンチェスター・ユナイテッドは5位。ファン・ハールが監督になって数百億円をつぎ込んだ挙句、魅力に乏しいサッカーで低迷し、監督批判が起きている。だよなあ。くく。ファン・ハールといえばワールドカップでのオランダ代表監督で、延長戦に入ってからPK戦を見越して貴重な交代枠ひとつをキーパーのために費やしたという奇策があった。あの狂った作戦がまんまと成功してしまって以来、ファン・ハールはもっとも嫌いな監督になった(合理性にも疑問を感じるうえに、なんだか選手への基本的な敬意を欠いている気がして)。これから順位は持ち直すかもしれないが、どうなろうと栄光のマンチェスター・ユナイテッドには似合わない監督だと思っている。
●そして最大の驚きは昨季優勝のチェルシーが、ほぼ同等の戦力を保有したまま、15位に沈んでいることだろう。モウリーニョが解任されるとは。ロシアの富豪アブラモビッチがチェルシーを買って、最初にモウリーニョを連れてきたとき、追い出されたのは現レスター監督のラニエリ監督だった。以前紹介したモウリーニョ本でも、モウリーニョはさんざんラニエリのことをコケにしているようだったが、今やラニエリはレスターで首位に立ち、モウリーニョはクビになった。ホント、勢いのあるときに他人を見下すようなことはしてはいけない。が、これに懲りてないのがモウリーニョって気もする。これから興味深い続篇を見られるんじゃないだろうか。
ナクソス・ミュージック・ライブラリーにユニバーサル系レーベルが参加
●ようやく、というべきだろう。12月19日よりナクソス・ミュージック・ライブラリー(NML)にユニバーサル系レーベルが新規参加。当初、多数の独立系レーベルの集合体だったNMLも、EMIやErato、さらにDG、Deccaが加わって、おおむね一通りの音源が聴けるようになった……と言いたいところだが、本日時点ではユニバーサル系音源の点数はまだわずか。これから怒涛の勢いで増えていくことを期待。
●もっともApple MusicとGoogle Play Musicがすでに日本国内でのサービスを開始しているので、そちらを使えばユニバーサル系の音源も山ほど聴ける(Amazonのほうはまだ見てないのだがどうだろう?)。もう単に音源を聴くという点だけに関していえば、Apple MusicかGoogle Play Musicのどちらかさえあればいいのかも。
●ただ、NMLにはほかにはない圧倒的な強みがあって、作曲家名、作品名、アーティスト名等が日本語化されているのはここだけ。ただでさえ音源のメタデータがむちゃくちゃなことになっている音楽配信の世界にあって、整備された日本語で検索できるのはやっぱりありがたい。作曲家別作品表も役立つし、同曲異演を演奏時間順に並べ替えるとか、そういった機能が有効な場面もある。だんだん聴くのはAppleやGoogle、調べるのはNMLみたいな感じで棲み分けができていくのだろうか。
大井浩明POC第24回公演/篠原眞全ピアノ作品、クルト・マズア逝去
●20日は渋谷の松濤サロンで大井浩明POC第24回公演~篠原眞全ピアノ作品。今回も作曲順に曲が並ぶが、最初の曲である1951年の「組曲」がなんと世界初演。以降、4つのピアノ曲(1951/54)、ロンド(1953/54)、「タンダンス[傾向]」(1962/69)までが前半、後半は「アンデュレーションA [波状]」(1996)、「ブレヴィティーズ[簡潔]」 (2010/15)世界初演。60年以上にわたる創作歴というのも驚異的だが、前後半でいきなり30年以上の時をジャンプしているのもすごい。ドビュッシー、ラヴェルらフランス音楽風の前半3曲から、「タンダンス」から突如として前衛に作風が変化する。やはり後半が断然おもしろい。「ブレヴィティーズ」は24のミニチュア的小品が集まったもので、それぞれが「減少」「発音」「分散」等々と題される。多様な凝縮された世界の連続体。
●年末のこんな時期になって、クルト・マズアの訃報が飛び込んできた。88歳。多くのメディアがこの一年を回顧するような記事を作った後のタイミング。マズアについて思い出すことは決して多くはないのだが、はるか昔、学生時代に聴いたライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団とのブルックナーの交響曲第4番は記憶に残る演奏だった。ひどい風邪で意識が朦朧としながら無理やり出かけたのだが、ブルックナーの音楽の持つ陶酔感を初めて意識したのはこの日だったかも。あと、ニューヨーク・フィルの音楽監督に就任したのがすごく意外だった。
バッティストーニ指揮東フィルの「第九」
●18日は東京オペラシティでバッティストーニ指揮東フィルのベートーヴェン「第九」。「第九」って、「第九」の前になにを演奏するのがいいんすかね。「第九」だけっていうのが理想だと思うんだけど、それだと遅刻したときに悲惨だし、かといってベートーヴェンの短い序曲をやってすぐ休憩っていうのも、なんだか前置きが長い感じ。いっそ今日は「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」公開日だから、ぱぁっと景気よく「スター・ウォーズ」メインタイトルがいいんじゃないのと思ったが、んなわけなくて、「レオノーレ」序曲第3番→休憩という流れ。メインの「第九」が60分を切るかもってくらいの超特急テンポだったので、たしかにこれは前半がないといくらなんでも短すぎるか。
●で、バッティストーニの「第九」はハラハラドキドキでかなり斬新だった。HIPな演奏だから速いっていうよりは、まったく独自の速さ。慣習的にタメが入る部分でもどんどんインテンポで先に進む気持ちよさ。でも、ところどころ思い切り歌わせるというオペラ風味もあって、ハイブリッド感満載。第4楽章、最初に「歓喜の歌」の主題が低弦に登場するところで、チェロよりもコントラバスを強調して弾かせていたのが印象的。地の底から湧きあがる感じというか。合唱は東京オペラシンガーズ。独唱陣ではテノールのアンドレアス・シャーガーが際立っていて、後で気づいたんだけど、この人、来年の東京・春・音楽祭の「ジークフリート」で題名役を歌うことになっているではないの。
●年末の「第九」をこれだけ新鮮な気分で聴けたというだけでも大収穫。会場は熱狂。
「スター・ウォーズ エピソード7 フォースの覚醒」公開とサウンドトラック
●いよいよ本日「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」公開。10年ぶりの新作であり、ディズニーに移って最初の「スター・ウォーズ」でもある。一刻も早く見たい気持ちと、「いやいや、これはもうジョージ・ルーカスの作品じゃないんだから、別物の『スター・ウォーズ』なんだよ」という気持ちが混ざっている。もっとも年末進行の折、年内に見られるかどうかも怪しいところではあるが……。
●で、今回のオリジナル・サウンドトラックだが、映画の公開日と合わせてリリースされることになった。通常、サウンドトラックは前宣伝も兼ねてか映画公開よりも早くリリースするものだと思っていたが(それにレコード業界の発売日と映画業界の公開日はなかなか合わないだろうし)、ネタバレを防ぐためか、今回は発売日までトラックのタイトルまで伏せられるという徹底ぶり。昨晩確認したのだが、ちょうど午前0時となったところで、ディズニーの公式サイトにトラックタイトルが表示された。
●じゃあ配信のほうはどうなっているのかなと思ったら、なんと、もうApple Musicで聴けるじゃないすか(どういうわけかGoogle Play Musicでは現時点で見つからないのだが……)。今、聴いている。これまで「スター・ウォーズ」のサウンドトラックはロンドン交響楽団が演奏してきたが、今回はロサンジェルスで録音が行なわれた。で、数日前に情報解禁となったようなのだが、なんと、「フォースの覚醒」のオープニング・テーマとエンド・タイトルをドゥダメルが指揮したのだとか(New York Times, LA Times)。オケはLAフィルのメンバーを含むスタジオ・ミュージシャンたちで、突然ドゥダメルがスタジオにあらわれてびっくりしたとか。こういうのもカメオ出演っていうんすかね。
真・手作りチョコ
●手作りチョコの原料が市販チョコってどうなんすかね、それって手作りハンバーグの原料が市販ハンバーグだったり、手作りセーターの材料が市販セーターだったりする的な倒錯感がないっすかね、やっぱりカカオから作るのが本当の手作りチョコなんじゃないっすか……みたいな戯言を毎年のようにバレンタインデー近くになると言っているが、ここで朗報。福岡県飯塚市のチョコレート専門店「カカオ研究所」が、ベトナムの農園と提携してカカオツリーのオーナー制度を始めた。カカオの木のオーナーになると、一年間カカオの実が育つのを見守り、秋には収穫したカカオをチョコレートにして届けてくれるという。どうだろう、これで手作りチョコを作るってのは?
●「このチョコ、手作りなんだよっ♥ 」「へー、すごいね、どうやって作ったの?」「えーっと、まずベトナムの農園と提携してカカオの木を育ててぇ……」。
●来年のバレンタインには間に合わないが、再来年に向けて今から準備しておくというのはどうか>カカオ女子。
フットボール系あれこれ、来季昇格プレイオフ、サイドバック、長谷部誠
●来季のJ1昇格プレイオフ決勝は中立地ではなく、リーグ戦上位クラブのホームで開催することに。今季、福岡vsセレッソ大阪戦がたまたまセレッソのホーム長居で開催されることになってしまい、ひどくアンフェアな事態になってしまったのが来季は改善される。しかし、J1のプレイオフ方式を巡るドタバタを思い出してもそうだけど、Jリーグってこういう「全ケースを想定する」っていうのが苦手な感あり、なぜか。
●サイドバックって、日本のイメージと欧州のイメージがかなり違うんだなあと思うのは、フランクフルトで長谷部誠が、そしてサウサンプトンで吉田麻也が右サイドバックで起用されるあたり。よもや長谷部と吉田が同じポジションになりうるとは。サイドラインを縦に突破するイメージとか、ぜんぜん求められていないっぽい。
●先週末、ドイツではボルシア・ドルトムント対アイントラハト・フランクフルトで香川真司と長谷部誠の日本人対決が実現。長谷部はこの日は本職のセントラル・ミッドフィルダー。で、フランクフルトはまさかの6バックを敢行。通常の4バックに加えて、相手にボールを持たれたら(というかほとんど持たれっぱなしなのだが)中盤の両サイドからバックラインに選手が加わって、6バックになる。もうほとんど隙間なしでディフェンダーだらけの密集最終ライン。その代り、中盤は3人しかいなくて、その真ん中で長谷部が必死で走り回って守る。フォーメーションでいうと6-3-1。
●もちろん、そんなことをすれば中盤はすかすかになるので、ドルトムントは好きなだけボールを持てる。6バックのフランクフルトがカウンターで先制するというウソみたいな展開があったものの、ドルトムントは次々と好機を創出して4ゴール。4対1。
●長谷部は試合終了後のインタビューをドイツ語でこなしていた。ぜんぜん言葉に詰まらずに試合を振り返る。試合直後のインタビューなんて日本語でもなかなかこうは話せないって思うくらい、しっかりしている。
「ラオスにいったい何があるというんですか? 紀行文集」(村上春樹著)
●なんでラオスなの?と首をかしげつつも、村上春樹の紀行文ならおもしろくないはずがないだろうとゲット、「ラオスにいったい何があるというんですか? 紀行文集」(村上春樹著/文藝春秋)。別にラオスだけを訪ねているわけではなく、アイスランドやギリシャ、アメリカ、フィンランド、さらには熊本までも含めた紀行文集。それぞれの初出媒体もまちまちで、トーンの違いはそれなりにある。かつての「遠い太鼓」「やがて哀しき外国語」「辺境・近境」みたいな海外滞在本とも手触りはかなり違っていて、「これからどこへ行くのか自分がどうなるのかわからない旅」と「年輪を重ねて過去を振り返る旅」の違いというか。なので先の見えない感は皆無、ゆとりのある旅。これはこれでおもしろい。
●音楽ファンにとって興味深いのはフィンランドへの旅で、シベリウスが暮らしたアイノラ荘を訪れるくだりなんじゃないだろうか。シベリウスは92歳で死ぬまで(1957年のことだが)、この家に水道設備を入れなかったという。工事を始めるとうるさくて作曲につかえる、井戸があればそれでいい、というのだが、家族はずいぶん閉口したはず。シベリウスが亡くなると、残された家族はただちに水道設備を導入したとか。水道がない間、トイレはどんなふうになってたんすかね。先日のヴァンスカ指揮読響公演で、シベリウス後期作品で休憩中の男子トイレに発生するシベリウス行列はブルックナー行列をも凌駕するという発見をしたばかりだったが、この話を読んでまたシベリウスとトイレの関係について思いを巡らせることになってしまった。たまたまシベリウス・イヤーに読めてよかった(?)。
ブラビンズ&名フィルのホルスト他
●12日は愛知県芸術劇場コンサートホールでマーティン・ブラビンズ指揮名古屋フィル。3年ぶりの名フィル。ホルストの「日本組曲」、名フィルのコンポーザー・イン・レジデンスを務める藤倉大のフルート協奏曲(委嘱初演)、ホルストの組曲「惑星」という充実したプログラム。フルート協奏曲のソロはクレア・チェイス。なんと、一曲のなかでフルート、ピッコロ、コントラバス・フルート、バス・フルートという4種の楽器を使う。コントラバス・フルートって今までに実演で聴いたことはあったんだろうか。巨大。楽器も多彩だが、フルートの特殊奏法も満載で千姿万態。機知と抒情。「惑星」はダイナミズムが前面に打ち出された演奏。冒頭「火星」の快速テンポ、リズミカルな踊れる5拍子がカッコいい。
●この日の名フィル定期はサービス満点で、開演前にロビー・コンサートがあって、その後に藤倉大プレトークがあって、終演後に舞台上で「ポストリュード」と題されたクレア・チェイスのミニミニ・コンサートまであった。この特盛感はすごい。で、この「ポストリュード」では、本編のフルート協奏曲のサブセット版みたいなフルートとコントラバス・フルートのための「リラ」と題された曲が演奏されてて、これがすごくよかった。聴いたばかりの新作の変則追体験というか。平日夜公演は厳しいけど、週末の公演ならこの「ポストリュード」はいろんな可能性がありそう。ブラビンズが持ち込んだアイディアなんだとか。
●栄は前回行ったときに丸善がなくなっていたのがショックだった。なんとなく、あの丸善が名古屋の中心点だという勝手な思い込みがあったので。でも場所を少し変えて復活したというから、開演前に一瞬だけ新しい丸善に寄ってみた。ビル丸ごとの大型書店って落ち着くし、ほっとする。
お風呂オルタナティブ
●野坂昭如逝去。このニュースでまっさきに思い出したのが、かつてテレビで目にした氏の「オレはもう十年以上風呂に入っていない」発言。その場にいた女子たちがドン引きしたときの言いわけが忘れられない。「風呂には入らないが、一日に下着を何度も替えている。だからこれは風呂に入っているのと同じだ」と言い放った。
●なるほど! これは発明なのかもしれん。だとするとこの着替え戦略によって人生からお風呂を省略してしまえるのか……いや、待て待て、だとすると洗濯物の量も格段に増えるわけで、着替えの時間なども考慮すると、結局お風呂に入るほうがはるかに手軽なのではないか。というか、そもそも着替えがお風呂の代替となるというのは、どういうロジックによるものなのか、さっぱりわからない。どんな無理筋の主張であっても、堂々と言い切れば一定の説得力を持つのだろうか……。
●とか考えながら、風呂に浸かった。
アンドレアス・シュタイアーのシューベルト、シューマン、ブラームス
●8日はトッパンホールでアンドレアス・シュタイアーのリサイタル。シューベルトの4つの即興曲D899より第1番ハ短調、4つの即興曲D935より第2番変イ長調、シューマンの幻想小曲集op12、シューベルトの「楽興の時」より第1番~第3番、ブラームスの6つの小品op118。プログラムが非常に魅力的。ブラームスのop118で終わるとは。アンチ・クライマックスのリサイタルとでもいうか。シュタイアーのソロは新潟のLFJ以来。新潟では(たぶん)ホールのピアノを弾いていたが、この日はタカギクラヴィア所有の1887年製ニューヨーク・スタインウェイを使用。ということは演奏される曲目からざっくり半世紀ほど後の楽器ということになるのか……と思ったけど、待てよ、ブラームスは長生きしているから、op118って何年の曲だっけ? うお、1893年。このピアノより新しいじゃないの。マジですか。
●シュタイアーは楽譜を置いてセルフ譜めくり方式なのが吉。才気煥発、融通無碍。前半の終わりと後半の終わりに対をなすように置かれたシューマン「幻想小曲集」とブラームスの「6つの小品」op118をとりわけ満喫。「幻想小曲集」終曲の厳粛さ、壮麗さと、後に残る余韻の対比ってホントにすばらしい。ブラームスのop118-2は少し前の東響公演でエマニュエル・アックスがアンコールで弾いてくれたけど、あの瞑想的なピアノとは対照的に、シュタイアーは速めのテンポでそっけないほどの身振り。でもなんの不足も感じない。
●楽器の響きは多彩。フォルテピアノほど音域ごとに不均一ではないにしても。最初に耳にした瞬間は新鮮に感じるが、聴いているとあっという間に慣れる感も。これが19世紀末の完成形のひとつということなのか。
J1昇格プレイオフ決勝、アビスパ福岡vsセレッソ大阪
●J2の1位大宮と2位磐田は無条件でJ1に昇格決定、残る1つの昇格枠を賭けての3位~6位のプレイオフは、3位福岡の勝利で終わった。この昇格プレイオフも最初はずいぶんひどい仕組みだと思ったが、J1の変則チャンピオンシップに比べればずっとマシに思えてくる。これまではこのプレイオフで下剋上が連発して、結果として戦力の乏しいチームがJ1に昇格して、昇格後は惨憺たる成績に終わる、というケースが続いた。しかし今回ようやく「リーグ戦3位のチームが3番目の昇格枠をゲットする」という、納得の結果に。いや、本来これが当然のことだと思うんだけど……。
●しかし、このプレイオフ決勝、録画でチラッと見たけど、これはもうホントに福岡が勝って(正確には引き分けて)よかったと思える。だって、まず一発勝負なのに会場が長居。これは事前にそう決まっていたもので、たまたまセレッソのホームになってしまったっていうんだけど、福岡から見たらあんまりじゃないの。収容人数の多いスタジアムが必要だという事情はあったにせよ、なんだかフェアじゃない。
●しかも選手。セレッソ大阪はとてもJ2のクラブとは思えないほど超豪華。現ニッポン代表の山口蛍以外にも玉田圭司、田代有三、橋本英郎、関口訓充、茂庭照幸、田中裕介等々、元代表やそれに準ずるクラスの選手がずらり。ベンチに扇原とかエジミウソンがいる。これだけ豪華メンバーをそろえておきながらJ2で4位だったんすよ!? どう考えても、なにかまちがってる。この戦力で4位は、成功じゃなくて失敗に終わるべき。そうサッカーの神様が考えたとしか思えなかった、後半42分に福岡の同点ゴールが決まったとき。
●と、書いてはみたものの、実のところワタシは福岡の監督である井原正巳の喜ぶところが見たかっただけなのかも。現役引退は2002年。満を持して監督になった、って感じがする。
デュトワ&N響の「サロメ」演奏会形式
●6日はNHKホールでシャルル・デュトワ指揮N響。12月定期での演奏会形式によるオペラ、今回はR・シュトラウスの「サロメ」。昨年のドビュッシー「ペレアスとメリザンド」もそうだったけど、オケの定期でこんなに高水準のオペラを聴けて、ホントにありがたい。演奏家形式でなければ絶対に聴けないような壮麗なサウンドを堪能。精彩に富み、頽廃美というよりは機能美を味わう。歌手陣もすばらしい。声量も十分でなおかつ視覚的にもサロメとして納得できるグン・ブリット・バークミンは貴重。エギルス・シリンスのヨカナーンは立派だけど、役柄としては若い男子っぽいイメージがほしい気も。キム・ベグリーのヘロデ王は最強。演奏会形式なのに、これほどキャラを立たせることが可能だとは。演じていた、完璧に。
●「サロメ」って、最後のヘロデ王の決め台詞を延々と待ちながら聴くオペラだなと改めて思う。今か今かと待ち望んでいるといってもいい。サロメが出てきて、ヨカナーンを欲してこらえきれなくなる姿が、そのままワタシらの「あの女を殺せ」という一言を欲する姿の鏡像になっている。ああ、品がない。サロメが首切り役人にヨカナーンの首を持ってくるように命じた後の描写がなんというか、もう……。あと「7つのヴェールの踊り」って、少しどんくさいっすよね、セクシーっていうよりは。そこがスゴいと思う。
●NHKホールのオルガンが使用されていたんだけど、上手側壁から音が降り注ぐという予想外の空間性が生まれていたのが印象的。
●ヘロディアス(ジェーン・ヘンシェル)ってのも、なんともいえない役柄っすよね。「オホホホ、それでこそ私の娘よ! ホーホホホホホ」。狂いすぎていて、もう可笑しい。それをいうならヨカナーンも狂ってるし、ナラボート(望月哲也)もそんなことで勝手に死ぬなよ!って感じ。フォースの暗黒面に堕ちた連中だらけで、どう考えても正常なのはヘロデ王だけ。
ヴァンスカ&読響のシベリウス5、6、7
●シベリウス・イヤーの掉尾を飾る公演として、4日はオスモ・ヴァンスカ指揮読響へ(サントリーホール)。シベリウスの交響曲第5番、休憩をはさんで、第6番、第7番。ゲスト・コンサートマスターにケルン放送交響楽団の荻原尚子さん。
●リントゥ&フィンランド放送交響楽団、カム&ラハティ交響楽団に続くフィンランド人指揮者たちによるシベリウス150祭り。この流れで聴くと、やっぱり日本のオーケストラには日本のシベリウスがあるのかなと感じる。一から積み上げて作り出した感というか。この日は後半、特に交響曲第6番が胸に沁みた。清澄なサウンドが生み出す峻厳なリリシズム。
●特に後期の3曲についてはシベリウス好きはみんな自分のシベリウス像みたいなのが心にあるためのなのか、SNS上でもシベリウス祭りのそれぞれに対してぜんぜん違った反応が見えるのがおもしろい。
●シベリウスの交響曲で好きなのは3、5、6。
●休憩時の男子トイレで、シベリウス後期行列はブルックナー行列すら凌駕するという新発見。どういうロジックでそうなるのかは不明。
ルネ・マルタンを囲む意見交換会
●3日は東京国際フォーラムで「ルネ・マルタンを囲む意見交換会」。来年のラ・フォル・ジュルネを見すえて、マルタンさんの構想が語られた。音楽関係者のみによる比較的少人数の内輪の会といった趣旨。
●で、次回のテーマは「自然」(ナチュール、ってなるのかな?)。年が明けるとまもなくナントのLFJなので、マルタンさんよりナントでの企画内容があれこれと語られ、そのうちの多くが東京でも実現することになるんだろうなと思うと期待感が高まる。だってこのテーマは鉄板でしょう。たとえばナントのプログラムとして、「四季」に関する曲としてヴィヴァルディや、ヴィヴァルディを再構築したような現代作品、チャイコフスキー、グラズノフ、ピアソラ、フィリップ・グラス(ヴァイオリン協奏曲第2番「アメリカの四季」)等々。あるいは自然界を構成するものとしてルベルの「四大元素」他。武満作品もたくさん自然に関する曲があるので、ナントでは15曲前後演奏されるんだとか(ちなみにアジアからはほかに細川作品、タン・ドゥン作品も)。
●「田園」をテーマとして、ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」と、これに先立つ性格交響曲としてよく曲目解説なんかに出てくるクネヒトの交響曲「自然の音楽的描写」(たぶん東京でも演奏してくれるだろうから実演で聴ける貴重なチャンス)とか。あとは「夜」「風景」「聖典と自然」「動物」といったあたりが主だったサブテーマ。「鳥」だったらレスピーギもあればメシアンもあるし、ラウタヴァーラもハイドンもある、といった調子。どれくらい東京でも(あるいは東京以外の日本のLFJでも)できるのかはともかく、このテーマならおもしろくならないはずがない。「みんなが知ってる曲」にも「コンサートゴアーが喜ぶ曲」にもどっちにもネタが豊富にあるし、曲とテーマの関係性がおおむねわかりやすい。前回は「パッション」だったから、いちいち「パッションっていうのは情熱でもあり受難曲でもあり……」みたいな前置きが必要だったけど、「四季」とか「鳥」だったらすっきり明快。ファミリー層にもぴったり。
●あとメイン・ビジュアルが明るくて安堵した(前回のは暗くて悲しかった……)。日本の5月にふさわしい。これは新海誠監督のアニメーション映画「言の葉の庭」で美術背景とポスターを担当した画家の四宮義俊氏の作品で、マルタンさんたっての希望で実現したのだとか。
初台駅の列車接近メロディ
●こんなニュースが。「新国立劇場の最寄り駅に“らしい”ご当地メロディ 京王」。12月15日の始発から12月27日の終電まで、新国立劇場の最寄り駅である京王線初台駅の列車接近メロディがバレエ「くるみ割り人形」の「行進曲」になるんだとか。そう、クリスマスといえば「くるみ割り人形」。で、12月28日の始発以降もバレエやオペラにちなんだメロディが使われるそうで、調布方面の1番ホームではバレエ「眠れる森の美女」の「ガーランド・ワルツ」、新宿方面の2番ホームではオペラ「アイーダ」の「凱旋行進曲」が使用されるという。
●これって、新国立劇場の演目とは連動するんすかね? クリスマスの「くるみ割り人形」はしっかり連動している。年末年始は公演がないので適当な名曲を選んだとして、ひょっとして1月24日からは「魔笛」が流れたりするのであろうか。もしそうだとすると、2月28日からはヤナーチェクの「イェヌーファ」のどこかが駅のホームに流れることに?
●3月6日からは「サロメ」かあ。「7つのヴェールの踊り」が鳴り響く駅のホームの妖しさといったらない、きっと。
Jリーグ2015チャンピオンシップ準決勝、そして伝説へ……
●今年から始まったJリーグの変則チャンピオンシップについては、ブタのようにぶーぶー文句を言い続けているわけだが、それはそれとして、先日のチャンピオンシップ準決勝については認めなければならない、伝説のゴールが生まれたということを。
●浦和対ガンバ大阪の一発勝負は見ごたえのある激しい好ゲームになった。熱い。熱すぎる。90分で決着がつかず延長戦へ。浦和は足をつる選手が続出。奇跡は118分に起きた。ガンバの丹羽が浦和の前線からのプレッシャーを受けて、ゴールキーパーへバックパス。ところがこれがなぜか浮いたボールになってしまい、前に出ていたキーパーの頭をふわりと越えてゴールマウスへ……。ああ! こんなつまらないオウンゴールで決着がついていいのか、白熱した試合なのに! と、だれもがその瞬間、思ったはず。
●ところがボールはギリギリのところでポストに当たって、跳ね返った。救われた……と安堵したところで、そのボールをキーパー東口が右サイドにパス、これを受けたオ・ジェソクが中央の遠藤へ、遠藤からパトリックへ、パトリックから右サイドの米倉へと流れるようにパスが回り、米倉は逆サイド大外に走りこんできた藤春へクロス、藤春は利き足ではない右足でボレー、これが浦和のゴールに鮮やかに突き刺さった。呆然。これが決勝点に。オウンゴール寸前のバックパスで虚を突いたところから発動する心理的カウンターアタック。こんなゴール、見たことない。伝説だ。だれがどう考えても、これは伝説。悪夢のようなプレイオフ制度が、伝説のゴールを生み出した。
●喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。あるいは笑うべきなのか。今夜、ガンバと広島による決勝第一戦。
「東京・春・音楽祭2016」プレス懇親会
●25日は上野精養軒で「東京・春・音楽祭2016」プレス懇親会。来年の音楽祭の概要が案内された。写真は左から二木忠男上野観光連盟会長、鈴木幸一実行委員長、ドメニコ・ジョルジ駐日イタリア大使。来年は日本とイタリアの国交樹立150年なんだとか。リッカルド・ムーティの指揮で、ムーティが心血を注いで育てあげたというイタリアの若き精鋭たちによるルイージ・ケルビ-ニ・ジョヴァニーレ管弦楽団と、日本の若手奏者たちによる東京春祭特別オーケストラの合同公演で幕を開けることに。ムーティのビデオメッセージも上映された。
●恒例ワーグナー・シリーズは「指環」の続きで「ジークフリート」。ヤノフスキ指揮N響。ちなみにヤノフスキは来夏のバイロイト音楽祭で「指環」を指揮する。
●大型公演も魅力的だが、この音楽祭らしさをより感じるのは小ホールやミュージアムを舞台にした数々のシリーズか。タラ・エロート他の「歌曲シリーズ」、昨年に続く「24の前奏曲シリーズ」、上野一帯で開かれるミュージアム・コンサートなど、多彩なランナップが用意されている。
●鈴木幸一実行委員長による、これまでを振り返ってのお話が印象的だった。音楽業界の外からやってきて音楽祭を立ち上げてはみたものの、初期の頃、文化会館ががらがらで「こんなにお客が入らないのか」と驚いたこと、小澤征爾が「オテロ」をキャンセルした年にまるで選挙事務所のように電話が鳴り止まなくなって大変だったこと、苦労が多かったけどムーティに「最初からうまくいく音楽祭なんかひとつもない。出演者のほうがお客より多かったりするもの。音楽祭は続けることで音楽祭になる」といわれて励まされたこと……。特に思い出深い公演として挙げられたのは、震災の年にメータがやってきて指揮した「第九」。メータもお客さんも泣きながらの公演で、メータが「これまででもっとも記憶に残る第九になった」と語ってくれたという。