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February 2, 2016

映画「偉大なるマルグリット」

映画「偉大なるマルグリット」●プレス試写で映画「偉大なるマルグリット」(グザビエ・ジャノリ監督&脚本)を拝見。なんと、あの伝説の迷歌手ジェンキンス夫人ことフローレンス・フォスター・ジェンキンスをモデルとした映画なのだ。ジェンキンス夫人の迷唱ぶりについては古くからレコード・ファンには有名である。オペラ歌手を夢見るとてつもない富豪なんだけど、歌唱能力を完全に欠落していた人で、にもかかわらず「魔笛」の「夜の女王のアリア」をはじめとする名曲を録音し、カーネギーホールでリサイタルまで開いてしまったという奇人。あまりにも歌えていないがために、かえって人気が出て、レコードは世紀の迷盤としてヒット作になった。今でもちゃんと売っている。
●で、映画「偉大なるマルグリット」では、このジェンキンス夫人をモデルとしたマルグリット(カトリーヌ・フロ)を主人公に、自由にフィクションを交えながら、主人公とその夫、友人たちとの関係が描かれる。自分の館をサロンにしてそこでリサイタルを開くんだけど、集った人たちはみんな「うわー、こりゃ聴いてられない」と内心思いつつも、みんな主人公を口々に称える。なにしろお金持ちなので。主人公は歌うだけじゃない。撮影も大好き。ワルキューレとか、オペラの登場人物の衣装をまとって、自分がオペラのスター歌手になりきった写真を撮らせる。この人物像がなかなかいいんすよね。オペラに魅入られている愛すべき富豪のおばちゃんであり、一方で夫から疎んじられている寂しい人物でもある。1920年代のフランスを舞台とした豪邸やサロンの様子も見もの(実在のジェンキンス夫人はアメリカ人だけど)。
●この題材でおもしろくならないわけがない。実におかしくて、でも物悲しい。ただ、ストーリーの結末部分については賛否が分かれるんじゃないだろうか。物語上必要な幕切れなのか、蛇足と見るか。ワタシはあまり納得できなかったんだけど、それを差し置いても見る価値のある秀作だと思う。2月27日、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほかで公開。
●なかにはこれを機に本物のジェンキンス夫人の歌声を聴きたくなる方もいるかもしれない。「人間の声の栄光(???)」としてCDも出ているし、各種音楽配信でも聴ける(フツーの人は聴きたくないと思うけど)。この翼を付けたジャケット写真がまたなんとも。