●まもなく新国立劇場で今シーズン最大の注目作、ヤナーチェクのオペラ「イェヌーファ」が上演されるが、それに先立って2月2日、映画「白いたてがみのライオン~大作曲家ヤナーチェクの激しい生涯」上映会が開かれた。入場無料で事前申込不要、しかも14時と19時の2回上映というありがたさ。夜の回に足を運んだが、中劇場がまずまずの盛況ぶり。みんなヤナーチェクのことをもっと知りたい感、満載。
●で、この映画、「イェヌーファ」が上演されるまでのすったもんだも描かれていて、今このタイミングで見るには最適の選択。これ、「イェヌーファ」を見ようっていうプロモーションだから、ここでこの映画について紹介してもしょうがないだろって気もするんだけど、でもおもしろかったから紹介する。
●監督はチェコのヌーヴェル・ヴァーグを代表する映像作家とされるヤロミル・イレッシュ(1935-2001)。ほかにも、マルティヌーやドヴォルザークなど、音楽家を題材とした映画やドキュメンタリーをいくつも監督しているのだとか。「白いたてがみのライオン」は1986年作品。映像を見ていると、画質も演出も80年代後半よりももっと古い時代に思えてしまうのだが。
●で、ストーリーは期待通り、ヤナーチェクの波瀾万丈の生涯を描いたもので、「イェヌーファ」の作曲に苦心して取り組んでいる頃から物語は始まる。ざっくりとヤナーチェクの生涯について知っていればなにが起きるかはあらかじめわかっているわけだけど、最初のシーンがきついんすよね。ヤナーチェク夫妻は長男に続いて長女を病で失う。「イェヌーファ」の物語にも赤ん坊の死という題材があって、それと並行して過酷な運命が夫妻を襲うことになる。こうして映像で見せられてしまうとかなりしんどいわけで、「イェヌーファ」の舞台に立ち向かう勇気が挫かれてしまいそうなくらいに序盤のシーンはこたえる。
●が、ヤナーチェクが本領発揮するのはここからだ。なんと、この後は色ボケ爺さん大爆発という展開へ。38歳年下の子持ち人妻カミラとのロマンスをはじめ、若い女性への燃え上がるような思いを創作活動に昇華させ、「グラゴル・ミサ」「シンフォニエッタ」「ないしょの手紙」等々、晩年の傑作群が生み出される。奥さんも世間体ももう完全にどうでもよくなった、つやっつやの恋する爺さん力。このダメ男っぷりはすごい。えっと、「イェヌーファ」って愛をテーマにした崇高な話なんじゃなかったっけ。でも、これもまた人生の真実なのか。
●あ、あとヤナーチェクがドヴォルザークの幻と対話するシーンもよかった。どう見てもルーク・スカイウォーカーとオビ=ワン・ケノビ。
February 3, 2016