●U23選手権、決勝の日韓戦の前に、五輪出場権最後の一枠を賭けた3位決定戦。イラク対カタール。準決勝でイラク相手に手こずったニッポンとしてはイラクの勝ち抜けを期待するものの、カタールにはホームで戦えるアドバンテージあり。先制点はカタール。27分、イラクのディフェンス・ラインが乱れた間隙を突いて、ラインを抜け出たアフメド・アラーが先制。カタールがこの一点を守りきるかと思った終盤、イラクはパワープレイ勝負に出て、86分、単純な放りこみからヘディングで同点。これで延長戦に突入することになり、延長後半の109分、イラクはふたたびパワープレイからアイマン・フセインが頭で合わせて逆転。
●結局、イラクは高さの勝負でカタールを下して五輪出場権を獲得。こういう戦い方でいいのかなと思わなくもないが、状況に応じたイラクの戦術の使い分けが功を奏したともいえる。3大会ぶりの出場権を勝ちとったイラクベンチの歓喜の光景は感動的だった。
2016年1月アーカイブ
イラクU23vsカタールU23@リオデジャネイロ五輪アジア最終予選・3位決定戦
結婚ブーム
●ウワサの新譜、コパチンスカヤとクルレンツィス指揮ムジカエテルナによるチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲。カップリングがストラヴィンスキーの「結婚」ということもあって、ジャケット写真は田舎の結婚式風になっている。新郎新婦に扮するふたり。
●えっと、そういえば、少し前にこんなのもあったぞ。ナタリー・デセイのソプラノとフィリップ・カサールのピアノによる「フランス歌曲集~気まぐれな婚約」。
●たしか、どっちも中を開けるともっと熱々な感じの写真が出てくるんじゃなかったっけ。みんな結婚しすぎ。
ニッポンU23vsイラクU23@リオデジャネイロ五輪アジア最終予選・準決勝
●これに勝てばオリンピック出場権を勝ちとれるという準決勝は対イラク戦。さすがにベスト4まで勝ちあがってきたチームは強力な相手ばかり。前のイラン戦でも相手のフィジカルの強さに苦労したが、イラクは前線からの守備と組織の連動性をベースにしたモダンなサッカーと、フィジカル勝負の熱い肉弾戦と両方行けるハイブリッドなスタイルを持ったチーム。攻守の切り替えの速さや中盤でのパス回しはニッポンと比べても遜色ない感じ。
●で、注目のニッポンの先発。意外と替えてきた。なぜかセンターバックの岩波を下げて、奈良を投入。コンディション不良だった鈴木武蔵を復帰させ、久保との2トップ。中盤右サイドに南野を起用。前の試合で大活躍の中島は引き続き先発。GK:櫛引-DF:室屋、植田、奈良、山中-MF:遠藤航、原川、南野、中島(→豊川)-FW:久保(→浅野)、鈴木武蔵(→オナイウ阿道)。浅野を先発させるかとも思ったのだが、そうなるとあまりに高さが足りなくなるということか、やはり鈴木武蔵は外せない模様。
●序盤はタイトな展開で互いに好機が少なかったが、前半26分、相手のパスをカットした鈴木武蔵が左サイドを猛然と駆け上がり、ニアサイドに低いクロスを入れると、中に走りこんだ久保がボレーで合わせて先制ゴール。こういうのを見ると、スピードの点でも鈴木武蔵は不可欠だと納得。これでもう少し足元に確実性があれば……。選手たちは喜びを爆発させるが、この後がよくなかった。どこかこの1点を守るために受けに回ってしまったのか、ゲームの主導権はイラクへ。攻撃時も落ち着きを欠いてミスが多い。前半43分、イラクのコーナーキックに対して、ニアで守備に入っていた鈴木武蔵が頭で後ろにすらしてしまい、もうこれはどうしたってオウンゴールという形だが、櫛引が奇跡的に弾く。弾いたところにヘディングを打たれ、これもまた櫛引が跳ね返すが、さらにもう一度ヘディングでシュートされて失点。1対1に。イラクは理想的な時間帯に追いついた。
●後半、イラクは風下に立つ。風がかなり強かったようで、イラクはロングボールをニッポンのゴール前に入れ始めた。自陣からのフリーキックでも放り込んでくる。ゴール前でニッポンが必死にボールを跳ね返すものの、また拾われて波状攻撃を食らうという苦しい展開に。おまけに鈴木武蔵が足をつって、オナイウに交代。多くの時間帯でイラクがゲームを支配し、決定機も十分にあったはずだが、後半40分頃だろうか、イラクの運動量がガクッと落ちてきた。ロスタイムに入ってからイラクが3人目の交代をするという今一つ意図のわからない場面があり、時計の針が進んでこれはもう延長戦かという後半48分、右サイドから南野が落ち着いて相手をかわしてクロスを入れると、相手キーパーがパンチングで弾き、こぼれたところに原川が鮮やかなミドルを叩き込んで2対1。そこからニッポンは最後の交代枠を使って中島を豊川と代えてタイムアップ。イラン戦に続いて、今回も走り勝った感あり。
●この年代は下のカテゴリーでもずっと世界大会への出場権を獲得できていなかったが、U23でようやくアジアの壁を突破できることになった。以前のニッポンはユース以下が強い印象があったけど、最近は逆なんすよね。ドーハで、イラクを相手に戦って、ロスタイムでコーナーキックから得点して勝利。ようやく「ドーハの悲劇」の厄払いができたのかも。
第9惑星
●先日、太陽系に「第9惑星があるかもよ」(NHK、ナショナルジオグラフィック)というニュースが流れた。冥王星が惑星の定義から除外されて、海王星がいちばん遠くの惑星になったと思ったら、さらにもっと遠くに惑星があるかもしれないとは。質量は地球の10倍、太陽を一周するのに2万年もかかるのだとか。そんなに?(海王星は165年)。
●となれば、ホルストの組曲「惑星」に思いを馳せずにはいられない。ホルストが「惑星」を作曲した1916年時点で、まだ冥王星は発見されていない。「海王星」の女声合唱のフェイドアウトとともに、曲は閉じられる。かつてワタシたちはこの曲を聴くたびに、「ああ、ホントはその外側にもう一個、惑星があるのになあ……」と思わずにはいられなかった。しかし、2000年、イギリスの作曲家コリン・マシューズは「惑星」の補遺ともいえる「冥王星」を発表した。これが評判を呼び、サイモン・ラトルとベルリン・フィルが「冥王星」付きで「惑星」のCDをリリースすると、ベストセラーになった。
●しかし、2006年、国際天文学連合の総会で、冥王星は惑星の定義から外れるとして準惑星扱いに。こうなったらマシューズの「冥王星」などだれが演奏するというのだろう。結局、ホルストの「惑星」は「冥王星」を必要としなくなってしまった。トホホ、たった6年でこんなことになってしまうとは。
●そこに「第9惑星あるかも」説。待ってました。さあ、コリン・マシューズにまたもや出番はあるのか。今度曲を書いたらキリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィルで新譜を作ってもらってはどうか。
●と、ここまで書いて、この話で最大の驚きは「冥王星が惑星の定義から外れてもう10年経った」ってことだと思った。え、あれからもう10年も!? (←スケールの小さな驚き)
ニッポンU23vsイランU23@リオデジャネイロ五輪アジア最終予選・準々決勝
●決勝トーナメントに進出したニッポン、まずは準々決勝として対イラン戦。ここで負ければおしまい、勝てばベスト4へ。五輪出場権は3位まで。つまり勝てば必ずあと2試合は戦えるので、この準々決勝が唯一純然たる「一発勝負」ということになる。選手起用に関して、グループリーグを理想的なローテーションで乗り切った手倉森監督は、この試合で最強布陣を敷くことができる。鈴木武蔵と井手口がコンディション不良で使えなかったが、結果として先発はこうなった。GK:櫛引-DF:亀川、植田、岩波、室屋-MF:遠藤航(→大島)、原川、中島翔哉、矢島慎也(→豊川)-FW:久保(→浅野)、オナイウ阿道。4-4-2。オナイウの起用がかなり意外に感じたが、鈴木武蔵が使えないとなれば、身体能力の高いオナイウを使うということなのか。
●イラン戦はフル代表でも常にこうなるのだが、フィジカルでは完全に劣勢に立たされる。イランの選手たちの体躯は一回りニッポンの選手たちより大きい。高さもあるし、胸板の厚さもスゴい。しかも技術的にすぐれた選手が何人かいる。カウンターにも切れ味があって、深い位置でボールを奪取した後、ダイナミックでワイドな逆襲を展開する。ニッポンはパワーではまったく太刀打ちできない分、技術的な精度の高さと組織の連動性、敏捷性と走力で対抗する。この日もいつもの展開になったが、中盤の要である遠藤航がやや精彩を欠き、2トップにもボールが収まらないとあって苦しい展開に。90分を0対0で終えたが、内容的にはイランが勝っていた。ただ決定機を決めきれなかっただけというか、ニッポンにツキがあったというか。
●ところが延長に入ると次第にニッポンが主導権を握りだす。イランの選手たちが足をつるのに対し、ニッポンは運動量が落ちない。延長前半6分、右サイドで室屋が相手ディフェンスを交わしてクロスを入れると、ゴール前にフリーで飛び込んだ交代出場の豊川がヘディングでシュート、これが先制点になった。
●中盤左サイド、中島のところの攻防は見ごたえがあった。ニッポンのなかでもひときわ小柄な中島は(164cmだとか)、どうしても球際で負けてしまう。それでも猛然とプレスをかけ続け、いったんボールを持って前を向けば足に吸い付くようなドリブルで相手を交わす。自分が監督だったら、競り合いの弱さを見兼ねてきっと後半途中でベンチに下げていたと思うが、手倉森監督は最後まで使い続けた。延長に入るとその中島が大爆発。延長後半4分、左サイドからドリブルで仕掛けてディフェンスを引きはがすとファーサイドに強烈なミドルを叩き込んで2対0、さらにその1分後、同じような形でドリブルで中に切れ込んで、今度はニアサイドに蹴り込んで3対0。あの時間帯、あれだけ走った後で、あのキレた連続ゴール。鳥肌もの。イランからすれば勝つべき試合だったのに、最後は走り負けて総崩れとなったといったゲームか。
●続く準決勝の相手はイラク。中東の難敵が続く。イラクもUAEと延長戦を戦って、延長に入ってから2ゴールを奪うという、ニッポンと似たような展開で勝ち上がってきた。日程上、ニッポンのほうが一日休みが多くなるのだが、今のチームの勢いを保ってこのメンバーで戦うのか、フレッシュな選手を使うのか、手倉森監督の決断に要注目。
ソヒエフ&N響の「白鳥の湖」他
●21日はトゥガン・ソヒエフ指揮のN響定期(サントリーホール)。グリンカの「ルスランとリュドミラ」序曲、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番(ルーカス・ゲニューシャス)、チャイコフスキーのバレエ音楽「白鳥の湖」抜粋というロシア音楽プロ。この日もソヒエフは棒を持たずにオーケストラをリード、最初のグリンカから重心の低いサウンドが鳴り響いた。快演。ラフマニノフを弾いたゲニューシャスは少しワイルドな風貌に。ソロは端正で、むしろオケのほうが情感豊か。
●後半は「白鳥の湖」抜粋。バレエ音楽ではあるが、合計50分近くになる壮大な長篇交響楽。気軽な演目かと思いきや聴きごたえ猛烈に大。以前ご紹介した「ボリショイ・バビロン 華麗なるバレエの舞台裏」というあけすけなドキュメンタリー映画のなかで、ボリショイ劇場の総裁がダンサーたちを集めた内輪のミーティングで、唐突に「今この劇場は音楽的な水準が低い。シーズン中なのに異例のことだが音楽監督を解任する!」と叫んでいる場面があったけど、あの後、新たに招かれたのがソヒエフっていう理解でいいんすよね?
●備忘録。「白鳥の湖」は金管もパーカッションもにぎやかで華々しい音楽だけど、一方で「軽やかで澄んだ音」を出すための工夫が至るところにあると感じる。ハープとヴァイオリンの甘美なソロなんかもそうだし、特に印象に残るのは第1幕第8曲「乾杯の踊り」の中間部で、弦のピッツィカートに乗って、ピッコロとグロッケンシュピールが重ねられる場面。独特の軽くてきらきらとした音が生み出されていて、これって「くるみ割り人形」に使われるチェレスタを予告しているんじゃないかなと思った。後年、チェレスタに出会ったチャイコフスキーはその清澄な響きに魅了されてただちに楽器を取り寄せてもらうように友人に頼む一方で、「だれにもこの楽器を見せないように。特にリムスキー=コルサコフやグラズノフに見せてはいけない。この楽器は私が最初に使うのだから」と書いたという逸話があるけど、ああいう澄んだ軽やかな響きのイメージはずっと前からあったのかもしれない。
サウジアラビアU23vsニッポンU23@リオデジャネイロ五輪アジア最終予選
●すでに1位突破を決めたニッポンにとって、グループリーグ第3戦は完全な消化試合。サウジアラビアvsニッポン。手倉森監督は前の試合から先発10人を入れ替える徹底したローテーションを敢行。準々決勝の相手であるイランの選手たちもスタジアムで見ていたそうだが、たぶん、次の試合もほとんどメンバーが変わるはず。それが現時点での手倉森監督のベストメンバーなんだろう。
●ニッポンは大島僚太の完璧なミドルシュートと南野の崩しのドリブルから井手口が決めて2ゴール。サウジにPKによる1ゴールを与えたものの、通常はまずありえないような主審の判定だったので、内容的には完勝といっていいのでは。ニッポンがサブのメンバー中心でもボールをしっかりと回せたともいえるし、サウジアラビアの近年の凋落ぶりがこんなところにもあらわれていたという試合だったともいえる。しかしオナイウ阿道は今一つボールが収まらない。これまでのところ、攻撃陣で頼りになるのは浅野と久保。
●もう一方の北朝鮮とタイが引き分け、勝点・得失点差でサウジアラビア含めて3チームが並んだが、複雑なレギュレーションにより北朝鮮が2位通過。タイは惜しかった。グループDでオーストラリアが敗退したのが意外。
●で、ここまでのニッポンはこれ以上ないほど順調だが、この先は一発勝負。イランはいつだって手強い相手。次は今までの試合がウソのようなヒリヒリした熱いゲームになるはず。
METライブビューイング「ルル」
●METライブビューイング、今週の演目はベルクの「ルル」。鬼才ウィリアム・ケントリッジの演出で、題名役はこのプロダクションを最後にこの役から卒業するマルリース・ペーターセン。今シーズン最大の注目作か。
●ケントリッジ演出といえば前回のショスタコーヴィチ「鼻」で切り絵を用いたアニメーションが効いていたが、今回は墨汁と筆を用いた手描きアニメを投影して、「ルル」の暗鬱な世界を描いていた。この世界観は秀逸。陰惨で、おしゃれで、しかもコミカル。
●「ルル」は十二音技法で書かれているといっても、音楽的にはそんなに身構えなくてもいいオペラだと思う。3幕版でもそんなに長くないし、各幕がコンパクトで案外見やすい(むしろワーグナーのほうがよっぽど身構える)。逆にしんどいところがあるとすれば、ストーリーの前史を頭に入れておかないと登場人物の関係がわかりにくいかも。浮浪児だった少女ルルは養父のような愛人のようなジゴルヒのもとにいたが、あるときシェーン博士に引き取られて育てられる。シェーン博士はルルを息子アルヴァの兄妹のように育てつつ、妖しい魅力を放つルルと関係を持つ。シェーン博士の妻が亡くなると、ルルは後妻になろうとするが、まっとうな結婚を望むシェーン博士は、ルルを老いた医事顧問官の妻にあてがう。ルルのもとにやってきた画家が彼女に魅了され……というところから、オペラは幕を開ける。
●男女を問わず、ありとあらゆる登場人物を魅了していく魔性の女ルル。あるところまでは、ルルは奔放で、人々を操っているように見える。しかし、物語上の転換点から、今度はあらゆる登場人物がルルをあたかも道具や商品のように操りだし、しまいにルルは街角に立つ娼婦にまで身を落とす……。スゴいよね、いろんな関係性が描かれているんだけど、登場人物が一人残らず暗黒面に落ちていくというラブ・ストーリー。
●これ、本来はルルの少女性みたいなところから出発する話だと思うんだけど、もうペーターセンはすっかり成熟した女性にしか見えないので、「オペラは見たままに理解する」主義で見ると、みんなを手玉に取るマインドコントロールおばさんが破滅するみたいな話にも思えてくる。あと、ルルご一行は最後には切り裂きジャックに襲われるんだけど(つまり3幕の第2場から場所をロンドンに移している)、なんでそこで切り裂きジャックなんだろ、あれ別に切り裂きジャックじゃなくてもいいわけだし、なんだか唐突だなーと思ってたら、ヴェーデキントの原作がもともと切り裂きジャック事件から着想されたものなんだとか。じゃあ、原作も読んでおくしか。
ソヒエフ&N響、インキネン&プラハ交響楽団
●15日はソヒエフ指揮N響定期へ(NHKホール)。前半にブラームスのヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲、後半にベルリオーズの幻想交響曲という満腹プロ。ブラームスはフォルクハルト・シュトイデのヴァイオリン、ペーテル・ソモダリのチェロというウィーン・フィル・コンビがソロを務めた。ウィーン・フィルでもすでにソヒエフとこの曲を演奏しているのだとか。先日の山田和樹公演の明るくクリアな響きからは打って変わって、重厚な響きがズシンと伝わってきた。ベルリオーズも色彩的というよりは骨太の演奏。しばしば低弦が強調されるタフガイな「幻想」。終楽章は格調高い乱痴気騒ぎとでもいうべきか。
●18日はインキネン指揮プラハ交響楽団(サントリーホール)。日フィル以外で生で聴くインキネンはなんだか新鮮。来日オケのプログラムとして「お国もの」は基本、しかも「ニューイヤー・コンサート」を銘打っているので、メインプログラムは「新世界より」かなと思いきや、この日は別プロで、シベリウスの「フィンランディア」、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲(成田達輝)、ベートーヴェンの交響曲第7番。白眉はメンデルスゾーンか。流麗でしなやか、しかし溌溂とした生命力に富んでいた。この曲、プログラムに入っていると「うーん、またか……」と思ってしまうのだが、いざ聴くと「なんてすばらしいのよ」と胸を打たれる曲の筆頭。特にあの終楽章の天衣無縫さは神業。インキネンのベートーヴェンは奇をてらわない伝統的なスタイル。アンコールはソリスト2曲、オケ2曲と盛りだくさん。
タイU23vsニッポンU23@リオデジャネイロ五輪アジア最終予選
●続いて、中二日で五輪アジア最終予選の第2戦、タイvsニッポン。なんと、手倉森監督は北朝鮮戦から先発メンバーを6人も入れ替えてきた。もともと中二日で試合が続くのでターンオーバーは必至、しかも北朝鮮戦の内容がよくなかっただけにこれは納得の采配。前線のメンバーでいうと鈴木武蔵は残して、浅野拓磨、豊川雄太が先発、南野と久保はベンチスタート。鈴木武蔵にしても後半からはオナイウ阿道と交代。連携面での成熟よりも、コンディション維持を優先した起用法だったが、第一線よりもはるかにスムーズにボールが回り、チームとして機能していた。
●もっともこれはメンバー云々ではなく、相手のプレイスタイルの違いが要因だろう。タイは足元の技術が極めて高く、スピーディで、ボールを細かくつなぎながら攻めてくる。つまり、ニッポンとほぼ同様のフットボール観を持った相手。試合開始早々はタイが中盤を支配して、こんなにも巧くて、しかも速いのかと驚嘆。高さが不足しているのが泣き所で空中戦になると圧倒的にニッポンが有利なのだが、最近の東南アジアのレベルアップを実感する。ただ、皮肉にもお互いがしっかりとかみ合ってサッカーをした結果、ニッポンがつなぐサッカーをできるようになり、組織力とパワーで4対0で完勝。パワープレイ一辺倒の北朝鮮にはあれだけ苦戦するのに、質の高いサッカーを展開するタイには大勝できてしまうというというのが、いかにも。
●前半で退いたが鈴木武蔵の1点目は見事。遠藤航から出た浮き球のスルーパスに、相手と競り合いながら抜け出して、ワントラップしたボールを右足ボレーでゴール右下に叩き込んだ。鈴木武蔵はもうひとつボールが足に付かなくて前線で物足りないことも多いのだが、こんなふうにワンタッチ、ツータッチの勝負になると異次元の身体能力が発揮される。鈴木武蔵と交代したオナイウ阿道は、ナイジェリア系ということなんだが、鈴木武蔵とは違った持ち味がありそう。ぜひ先発でも見たい。あと浅野はこのレベルではプレイの安定度が図抜けている感あり。ゴールは鈴木武蔵、矢島、久保、久保。
●これで勝点6で決勝トーナメントへの通過は決定。あとは順位が1位になるか2位になるか……と思っていたら、他チームの結果が入ってきて、第3戦を待たずしてニッポンの1位通過が決まった。これは幸運。第3戦サウジアラビア戦はコンディションだけを考えて、選手を起用できる。決勝トーナメント一回戦の先発組をどれだけ大胆に温存するか、手倉森監督の手腕に注目するしか。
ニッポンU23vs北朝鮮U23@リオデジャネイロ五輪アジア最終予選
●オリンピックに向けての最終予選が開幕。正確にはリオデジャネイロ五輪アジア最終予選を兼ねたU23アジア選手権なのだが、だれもオリンピック最終予選としてしか見ていないと思う。でもU23アジア選手権なので、ホーム&アウェイではなく、中立地カタールでの集中開催。スタジアムはガラガラ。そんななかに大勢の北朝鮮サポがやってきて、歓声を上げる。いや彼らはサポじゃないか。なんというか、人為的というか人工的な集団で、ボールがハーフラインを超えると機械的に「ワー、ワー」と一斉に発声する。戦況は関係ない。戦術のオートマティズムではなく、応援のオートマティズム。これがポスト・モダン・フットボールなのかっ!(なわけない)。
●今回のU23のメンバーはかなり華やか。ザルツブルクの南野拓実とか、スイスのヤングボーイズの久保裕也といった海外組がいて、フル代表にも呼ばれる遠藤航がいる。広島の優勝に貢献した快速アタッカーの浅野拓磨もいるし、新潟の鈴木武蔵とか千葉のオナイウ阿道みたいな身体能力の高い選手もいる。U23でこれだけタレントがそろうんだと驚く。監督は手倉森誠。
●今大会、グループリーグを勝ち抜いて、さらに決勝トーナメントで3位以内に入らないと五輪出場権は獲得できないということで、実のところ道のりは険しいと思うのだが、初戦となる対北朝鮮戦は1対0で好スタートを切れた。試合は序盤にコーナーキックからファーサイドに走りこんだ植田直通がドフリーとなって先制。しかしその後は厳しかった。審判は例によって不思議な笛を連発するため、厳しいチャージができず、一方相手はたやすく好位置でセットプレイを手に入れられる展開。お互い4-4-2が基本陣形だったが、フィジカルで勝る北朝鮮は後半途中から3トップにしてどんどんゴール前にロングボールを放りこんできた。失点してもおかしくない場面がなんどもあったが、ギリギリのところで耐えきった。
●印象に残った選手。10番の中島翔哉。小柄な選手で、あんな大型選手ぞろいの相手にどうするのかと思うが、ボール扱いはものすごくうまい。足にボールが吸い付く。久保裕也はヨーロッパでもまれている感。プレイスピードが速い。鈴木武蔵はジャマイカ系ならではのパワーとスピードでJリーグでも気になっていた選手だが、思ったほど前線でボールが収まらない。チームでうまく使うと大爆発してくれそうだが。遠藤航はさすがのフル代表経験者で、みんなが頼りにしている。浅野拓磨はベンチで出番なし。中二日で試合が続くので、攻撃陣はローテーションさせていくことになるのだろうか。
「未成年」(イアン・マキューアン著/新潮社)
●昨年末に刊行されたイアン・マキューアンの「未成年」(新潮社)をようやく読む。もうマキューアンの近作はどれを読んでも舌を巻くほどの傑作ばかりといった感があるが、今作でも期待を裏切らない。主人公はまもなく60歳になろうとする著名な女性裁判官。マキューアン作品では世界的作曲家だったりノーベル賞物理学者だったり、しばしば社会的地位の高い成功者が主人公に設定されるが、今回もそう。ただしそれが女性であり、老いを感じているというところがなんともいえない味わい深さを生み出している。強さと弱さ、真摯さとアイロニー、倫理と逸脱等々、いろんなテーマが短めの長篇のなかに詰まっている。
●信仰によって輸血を拒む少年の審判が主人公のもとに用いられるというのがストーリーの大筋なのだが、その一方で主人公の家庭では夫が年甲斐もなくすっとぼけたことを言い出して家を出ていく事件が起きる。憂鬱な家庭内カオスを抱えつつ職業上の難問にてきぱきとほとんど事務的かつ真摯に向き合う主人公の描写が秀逸。そんなものだろうと思うもの。
●ただしマキューアン自身も60代後半になったこともあってか、肩の力は抜けてきていると思う。長篇としてはやや短めで、大風呂敷を広げるような話にはなっていない。最近のインタビューで、今後は中篇が多くなる、もしかしたら短篇も書くかも、なんて語っているのだとか。この「未成年」もこれから書かれる作品を予告しているのかも。もしこれまでのマキューアンのベストはなにかと問われたら、「贖罪」とか「ソーラー」あたりの決定的な傑作で悩むと思うけど、この「未成年」にはそれらとはちがった良さがある。
山田和樹&N響の「ペトルーシュカ」他
●9日はNHKホールで山田和樹指揮のN響定期。山田和樹待望のN響定期デビュー。プログラムがおもしろい。ビゼーの小組曲「こどもの遊び」、ドビュッシー(カプレ編)のバレエ音楽「おもちゃ箱」、ストラヴィンスキーのバレエ音楽「ペトルーシカ」(1911年版)。共通するテーマとしては、子供と人形、魂を宿した人形、パリで初演された作品といったところ。
●ドビュッシーの「おもちゃ箱」は聴く機会の少ない作品だが、以前カンブルラン&読響が同じようにこの曲と「ペトルーシュカ」(より一般的な3管編成の1947年版)を組み合わせていた。そのときは純粋に管弦楽曲として聴いたんだけど、今回は女優の松嶋菜々子による朗読入りのバージョン。これは指揮者のアイディアなんだろうか。朗読のおかげで、ストーリーが伝わってきて、ずいぶん見通しがよくなった……はずなんだけど、どこか焦点の定まらない感が残るのはオケのみバージョンと同じかも。というか、これはなにを読んでいるんでしょ。ト書き?
●後半の「ペトルーシュカ」は圧巻。4管編成の1911年版って、今まで実演で聴いたことはあったんだっけ……あっても数は少ないはず。ところどころから斬新な響きが聞こえてきて、こんなにも豊かな色彩感を持った曲だったのかと再認識。もともとオーケストラ曲一般に対して「管楽器の編成を大きくしてもかえって彩度が濁って豪華絢爛とはならないんじゃないのー、リムスキー=コルサコフの『シェエラザード』なんて2管編成じゃん」的な疑念をつい抱きがちなんだけど、見方を正された気分。この響きの多様性は抜群に楽しい。むしろこっちのほうがよっぽど「おもちゃ箱」的というか。山田和樹の指揮ぶりは明快かつ堂々たるもの。余裕を持ってオーケストラを統率して、そのうえ本番ならではの精彩に富んだ表情を引き出していた。
●松嶋菜々子さんって、すごく長身の方だったんすね。体感的には185cmくらい(だけどさすがにそんなわけない)。会場の空気が変わるくらい美しかったです。
トッパンホール ニューイヤーコンサート 2016
●今年最初のコンサートは8日、トッパンホールの「ニューイヤーコンサート 2016」。山根一仁、瀧村依里のヴァイオリン、原麻理子のヴィオラ、上野通明のチェロ、北村朋幹、島田彩乃のピアノという若いメンバーによるアンサンブル。なにがすばらしいかといえば、プログラム。前半にショスタコーヴィチのピアノ三重奏曲第2番、ヤナーチェクの弦楽四重奏曲第1番「クロイツェル・ソナタ」、後半にブラームスのピアノ五重奏曲という完璧なアンチ「ニューイヤー」。いきなりショスタコーヴィチによるソレルチンスキー追悼の音楽から始まるんだから。山根、上野、北村トリオのショスタコーヴィチが熱かった。キレッキレのヴァイオリンを満喫。途中で弦が切れたため冒頭から演奏しなおすハプニングも。後半はがらりと雰囲気が変わって島田彩乃のピアノでブラームス。堪能。
●別に「ニューイヤー」って銘打たなくてもいいようなプログラムでいて、多彩な出演者陣が華やかな雰囲気も醸し出していて、やっぱり「ニューイヤー」だなと納得。アンコールなしも吉。
●そういえばニューイヤーで思い出したけど、ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサート、来年はドゥダメルの指揮だとか。フォースの力で盛り上げてほしい。
まもなく来日するローラン・カバッソ
●1月19日、JTアートホールアフィニスでローラン・カバッソのピアノ・リサイタルが開かれる。曲はベートーヴェンの「ディアベリ変奏曲」他。ローラン・カバッソといえば、Naiveレーベルからこの「ディアベリ変奏曲」をはじめ多数の録音がリリースされている実力者。ショパン・コンクールで優勝したチョ・ソンジンを今パリで教えているのがこの人なんだとか。入場料はお手頃価格。
●で、少しおもしろいなと思ったのが、この公演のチラシや公式サイトにあったうたい文句。「ディアベリ変奏曲のブラインドテストで第1位!」と記されている。えっ、どういうことなのかなと思って読んでみると、フランスCLASSICA誌が昨年6月号で行なった「ディアベリ変奏曲」ブラインドテストで、批評家たちから第1位を獲得したのがこのカバッソの録音だったという。ポリーニやリヒテル、アラウらの録音をおさえて堂々の第1位。なるほど……。公演のうたい文句としてそんな手があったかというのと、雑誌記事としてそんな企画がありうるのかという両方で目ウロコ。これは目をひく。
●それにしてもオーディオ装置ならともかく、CDの同曲異演のブラインドテストとは。最初にぱっと思ったのは、やるならダブル・ブラインドテスト(二重盲検法)でやってほしいということかな。つまり被験者だけではなく、試験者側も自分がどのディスクをかけているのかわからないという方式で。今回の「ディアベリ変奏曲」テストがどういう方式だったのかは知りません。
ジダンがレアル・マドリッドの監督に
●よもやのジダン新監督誕生。しかもシーズン中に。3年契約でレアル・マドリッドの監督になったベニテスは半年で解任されることになった。たしかに現時点でレアル・マドリッドは3位なので不本意といえばそうだろうが、そんなに上と勝ち点差が開いているわけでもないし、チャンピオンズリーグのほうは順調に勝ち進んでいる。報道によれば主力選手との関係悪化が原因だというが、レアル・マドリッドで下積みをつんだ名監督がこんなに簡単に解任されるとは。しかもトップチームでの監督経験ゼロのジダンに代わるとは。
●ジダンはレアル・マドリッドのBチームの監督を務めていたということなので、いずれこのクラブの監督になることは決まっていたようなものなんだろう。伝説の名フットボーラ―だけにジダンだけは使い捨てしてほしくないもの。
●サッカー選手について三大伝説を選ぶとしたら、マラドーナ、メッシ、ジダン。五大伝説ならこれにブラジルのロナウドとロナウジーニョを加えると思う。能力が傑出していることに加えて、語り草になるような伝説性を持っているかどうかがポイント。ジダンの伝説性は「ワールドカップ決勝戦で現役引退する」という夢の舞台で、マテラッツィの挑発に乗って「頭突き」で退場したことでも一段と高まった。テクニックの面ではなんといっても「マルセイユ・ルーレット」。全盛期にはほとんど毎試合にようにこのルーレットで相手選手を交わす姿を見ることができた。こういう特定のテクニックと選手が結び付いている例っていうのは、今じゃなかなか見当たらない。まあ、選手としての実績は監督としての実力にほとんど貢献しないそうなのだが、どうなることやら。
ギルバート・キャプラン、逝く
●なんと、1月1日という日付で、ギルバート・キャプランの訃報が飛び込んできた。ギルバート・キャプランといえば、マーラー「復活」専門のアマチュア指揮者(以前にも記事を書いた)。どうしても「復活」を指揮したいという思いが高じて、指揮を猛勉強し、やがてロンドン交響楽団と録音を果たす。そればかりか、国際マーラー協会クリティカル・エディションの校訂にも携わり、それが縁でウィーン・フィルとの録音まで実現させてしまった。ここまで来ると、もう「アマチュア指揮者」なんて言ってられなくなる。
●キャプランには自身の行動力や情熱に加えて、資産があった。それも自分で作った会社を売って得た資産だ。1967年、26歳で創業した経済誌を、87年に(ニューヨーク・タイムズによれば)7,200万ドルで売却したのだとか。マーラーの「復活」を指揮することもスゴいが、よく考えてみると自分で作った会社を売って億万長者になるほうがもっと難しい。いったいそこまで価値の認められた経済誌ってのはどんなものだったんだろう。
●あと、資産家になってるのに、よくそれだけ指揮活動が続いたとも思う。フツー、少しでも飽きたりイヤになったりしたら、あとはもう指揮なんて辞めて日々贅沢三昧でぐうたらしようってなりそうなもの(←凡人の発想)。キャプランほどのバイタリティの持ち主にとって、きっと74年の生涯は短すぎたにちがいない。
「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(ネタバレなし)
●ようやく映画館に足を運ぶことができた、「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」。感想を一言でいえば……いや、一言では言い尽くせないか。ネタバレせずになにかを書くのも難しいのだが、「スター・ウォーズ」としては大いに納得の一作。物語の時系列においても、それ以外のさまざまな要素においても、新シリーズではなく旧シリーズの「スター・ウォーズ」を受け継いでいる。
●久々に大作映画を映画館で見ることになって、長い長い無関係な予告編とかNo More映画泥棒とか、なんで有料コンテンツなのにこんなにCMを見なきゃいけないんだろう的な疑問も感じたけど、ジョン・ウィリアムズ作曲のメイン・タイトルが流れた瞬間に「スター・ウォーズ」の世界に引き込まれる。今どきのシネコンの音響設備は、かつてのものとは雲泥の差。
●これは事前に発表されているからネタバレじゃないと思うけど、ハン・ソロ、ルーク、レイア姫らが再登場するんすよ、同じ役者で。ハリソン・フォードって、今73歳すよ。でも走る。爺アクションという新境地を見た。レイア姫は「いろりを囲んで鍋をつついてそう」って思った。あれから38年。まさに「遠い昔、はるか彼方の……」って感慨がある。
謹賀新年2016
●賀正。今年は申年。サルの写真ならいろいろ撮ってたよなーと思ってPC内を探してみたものの、ぜんぜんいい写真が見つからなかったので、代わりに微妙に眠そうに見えるキリンのドアップ写真を上げてみる。キリンって優美だ。都内動物園私的ナンバーワンである多摩動物園にて。あの広大さはすばらしい。2位は小規模だけどほのぼのテイストの井の頭自然文化園、3位は立地最強の上野動物園、かな。
●で、上野といえば、東京・春・音楽祭。またお知らせで恐縮なのだが、本日TBSラジオにて19時から放送される新春特別番組「東京・春・音楽祭スペシャル」にゲスト出演させていただいた。堀井美香アナウンサーといっしょに、今回の音楽祭の聴きどころについてご案内。内容的にはぐっと幅広い層を対象としたもの。音楽祭実行委員長である鈴木幸一氏と元NHKアナウンサー松平定知氏のスペシャル対談もあって、上野の街の魅力についても語られている。お二方の重厚な語り口に圧倒される。
●今年もよろしくお願いいたします。