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May 12, 2016

レスターのプレミアリーグ制覇

●岡崎慎司が所属するイングランドのレスター・シティが、とうとうプレミアリーグで優勝してしまった。レスターの快進撃についてはなんどか話題にしているが、まさか本当に優勝してしまうとは。だれがどう見ても降格争いをすると思われていた小さなクラブが、よりによって強豪のひしめくプレミアリーグで優勝する。自分がこれまでに見てきたサッカー・シーンで、こんなことは一度たりとも起きたことはないと断言できる。
●いくらか似た例なら挙げられるんすよ。たとえばブラックバーンが94/95シーズンで優勝したときとか。でもその頃のブラックバーンは豊富な資金を持っていたし、前年は2位だったはず。あるいはスペイン・リーグでデポルティボ・ラ・コルーニャが99/00シーズンに優勝したとき。バルセロナやレアル・マドリッドがいるスペインで人口約20万人の街のクラブが優勝するのは十分に奇跡といえるが、しかしそのデポルティボ・ラ・コルーニャにしても前年の成績は6位であり、ブラジル代表やオランダ代表の選手を擁していた。Jリーグとなるとそもそも絶対的なビッグクラブがいないので、どこが優勝しても奇跡のうちには入らない。どう記憶をたどってみても、今回のレスターのような例は思い出せない。
●なぜそんなに勝てたのか。後講釈だったらいくらでもできる。ヴァーディのスピードと決定力が、カウンターアタックに徹したチーム戦術にぴたりとハマった。マフレズの足元のテクニックとシュートの正確性、中盤で獅子奮迅の働きを見せたカンテ、岡崎の献身的なハードワーク等々。でも、それだけでマンチェスター・ユナイテッド、マンチェスター・シティ、アーセナル、チェルシーを凌駕した理由を説明できるだろうか。レスターはシーズンを通して、成長を遂げていった。というのも、序盤の快進撃はかなりのところ攻撃力に支えられていたから。並のチームと同様によく失点するけど、それ以上に得点するチームだった。それが徐々に守備を安定させ、だんだん1対0のようなスコアで勝てるような、チャンピオンチームらしい成績を残すようになる。レスターがビッグクラブたちと対等に戦える実力を持っていたことはたしか。ただ、肝心なところで幸運の女神がいくらか多めに微笑んでくれた面もあったとは確信している。主力選手がけがで長期離脱しなかったこと、ビッグクラブ勢がどこも問題を抱えて自滅していったこと。あと、ラニエリ監督の戦術とは別に、このチームには統計的なアプローチによる戦術や戦略が機能しているんじゃないかなと思わせるふしがある。
●で、この奇跡にはうれしい面とうれしくない面の両方がある。うれしいのは、なんといっても予算がないクラブでも栄光を勝ち取ることができるということ。レスターが優勝したってことは、どこのどんなクラブのファンだって夢を見ることができることを意味する。マネーゲームと化したサッカー界にも、ファンの夢はまだ生きていたのだ。うれしくないのは、これはカウンターアタックの勝利であり、ポゼッションの敗北であること。ほぼすべての試合でレスターはボール支配率で相手を下回っていたのでは。「ボールを持たないほうが有利なボールゲーム」って、どこか自己矛盾をきたしていないだろうか。「ボールは友達」じゃなかったのか。キャプテン翼が聞いたら泣く。レスターだからだれも文句をいわなかったが、毎シーズンのようにこんなチームが優勝したらサッカーを見るのが嫌になりそう。
●かつて名古屋グランパスでもプレイした、イングランド代表の名選手リネカーはレスターの出身。リネカーにとってレスターは心のクラブ。昨年、もしレスターが優勝したら自身が出演するBBCのサッカー番組にパンツ一丁で出演すると宣言して話題を呼んだ。で、本当に優勝してしまったわけだが、いったいだれがリネカーのパンイチ姿を見たいと思うのか。見たいとすれば、それはどんな種類のサッカー・マニアなのか。キャメロン首相はリネカーがこの公約を果たすべきと述べている。