March 29, 2016

ヨハン・クライフ、さまよえるオランダ人

●3月24日、ヨハン・クライフが世を去った。リヌス・ミケルス監督の「トータル・フットボール」の中心選手として70年代を代表するスーパースターだったが、ワタシはその時代のクライフを見ていない。リアルタイムでクライフを認識したのはバルセロナの監督として。今のバルセロナと比べても遜色ないスター軍団を率いて、攻撃的なサッカーでスペクタクルを披露してくれた。
●クライフは数多くの名言(というか放言)を残しているが、いちばんのお気に入りは、「私はサッカーをはじめて以来多くの選手を見てきたが、全員私よりヘタだった。私はヘタな選手を誰よりも見続けてきた。だから彼らの気持ちはよくわかる」という一言。なんですか、その屁理屈は。クライフにしか言えない。
●以下はクライフが中心選手を務めた1974年のオランダ代表の映像。これを見て驚いた。ボールを保持した相手選手に対してウソみたいな人数で猛然とプレスをかける。そして、爆速でラインを上げる極端なオフサイドトラップ。なるほどー、これは未来のフットボールだ。事実、未来を予告していた。

●こんなスゴい戦術があるなら、みんな採用しそうなものだけど、ここまで極端なものは現代では見かけない。「クライフがいないと実現できないから」とはよく言われるが、実際のところ、こんなに選手が密集していればどこかに広大なスペースがあるわけで、相手がこう来るとわかっていればいろんな対処の仕方がありそうなもの。で、この極端さを、もっとモダンで、普遍性のある形に練りあげたのがアリゴ・サッキのプレス戦術(和製用語でいうゾーン・プレス)。前線から絶えずプレスをかけ、コンパクトな陣形でゾーン・ディフェンスを敷き、オフサイドトラップをしかける。ACミランで一世を風靡した。現代のサッカーで猛威を振るうハイプレスからのショートカウンターは、これの「普通の選手でも実現可能なサブセット版」みたいなものというか、ジェネリック戦術とでもいうか。結局のところ、トータルフットボール以降のサッカーの守備戦術は、ハイプレスと局面での数的優位を、いかに普通の選手でも可能にしていくかということに腐心してきたとも思える。
●ヨハン・クライフのニックネームは「空飛ぶオランダ人(フライング・ダッチマン)」、すなわち「さまよえるオランダ人」。幽霊船に乗ってまた帰ってきそうな名前だが、魂は救済されただろうか。イニシャルはJ.C。イエス・キリストと同じだ。名前からして時代を背負って立つことを運命づけられていた……というのはウソだ。だって彼の息子で同じくサッカー選手になったジョルディ・クライフもJ.C.なんだし。ジョルディはそのサッカー選手としての才能を母親から受け継いだと言われたものだった。

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