●ようやく読んだ、「殊能将之 未発表短篇集」(講談社)。Kindle版は出ないのかなあと待っていたらちゃんと出てくれた。2013年に急逝した殊能将之の未発表短篇がまとめられている。長篇「ハサミ男」で衝撃のデビューを果たした殊能将之が、デビュー前にどんな小説を書いていたのか。そりゃ興味はわく。よく見つかったものだと思う。
●で、収録されているのは「犬がこわい」「鬼ごっこ」「精霊もどし」の3篇と、デビュー作刊行の際に友人である磯氏に宛てて綴った「ハサミ男の秘密の日記」。これはすでに「メフィスト」誌で一度掲載されているので既読なのだが、私信がこんなふうに短篇集に収録されていて違和感がないというのがすごい。これって私信なんだけど公開を前提に書かれているようにしか読めない。でもデビュー前なんすよ? どういうつもりだったんだろ。最後の一文は痛快。
●純然たる創作の3篇はミステリというよりは、「奇妙な物語」系というか、それこそ氏が翻訳したアヴラム・デイヴィッドスンが書いていてもおかしくないようなテイストだと思う。舞台設定が80~90年代の日本であることをのぞけば、60年代のF&SF誌あたりに載っていそうな古典的な風合いを持ったストーリーで、これに殊能将之ならでは切れのある文体が組み合わさって独特の魅力を放っている。特に「精霊もどし」がいい。「鬼ごっこ」は少々荒っぽくてピンと来ず。「犬がこわい」はミステリといってもいいのか。いずれにせよ、文体はデビュー後となんら変わりがないので、ファンなら必ず堪能できるはず。
●しかし本書に限ったことじゃないけど、登場人物がみんな携帯電話もスマホも持ってなくて、電話ボックスやイエデンを使っているというだけで、小説はみんな「昔の話」になっていくのだなあ。
May 26, 2016