●27日はトッパンホールでベルリン古楽アカデミーへ。「ヴェネツィアの休日」と題されたテッサリーニ、ヴィヴァルディ、カルダーラ、マルチェッロらの協奏曲とシンフォニア集。ベルリン古楽アカデミーでイタリア・バロック・プログラムというのが一見意外だが、すでに別の日にバッハ父子のプログラムがあり(そちらは行けず)、一日目と対照をなすイタリア・バロックの一夜。プログラムの最後に置かれたヴィヴァルディのヴァイオリンとオーボエのための協奏曲変ロ長調RV Anh.18は、ヴァイオリン協奏曲RV364を原曲としたドレスデン宮廷由来の作品ということで、ヴェネツィアの作曲家たちの国際性も意識された選曲というべきか。そういえばヴィヴァルディは最後にウィーンを訪れて没したのだった。
●コンサートマスターはゲオルク・カルヴァイト。大活躍のオーボエはクセニア・レフラー。ヴィヴァルディのオーボエ協奏曲ハ長調RV450、マルチェッロのオーボエ協奏曲ニ短調(突出して有名な曲)、前述のヴァイオリンとオーボエのための協奏曲と、オーボエが加わったときのごちそう感がなんともいえない。がっしりとした堅牢さを、進むにつれて弾けるような愉悦が上書きしていった感。
●アンコールにベネディッド・マルチェッロの合奏協奏曲イ長調よりアダージョ。舞台上にカルヴァイトがいないまま演奏が始まって「ん?」と思ったら、いつのまにか客席後方左奥の見えない場所に陣取っていて、舞台上と共演して空間の奥行きを感じさせるという趣向。さらにヴィヴァルディの弦楽のための協奏曲ハ長調RV114の第3楽章チャッコーナをもう一度、さらにノリノリで。楽しさ全開に。
2016年6月アーカイブ
ベルリン古楽アカデミー「ヴェネツィアの休日」
EURO 2016 ラウンド16 イタリア対スペイン、アイスランドの大番狂わせ
●自分が見た限り、今大会ベストマッチは文句なしにこの試合。イタリア対スペインという対戦カードは前回EURO 2012決勝の再現だが、あのときはスペインがイタリアをボッコボコにしたのだった。決勝なのに4対0という大差がついた。ゼロトップ・システム完成形の最強スペインがスペクタクルを展開したわけだが、イタリアは日程上不利なうえに試合中に2名の負傷交代が出て、しかもそのうちの二人目は(モッタなのだが)交代カードをぜんぶ切った後だったため、以降10人で戦うことになってしまったのだ(以上、4年前のおさらい)。となれば、イタリアが雪辱を期すためにどれほどの思いでこの試合に臨むかわかろうというもの。
●激しい雨のなか、キックオフから猛然とイタリアはスペインに襲いかかった。あまりのハイテンションに守勢に回るスペイン。これはまず見られない光景。事前に予想された「攻めるスペインに守るイタリア」という図式はどこにもない。今回のイタリア、スター不在とはいわれるが、気がつけばなかなかの大型チームになっている。前線のペッレは194センチで空中戦を支配。前半9分、フロレンツィのフリーキックからペッレが頭で合わせるが、これはデヘアがファインセーブ。今大会、ゴールキーパーのレベルの高さは尋常ではない。
●イタリアは2トップのコンビが機能している。長身のペッレとブラジル生まれのエデルによる2トップは、3バックのディフェンス・ラインともども、どこかクラシカルなテイストをもたらしている。前半33分、エデルがゴール前でフリーキック。強烈なシュートをデヘアがいったん止めるが、こぼれたところに猛然と走りこんだジャッケリーニが蹴りこみ、さらに跳ね返ったボールをキエッリーニが押し込んで、イタリア先制。すごい喜びよう。
●スペインは後半頭からノリートをアドゥリスに代えて修正を図る。イタリアは前半から相当飛ばしてきたので後半は足が止まるかも。と思っていたのだが、それでも必死に高い位置からの守備を続ける。スペインは次第にチャンスを作るようになったのだが、イタリアも徐々に守りの比重を高め、巧みにゲームをコントロール。スペインは途中出場のアドゥリスが負傷交代してしまう(4年前を思い出すが、立場は逆だ)。試合終了直前、攻めあがったスペインに対して、イタリアはカウンターからペッレがゴールを決める。イタリアの完璧な試合運び。そして、かつてEURO 2008、ワールドカップ2010、EURO 2012と主要大会3連覇を果たした偉大なチームは、ひとつのサイクルの終わりを迎えた。イタリア 2-0 スペイン。
●さて、残るもう一試合、イングランド対アイスランドで大波乱が起きた。開始早々にPKをプレゼントされてイングランドが先制したにもかかわらず、アイスランドはすぐさま同点ゴールを奪ったばかりか、さらに逆転ゴールまで決めて、そのまま逃げ切った。完全にノーマークだったチームがベスト8に進出。思わずアイスランドの人口を確かめる。人口は33万人。日本でいうとだいたい埼玉県所沢市とか秋田市と同程度である。つまり、所沢代表が欧州選手権に参加して、予選突破どころか本大会で決勝トーナメントに進出し、イングランド代表に逆転勝利したみたいな話であって、これはもうイングランドはどんな言い訳も不可能だろう。ロイ・ホジソン代表監督はショックのあまり辞意を表明。イングランドはEUからの離脱に続いて、EURO 2016からもまさかの逆転離脱。なにかの呪いじゃないのか。アイスランドによる最強男前伝説が誕生した。
●これで、ベスト8が出そろった。残るはポーランド対ポルトガルの「ポ」対決、ウェールズ対ベルギーの「一見地味だけど実はスーパースターが輝いてる」対決、ドイツ対イタリアの「一見派手だけど実はスーパースターが不足気味」対決、フランス対アイスランドの完全想定外対決。もうどこが優勝してもおかしくない。開催国フランスにはかなりプレッシャーがかかると思う。勝って当然と思われる反面、アイスランドは実際に強いはずなので(もう決勝まで進んじまえっ!)。日程面からは「ポ」対決の勝者が有利。こりゃ、「ポ」が来るんじゃないの。来るよ、来るよー、「ポ」、来ちゃうよ~。今回のEUROはおもしろい!!
EURO 2016 ラウンド16 フランス対アイルランド他
●EUROはラウンド16がいちばんキツい。選手がじゃなくてサカヲタのテレビ視聴者が。一日に3試合も放送されても絶対全部は見れないから。しかしここさえ乗り切れば、準々決勝からは1日1試合になる。耐えるしか。
●フランス対アイルランドは、開始早々にポグバのファウルからアイルランドにPKを与えるという波乱の幕開けに。ロビー・ブレイディが蹴ったボールはポストを叩いて内側に。わずか3分でアイルランドが先制。万一これで開催国が敗れてしまうとズッコケ感が半端ではないが、後半13分と後半16分に立て続けにグリーズマンがゴールを決めてフランスが逆転した。フランスは後半からカンテを下げてコマンを投入し、4-3-3から4-2-3-1にしてから攻撃が円滑化した、ようにも見えるのだが、はたして。
●アイルランドは「魂のフットボール」。攻撃は至ってシンプルで、難しいことはしない。大半はサイドからのクロスボールかロングボール。それでも気迫がこもっていて手強い相手。ただ、後半からはペースダウンし、後半20分にダフィがグリーズマンを後ろからのタックルで倒してレッドカード。アイルランド・サポーターたちがスタジアムで歌っているあの歌、あれを2002年のワールドカップ日韓大会でも実際にスタジアムで耳にして心動かされたことを思い出す。外国から見て感じのいいサポーター、ナンバーワンだろう。 フランス 2-1 アイルランド。
●ドイツ対スロヴァキアはドイツが完勝。ドイツの前線をどういうメンバーにするかが注目だったが、結局トップにマリオ・ゴメスを置いた。壊れていないものを直す必要はないということか。で、その下にドラクスラー、エジル、ミュラーを起用して、ゲッツェをベンチに。エジルのPK失敗があったのに3対0で勝ったんだから文句なしというべきなんだろうが、でもな。やっぱりマリオ・ゴメスで本当にいいのかと案じてる人は少なくないのでは。ドイツ 3-0 スロヴァキア。
●ハンガリー対ベルギーは、期待通りベルギーが快勝してくれた。ベルギーは4ゴールの大爆発。グループステージではなかなか点の入らない大会だと思っていたが、決勝トーナメントに入ると派手な試合も出てくるようになった。個々の選手の質からいえばベルギーは優勝候補のはず。右サイドのアタッカーのポジションをメルテンス(ナポリ)とカラスコ(アトレティコ・マドリード)で分担してるのがぜいたく。 ハンガリー 0-4 ベルギー。
EURO 2016 ラウンド16 スイスvsポーランド、クロアチアvsポルトガル、北アイルランドvsウェールズ
●いよいよ決勝トーナメントに突入したEURO2016。本当の戦いはここから。延長PK戦のケースも出てくる。さすがに全試合をじっくり見ることはできないのだが、メモ程度でも記録しておこう。
●まずはスイスvsポーランド。ポーランドにはレヴァンドフスキという絶対的なエース・ストライカーがいるのだが、そのレヴァンドフスキのプレイに無理な体勢からのシュートなど、焦りを感じる。39分、コーナーキックの守備からポーランドがカウンターで逆襲。左サイドを突破したグロシツキのクロスに中でブワシュチコフスキが合わせて先制ゴール。堅守のポーランドだけにこれで試合が決まってもおかしくなかったが、後半37分、スイスに今大会随一のスーパー・ゴールが飛び出す。決めたのはシャチリ。ゴール前でのやや後方への浮き球に対して、戻りながら斜めひねり回転オーバーヘッドシュートとでも呼ぶようなアクロバティックすぎるキックで、見事にゴールに突き刺した。これは伝説だ。ついに生まれた今大会初の(もしかしたら唯一の)伝説。1対1の同点に。
●語り草となるゴールが生まれたのだから、これでスイスが逆転するというのが筋というもの。ところが、そのまま延長戦に入り、それでも決まらずPK戦に。スイスはジャカが失敗し、ポーランドは全員決めた。ポーランドが初のベスト8へ。せっかくの伝説のゴールが……。スイス 1 (4PK5) 1 ポーランド。
●クロアチアvsポルトガルは一見強豪同士の戦いだが、スペインを倒して1位通過してきたクロアチアと、グループステージを3引き分けの勝点3でやっと通過したポルトガルでは立場が違う。前後半を通してクロアチアが約60%のボール支配率。これがイタリアだったら支配率4割は「戦略」のひとつだろうが、伝統的に細かいパスワークを身上とするポルトガルにとって4割は「劣勢」でしかない。攻めるクロアチアに対し、体を張って粘りの守りを続けるポルトガル。結果として90分で枠内シュートゼロの地味な試合に。延長後半、ポルトガルのカウンターから、左サイドに出たナニが逆サイドのクリスチャーノ・ロナウドにディフェンスの間を通してクロスを入れ、クリスチャーノ・ロナウドのシュートをキーパーが弾いたところに途中出場のクアレスマが頭でごっつぁんゴール。この場面が試合を通じて唯一ポルトガルが枠内シュートを打ったシーン。クォリティで上回ったのはクロアチアだったが、ポルトガルは勝負に勝った。
●クアレスマといえば若き日に鳴り物入りでバルセロナに入団したものの(独特のリズムを持った変態ドリブルが魅力だった)、その後鳴かず飛ばずで、トルコやUAEのクラブでプレイし、気がついたら32歳のベテランに。「期待はずれ」に終わった才人といった印象が強いが、今大会でヒーローになってくれないものだろうか。クロアチア 0-1 ポルトガル。
●ウェールズ対北アイルランド。ちょうどイギリスの国民投票で僅差でEU離脱派が勝利したという衝撃的なニュースがあった直後にこの試合。いっそのこと、EURO2016番外編で離脱派代表vs残留派代表で試合をしてはどうかと思っていたら、ウェールズ(離脱派)vs北アイルランド(残留派)が実現。この試合はハイライトしか見ていないのだが、スタジアム内にもEU離脱を巡るメッセージやチャントがあったようだ。報道によれば、北アイルランドのサポから「オレたちは残留に投票した。オレたちはバカじゃない」といったチャントも歌われたとか。しかし、試合は北アイルランドのオウンゴールが決勝点となってウェールズが勝利。暗示的というかなんというか、フットボール的には順当な結果なのだが……。ウェールズ 1-0 北アイルランド。
アシュケナージ指揮N響のシューマン&エルガー、EURO2016 グループステージ第3戦 スウェーデンvsベルギー
●23日はアシュケナージ指揮N響へ(サントリーホール)。シューマンとエルガーのダブル「交響曲第2番」プロ。メインプロが2曲あるようでうれしい。シューマンは第1楽章冒頭が印象的。自分のイメージでは4分の6拍子で揺らめくような弦楽器が前景にあって、その背後から金管楽器の主題が後光のようにさすところだが、アシュケナージの遠近感は逆で、金管主題が前面に出て、遠く背景で弦楽器が揺らめくという構図。第1楽章全般に弦を抑制気味で、管楽器の厚塗り気味のオーケストレーションがいっそう際立つ。提示部のリピートはあり。これはあったほうが断然楽しい。第3楽章も多くの場合は悲痛で鬱々とした音楽で、一歩まちがえると大変なことになりそう感があると思うのだが、アシュケナージが振るとどこか前向きというか、楽天的な感じすらする。新鮮。
●エルガーは以前の第1番のときも感じたけど、指揮者の思い入れがたっぷりで、ものすごく生々しい。第1楽章冒頭から、危ういくらいのタメを効かせて入ってドキドキ。それにしてもなんて高貴で威厳に満ちた音楽なんだろう。ディテールまで作りこんだ音楽を再現してくれるというよりは、その場その場に沸き起こる感興を大切にしたようなエルガーで、とても心を動かされた。客席の反応はばらけた感もあったが、定期でエルガーとなれば関心の度合いが分かれるのはしょうがないか。
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●さて、フランスで開催されるEURO2016は、グループステージが終了。一日休んで決勝トーナメントに入る。各組3位の明暗が分かれて、勝点4のスロヴァキアとアイルランド(メンバーを大幅に入れ替えたイタリアを倒した!)は文句なしの通過、勝点3は得失点差でポーランドと北アイルランド(!)が通過、トルコとアルバニアは惜しくも敗退となった。ま、まさか北アイルランドが通過していたとは。あと、小国アイスランドが残ったのもびっくり。
●決勝トーナメントの対戦表を見ると、なんだか妙に英国度が高い。イングランド、ウェールズ、アイルランド、北アイルランド。伝統的にイングランドに次ぐ強さと思われたスコットランドは予選落ちして本大会に出場していないので、ぜんぶ生き残ったわけだ。ということは、もしも、イングランドvs北アイルランドが実現したら、両国とも国歌斉唱で「ゴッド・セイブ・ザ・クイーン」を歌うってことっすよ! なにそれ。見てみたい!しかしそのためには両者決勝まで進む必要あり。
●グループステージ第3戦、スウェーデン対ベルギーは、両者勝ちたいという気持ちが強く、この大会では珍しくキックオフ直後からハイテンションのガチバトルになっていた。イブラヒモヴィッチの代表引退宣言直後とあって「オラオラオラオラ」と攻めまくるスウェーデン。ベルギーも負けずと個の力で攻める。それでも両キーパーのナイスセーブ連発もあり前半は0対0だったのだが、中身はエキサイティング。ポゼッションもパスの本数も五分五分。
●後半38分にベルギーのナインゴランの目の覚めるようなミドルシュートが決まり(よく見ると相手ディフェンスに当たってコースが変わっている)、これが決勝点となった。敗退決定したスウェーデンだが、どうもイブラヒモヴィッチが足枷になっていたように思えてしょうがない。突出したタレントだがオレ様意識が強すぎて、他の選手がみんなイブラヒモヴィッチの機嫌をうかがうようなプレイをしていて、楽しくない。自分の知ってるスウェーデンはこんなチームじゃない。一方、ベルギーはスターぞろいだが組織戦術がないと批判されているが、トップのルカクの動きを見ているとそれももっともだなと思う。オフ・ザ・ボールの動きがおざなりで「なんで、そこでニアに詰めてないの?」と苛立たせる。ルカクは足元で欲しいようだが、あれだけスピードとパワーに恵まれているんだから予測して走りこんで点で合わせてほしい。スウェーデン 0-1 ベルギー。
●スウェーデンのイサクソンにしてもベルギーのクルトワにしても本当にキーパーがうまい。今大会、キーパーの質が異様に高く、アジアとの差を痛感させられる。あとは審判のレベルも。ワールドカップでは絶対にありえない安心感。EUROはそこがいい。
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EURO2016 グループステージ第3戦 北アイルランドvsドイツ。僅差のワンサイドゲーム
●今までに一度でも北アイルランド代表の試合を見たことがあっただろうか。アイルランドならある。でも北アイルランド。同じ緑のユニで(もしかすると)似たようなスタイルのサッカーをしているのに、国歌はゴッド・セイブ・ザ・クイーンを歌っていて、やっぱりアイルランドとは違う。
●で、試合内容は一方的なドイツ・ペース。今大会で見た試合のなかで、いちばん個の力の差を感じた試合だったかも。北アイルランドはけれんのない魂のフットボールで、ドイツ相手にでも正々堂々と正面から立ち向かうので、おかげで次々とドイツがチャンスを作り出す。北アイルランドのキーパー、マクガバンがファインセーブを連発してしのいでいたが、どう考えてもこの守りでは耐えきれるはずはない、もっとパスの出どころからつぶしにかからないと……と思っていたら、前半29分についにマリオ・ゴメスに先制点を決められる。これはもう必然の失点。
●ドイツはゲッツェのいわゆる0トップシステムをあきらめ、トップにいかにもトップらしい長身のマリオ・ゴメスを起用した。マリオ・ゴメス、トルコ・リーグ得点王のベテラン。トルコ・リーグ得点王というのがドイツ基準で見てすごいんだかそうでもないんだか、なんとも微妙なところだが、とにかく結果は出した。サイドに回ったゲッツェは好機に決めきれず、どうも今大会、調子が上がらない。55分にシュールレと交代させられてしまう。人材がいくらでもいそうなドイツだが、この後トップをどうするかというのは悩みどころか。マリオ・ゴメスで解決したとは正直あまり思えないのだが……。
●結局、ドイツは追加点を奪えず、前半の1ゴールで勝利を決めた。ボール保持率は70%を超えるワンサイドゲーム。北アイルランドには前日のスロヴァキアと同様、守りに守って引き分ければ、勝点4の3位を確定させて決勝トーナメントに進むという戦略がありえた。しかし真正面から戦って敗北。ひとまず、勝点3という当落線上に留まることに。北アイルランド 0-1 ドイツ。
●この日は2グループの試合が行われたのだが、スペインvsクロアチアで、クロアチアがスペインに勝利してしまった。うーん、そっちの試合を見るべきだった! クロアチアは優勝候補の一角に食い込んでいる。
五嶋みどり&オズガー・アイディン デュオ・リサイタル、EURO2016 グループステージ第3戦 スロヴァキアvsイングランド
●20日はサントリーホールで五嶋みどり&オズガー・アイディン デュオ・リサイタル。ウィーン・プログラムとでも呼べる選曲で、リストの「ウィーンの夜会」から「ヴァルス・カプリース第6番」(シューベルト原曲、ヴァイオリンとピアノ用に編曲)、シェーンベルクの幻想曲op.47、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタ第40番変ロ長調K.454、シューベルトの幻想曲ハ長調。シェーンベルクとシューベルトの両幻想曲で、ブラームスとモーツァルトのソナタをはさむ格好。大ホールでのリサイタルという条件を逆手にとるかのようなプログラムで、広大な空間に合わせた大柄な表現で迫るのではなく、むしろ親密な雰囲気が醸成されていた。
●とりわけシューベルトが精彩に富み、情感豊かなピアノとともに満喫。端然としたモーツァルトとの対比も鮮やか。アンコールにクライスラー「愛の悲しみ」「愛の喜び」がほぼ続けて演奏されると、いっそう盛大な拍手が沸き起こった。客席が温かい。
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●話は変わって(変わりすぎだ)EURO2016のグループステージ第3戦、スロヴァキアvsイングランド。グループBの裏番組はロシアvsウェールズ。同時キックオフなのでどちらかしか見れないわけだが、1勝1分のイングランドの命運が気になってこちらを選択。イングランドは1位から3位までどんな可能性も残されていたのだが、ロイ・ホジソン監督は賭けに出た。先発を6人変更、ルーニーはベンチに。トップはヴァーディ。先の先まで進むつもりという宣言ともとれる。
●試合はイングランドが攻めまくった。スロヴァキアも戦う姿勢を見せて好バトルに。前半16分、ヴァーディが縦へのスピードで相手ディフェンスを置き去りして惜しいシュート。後半頭にスタジアムからゴッド・セイブ・ザ・クイーンの歌声。イングランドはルーニー、デレ・アリ、ケインと次々投入し攻勢を強める。後半途中からスロヴァキアは疲れのためかラインを押し上げられない。そこで、はっと気がついた。スロヴァキアはここで「引き分けで3位狙い」というラディカルな作戦を敢行しているのではないか。裏番組ではウェールズがロシアに3対0で快勝。スロヴァキアは同じ3位でも負けて勝点3と、引き分けて勝点4では大きく事情が変わる。前者なら決勝トーナメント進出はどうなるかわからないが、後者ならほぼ確実(あるいは確実?)ということなのだろう。
●スロヴァキアの目論見通り、イングランドは攻めあぐねて0対0で終わった。これでウェールズが勝点6で1位、イングランドは勝点5の2位で決勝進出決定。しかし喜んでいるのは勝点4の3位を確定させたスロヴァキアの選手たちのほう。一見奇妙な光景だが、合理的な戦略と讃えたい。スロヴァキア 0-0 イングランド。
EURO2016 グループステージ第3戦 スイスvsフランス。クロスバーと予定調和
●さて、今週からグループステージ第3戦へ突入。大会はここからがおもしろくなる。まずはグループAのスイスvsフランス、ルーマニアvsアルバニアが公平を期すために同時刻に開催。勝点4のスイスと勝点6のフランスは、お互いに引き分ければ決勝トーナメント進出できるという優位な状況にある。スイスは勝てばグループ1位になれるし、負ければ3位に転落する可能性もあることはあるという微妙な状況。フランスはパイエ、カンテ、マテュイディを休ませた。別に休ませなくてもフランスは1位通過なら中6日で次戦を迎えることができるので、コンディション調整というよりはチームの士気を上げるためだろうか。
●前半は両チームともファイトした。スイスがパスをつなぎ、ボール保持率で上回るのだが、ゴール前でのアイディアに乏しく、チャンスが作れない。フランスが相手に適度にボールを持たせながら、しっかりとゲームをコントロールしていた感。この大会はゴールポストが大活躍する大会で、この日も絶好調。前半、ポグバの強烈なミドルシュートをクロスバーが跳ね返し、後半には途中出場のパイエの強烈なシュートを弾き出した。このパイエのゴールは決まっていたら初戦に続くスーパー・ゴールだったと思う。
●ディテールで奇妙な事件がいくつかあった。後半8分、ボールがパンクした。スイスのジャカは試合中に2度もシャツを引き裂かれた(その度に新品が出てきた。いったいひとり何着まで用意してあるのか)。しかしゴールは生まれない。後半30分過ぎからは「もう、引き分けでいいよね」的な暗黙の了解がピッチで支配的になる。凡ミスをすれば話は別ということで、両者慎重にトーンダウンして試合を0対0で終わらせた。試合を通じてポゼッションで上回ったスイスだが、オン・ターゲットのシュート数はゼロ! トップに若手のエンボロを抜擢して、攻撃は活性化されていたとはいえ、あと一歩が足りない。着実に第2位を確定させたのだから、これはこれで彼らの成功なのだろう。スイス 0-0 フランス。
●裏番組はルーマニア 0-1 アルバニアで、アルバニアが歴史的勝利を収めた。試合終了後、まるで優勝したかのように喜びを爆発させるアルバニア。勝点3でグループ3位を確定させた。各グループ3位は成績上位の4チームが決勝トーナメントに進める。勝点3は十分に希望の持てる数字では。もし残れば大きなサプライズを起こすかも。
EURO2016 グループステージ ポルトガルvsオーストリア
●えー、オーストリア人もサッカーするの? 欧州にありながら(そしてフィジカル的にドイツ人とほぼ変わらないはずなのに)なぜかサッカー界では存在感がまったくなく、正直ニッポン代表より弱そうな国……と、思っていたら、なんと、今やオーストリアのFIFAランキングは10位! フランスやイタリアより上にいる。もうニッポンから見ればはるか彼方の高み。時代は変わる。キープレーヤーのアラバはバイエルン・ミュンヘン所属の23歳。ウィーン生まれで、母親はフィリピン生まれ、父親はナイジェリア人という家系(ってことは、アジア系と言えないこともない?)。
●で、クリスティアーノ・ロナウド率いるポルトガルと対戦。予想通りポルトガルがボールを保持して攻勢に出て、オーストリアは堅い守りで耐える展開。しかし、この日のクリスティアーノ・ロナウドは切なかった。後半、オーストリア守備陣の隙をついて決定機を2度ほど迎えるが、ともに決めきれず。後半32分には自らPKを獲得してこれを蹴るも、ポストに当てて失敗。さらに後半39分、クロスボールにゴール前でどフリーになって、今度こそ決めたと思ったらオフサイド。ひたすらクリスティアーノ・ロナウドが天を仰ぎ続けるという、割とよく見る光景が続く試合で、さっぱり盛り上がらないまま0対0で終わってしまった。ポルトガルは前の試合に続いて引き分けで、チャンスの山は築くが決めきれずに自滅している感。2試合を終えて勝点2という微妙な事態になってしまった。
●一方のオーストリアもFIFAランキング的には本命のはずが、これで1敗1分。これでグループFはぜんぜん注目していなかったハンガリーが勝点4でリード、アイスランドが勝点2という大混戦になった。なんというか、このグループは「まあ、ポルトガル以外は地味すぎるから見なくてもいいや」組だと思っていたのに、3節目がやたらとエキサイティングな状況に。うーむ、これは大誤算、テレビ観戦予定的に。ま、しょうがないか。
●ところで試合開始前の国歌だが、WOWOWの中継でオーストリア国歌は「モーツァルト作曲」とされていた。この曲、今はヨハン・ホルツァーの作曲というのが定説となっているようだが、CDでもモーツァルト作曲とされている例はいくらでもあるので、それはそれでありだとは思う。ケッヘル番号はK.623a。で、このテロップだけ見ると、「さすがオーストリアは国歌をモーツァルトに発注するのかー」と誤解する人もいるんじゃないかと思うが、そうではなくて既存の曲を国歌にしたわけだ。この手を使えば、どんな大作曲家にも国歌を作ってもらえるので、これから新たに国を作る人は新曲を委嘱するより既存の楽曲の活用を考えるのも一手ではないだろうか。などと、どうでもいいことを考えてしまう程度には、ぱっとしない0対0だった。ポルトガル 0-0 オーストリア。
EURO2016 グループステージ イタリアvsスウェーデン
●今大会は試合終了直前の劇的なゴールが多い。それだけおもしろい試合が多いともいえるが、一方でなかなか点の入らないじれったい試合が多いともいえる。つまり、前半は相手のミス待ちサッカー。相手が大きなミスをするか、こちらがスーパープレイを決めない限り、点は入らない。後半の半ばあたりから本当の勝負が始まって、だんだんリスクを冒すようになる。ドイツvsポーランドもそんな感じだったし(結果はスコアレス・ドロー)、イタリアvsスウェーデンもまさにその典型。
●スター不在のイタリアは前の試合に続いて守備意識が高い。前半はスウェーデンが攻め、イタリアが守る展開。なじみの薄い名前が並ぶイタリアに比べると、まだスウェーデンのほうが「知ってるチーム」感があるかも。トップにイブラヒモヴィッチ、トップ下にシェルストレーム他。あるいはベテランが多いというべきか。後半20分くらいからやっとスイッチが入って、勝負モードに。次第にイタリアが攻勢に出る。後半33分、スウェーデンはドゥルマズ、レヴィツキを入れて2枚替えを敢行するが流れは変わらず。後半36分、イタリアは左サイドからジャッケリーニがクロスを入れ、中でパローロがヘッド、これがクロスバーを叩く。なんと、これが両チームを通じて最初の枠内シュート。苦笑。ていうか、クロスバー叩くのは枠内シュートにカウントされるのか。どんだけチャンスの少ない試合なのよ。
●で、この盛り上がらない試合があとわずかで終わるという後半43分、イタリアのスローインから、エデルが左サイドから中央へとドリブルで切れ込み、3人くらいいたディフェンスを全部ひっぺはがしてシュート、ついに先制ゴール。最後の最後で爆発的なドリブルを見せてくれたエデル。終わってみれば枠内シュートはスウェーデンがゼロ(!)、イタリアも3本のみ。楽しいサッカーには程遠いが、前の試合に続いてこれぞイタリアという勝ち方を見せてくれたという意味で、妙な満足感があった。 イタリア 1-0 スウェーデン。
EURO2016 イングランドvsウェールズ
●よもやこんな対戦カードが実現するとは。これは英国ダービーっていえばいいんだろうか? 試合開始前の国歌、イングランドはもちろんゴッド・セイブ・ザ・クイーンを歌う。でもウェールズは違う曲を歌うんすね(ちなみに北アイルランド代表はゴッド・セイブ・ザ・クイーンを歌うのだが、そのあたりの理屈はよくわからない)。
●ウェールズは3-5-2のスタイル。前半からイングランドに押し込まれていたが、42分、前の試合に続いてまたもベイルがフリーキックからゴール。かなり距離はあったが、GKウェイン・ヘネシーの手をかすめるようにして入った。よもやの(でも少し期待していた)ウェールズ先制。後半頭からイングランドは大胆にも2枚替。ケインに代えてレスターで大活躍のヴァーディ投入、さらにスターリングをスタリッジに交代。この交代策がさっそく実って、56分に左サイドからスタリッジが入れたクロスがこぼれたところにヴァーディが詰めて同点ゴール。猛烈に喜ぶヴァーディ。
●前の試合で勝利しているウェールズはこのまま引き分けても十分だったはず。一方、イングランドはロシア相手にロスタイムの失点で引き分けてしまっている。勝たなければいけないのはイングランドのほう。92分、タイムアップ寸前になって、スタリッジがペナルティエリア内にワンツー(スリー)で侵入し、個人技で相手を交わして劇的な逆転ゴール。なんだか今回の大会はロスタイムでのゴールがやたらと多い。
●まだ1対1でウェールズが耐えていた終盤の時間帯、カメラはウェールズのゴール裏で男泣きしているサポーターを映した。気持ちはよくわかる。天下の晴れ舞台で、あのウェールズがここまで堂々とイングランド相手に渡り合っているという状況そのものに感激して、もう耐えきれなくなって泣いてしまう。「まだ10分くらい試合が残ってるのに、すでに決勝トーナメント進出が決まったと思い込んで嬉し泣きしていた愚か者」などではないはず。 イングランド 2-1 ウェールズ。
EURO2016 フランスvsアルバニア
●EUROは各国2試合目へ。初戦で苦労の末に勝利を拾った開催国フランスは、アルバニアと対戦。アルバニアはこれが主要国際大会の初出場。えっ、アルバニアって、どこよ? と思う方もいるかもしれないが、バルカン半島南西部に位置する人口300万人ほどの国なのである(今検索した)。これまではアルバニアといえばモーツァルトの「コシ・ファン・トゥッテ」でフェルランドとグリエルモが変装してなりきる怪しい色男たちのことしか思い浮かべなかった全世界のフットボール・ファンも、これからはEURO2016で開催国を追いつめた闘士たちとして記憶に留めることであろう。
●なにしろ予選を突破してEURO本大会に出場しているんだから、アルバニアが弱小国であるはずがない(ちなみにオランダは予選落ちだ)。布陣は4-5-1のようだが、実質的に思い切り割り切った全員守備で、フランスを相手に守りに守る。フランスはポグバとグリーズマンをベンチに温存して(?)コマンとマルシアルを起用したが、ボールは持てるもののゴールどころか、チャンスらしいチャンスが作れない。むしろアルバニアがセットプレイから得点を決める可能性のほうが高いんじゃないかと感じたほど。前半の見どころは唯一、コマンが右サイドのライン際で華麗なマルセイユ・ルーレットで相手を抜いた場面。会場はマルセイユ。まさに本場のルーレット、あたかもジダンへのオマージュのごとく。
●後半フランスは、ポグバ、さらにグリーズマンを投入して攻勢を強める。後半24分、ジルーのヘディングがポストに当たったのは不運。しかしアルバニアの魂の守備も立派なもので、後半になっても運動量が落ちない。このまま走り勝ってスコアレスのまま勝点1をゲットできそう……と思われたが、終了直前、右サイドからのクロスに走り込んだグリーズマンが頭で合わせてゴール。ずっと集中していたアルバニア守備陣だが、最後の最後にマークがずれた。痛恨。さらに長いロスタイムに、前がかりになったアルバニアから、フランスがカウンターアタックで追加点。得点はパイエ。アルバニアは歴史的な勝点にあと一歩のところまで迫っていたのに、スコアだけを見ればだれもが予想した通りの平凡な結果に終わった試合だった。奇跡と凡戦は紙一重。フランス 2-0 アルバニア。
クァルテット・エクセルシオのベートーヴェン・サイクルIV
●15日はクァルテット・エクセルシオのベートーヴェン・サイクルIV(サントリーホール・ブルーローズ)。恒例、サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデンでのベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲シリーズだが、今年初めて日本のクァルテットが登場することに。この日は弦楽四重奏曲第1番op.18-1、弦楽四重奏曲第9番「ラズモフスキー第3番」、弦楽四重奏曲第14番op.131という初期、中期、後期から一曲ずつが配されたプログラム。ボリュームたっぷり。
●練りあげられたベートーヴェンを聴いたという充実感。特に「ラズモフスキー第3番」での一体感、終楽章での高揚と白熱を存分に満喫。十分に起伏に富んでいるのだが、極端ではない。これまでの印象から、ついこのシリーズにはクレイジーなくらいの強烈でパワフルなベートーヴェンを期待してしまう気分もあるのだが。第1番と「ラズモフスキー第3番」ですでにお腹いっぱいになってしまい、これで終わってもおかしくないくらいだったが(休憩中、隣の大ホールからメインプロである辻井伸行のベートーヴェン「皇帝」が聞こえてきた。交錯するベートーヴェン)、さらに後半に第14番。延長PK戦まで戦い抜いた感。長さだけではなく、内容的にも交響曲を3曲聴くのと変わらない。
●ベートーヴェンの全弦楽四重奏曲をどう割り振るかっていうのは、まるでパズルみたい。全5公演だとop.18をどこかで2曲以上入れなきゃいけないのが難しい。かといって全6公演に割り振ると、メインプロに置きたい後期の曲が一曲足りなくなる。そして「大フーガ」はワイルドカードとしていろんなパターンで使用可能。5公演での多牌感と6公演での少牌感が多様性を生み出している。
EURO2016 ドイツvsウクライナ、ベルギーvsイタリア
●今回のEURO2016、優勝候補の筆頭はドイツだろう。続いてスペイン、フランスあたりか。どの大会でも一致団結して全力を尽くすドイツだが、特にゆかりのない者から見ればドイツの勝利くらい見飽きたものはなく、よほどの変人でない限り彼らを応援する理由はない、おまけに連中のフットボールと来たら強いかもしれないがおもしろくもなんともない……という伝統的ドイツ観は今や過去のものになりつつある。今のドイツはエジルをはじめ好選手がそろってて、見ていておもしろかったりするんすよね、悔しいことに。おもしろくても腹立たしいし、つまらなくても腹立たしい、それがドイツ代表。
●で、ドイツ対ウクライナだが、さすがにドイツのメンバーは充実している。4-2-3-1の布陣で、トップは一応ゲッツェで、いわゆるゼロトップ的なスタイル。トップ下にエジル、サイドにミュラーとドラクスラー、セントラルミッドフィルダーにはクロースとケディラ。最後尾には異能のキーパー、ノイアーが立ちはだかる。開催地はフランスだがほとんどドイツのホームのような大声援。前半19分にクロースのフリーキックからムスタフィが頭で合わせてあっさり先制ゴール。しかしウクライナも負けてはいない。前半37分、コノプリャンカのシュートがノイアーの脇をすりぬけてゴールにもうほとんど入った、というところでゴールマウスに飛び込んだボアティングがボディバランスを崩しながらもライン上ぎりぎりで奇跡のクリア。ありえない身体能力、そしてあの場面であきらめない執念がドイツの伝統。ゴールライン・テクノロジーが導入されているおかげで、ウクライナも抗議のしようがない。
●後半はウクライナがチャンスを作れなくなる。時間とともに防戦一方になり、足が止まる。かなり前半から飛ばしていたのか。ノイアーの前に飛び出しすぎるくらい飛び出す守備は健在で、思い切り前に出ているところに味方のバックパスがふわりと飛んできてあわやの場面も。ロスタイムではコーナーキックの守備から、カウンターを発動、エジルが交代出場したシュヴァインシュタイガーにアシストして、2点目。相変わらず隙もなければ、容赦もない。全チームにとって打倒ドイツが最大の課題。ドイツ 2-0 ウクライナ。
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●ベルギーvsイタリアは「静かな番狂わせ」に終わった。時代は変わるもので、現在ベルギーはFIFAランキング2位、欧州では最高位。イタリアは12位だ。先発メンバーの顔ぶれを見ると、この順位以上の差がついているとすら思える。だってベルギー(4-2-3-1)はルカクがトップで、その下にアザール、デ・ブルイネ、フィエライニがいるんすよ。キーパーはクルトワと来たもんだ。一方、イタリア(3-5-2)はペッレとエデルの2トップ。えっ、だれよ?って感じだ。中盤もかなり地味。いつもならひとりふたりいるスーパースターが見当たらず、「史上最弱」の前評判も聞かれるほど。実際、ボールはベルギーが支配、攻めるベルギーに守るイタリアの図。
●ところが、32分、ハーフウェーライン手前からボヌッチの長距離縦パス一本が、ディフェンスラインの背後に抜け出たジャッケリーニに通り、これを冷静にゴール。なんのアイディアもないが、出し手の受け手の完璧な同期によってイタリアが先制する。その後もベルギーは攻めるが、ボールを持たされている感が強く、イタリアの堅い守備を崩せない。ベルギーのヴィルモッツ監督は試合終了後に「イタリアはカウンターだけに集中した戦いをしていた。彼らは本当のサッカーをしていない」と苦言を呈したそうだが、何十年も前からイタリアはそういう戦いが得意だったのでは。個の力では勝るベルギーだが、中盤での不用意なミスが目立ったのと、攻守の切り替えが遅い、言い換えれば選手間の連動性の不足が試合を難しくしてしまったと思う。
●そしてロスタイム、攻め込んだベルギーからボールを奪って、イタリアが「どカウンター」発動。ゴール前でカンドレーバはいったんシュートチャンスを失ったように見えたが、ファーに上がってきたフリーのペッレに慎重にクロスをあげ、ペッレがこれを難なく決めて追加点。ここでベンチから控えメンバーもピッチ内に飛び出して、もう試合が終わったかのように狂喜乱舞するイタリア。あっけにとられるが、本当にそのままどさくさに紛れるようにいつのまにか試合終了の笛が鳴っていた。真っ正直に戦ったベルギーが、イタリアの狡猾な罠に見事に引っかかってしまった。ベルギー 0-2 イタリア。
鈴木雅明&東響のサン=サーンス「オルガン付き」他
●11日は東京オペラシティで鈴木雅明指揮東京交響楽団。モーツァルトの「魔笛」序曲、交響曲第41番「ジュピター」、サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」というプログラム。鈴木雅明さんはモダンオケもたくさん指揮しているので驚きではないにせよ、東響との共演は新鮮。前半のモーツァルトはトランペットがピリオド仕様で、弦のヴィブラートも抑制。弦楽器の並びは通常配置。東響はスダーンとともにたびたびピリオド・スタイルのモーツァルトを聴かせてくれたが、じゃあこのコンビだとさらにピリオド全開になるかというとそうはならないのがおもしろいところ。むしろいつになく重々しい響きが東響から出てくる。予想外に力感あふれるモーツァルトで、熱い。リピートしてもテンションを下げることなく輝かしいフィナーレへと驀進する「ジュピター」。
●「オルガン付き」の独奏者は鈴木優人さんで、父子共演が実現。いや、BCJでは年がら年中父子共演しているわけだが……。しかし指揮台とオルガニスト席とで上下に親子がそろう図というのがまぶしすぎる。編成を増していっそう音楽は熱を帯び、壮大なスペクタクルがくりひろげられた。サン=サーンスの交響曲第3番はフランス版「運命交響曲」だと思っているんだけど、この重厚さとカロリーの高さはまさしく。
●今、頭のなかがすっかりEURO2016脳と化しているので、この日のプログラムにオーストリアvsフランス戦を幻視する。両者の激しいバトルは、オーストリアが持ち味を発揮するもフランスがパワープレイで押し切った感。
EURO2016開幕。フランスvsルーマニア、ウェールズvsスロヴァキア
●4年に1度のサッカー欧州選手権 UERO2016 が開幕。今年の開催国はフランス。次回より複数国での分散開催が決まっているので、一か国で開催される大会としては当面最後のEUROということになる。そして、今回から出場国が24か国に増えた(前回までは16か国)。なにしろ「ヨーロッパ」に属する国の数が一昔前よりずっと多くなっているので、これはわかる。とはいえ24か国というと、かつてのワールドカップと同じ規模。グループリーグ4か国のうち、上位2チームと好成績の3位チームが決勝トーナメントに進出できるという方式が、なんだか懐かしい。
●で、開幕戦は地元フランスvsルーマニア。当然のことながら、日程は開催国に有利なように組まれている。決勝戦の日付は全チームにとって同じだが、開幕試合はチームごとに違うわけで、先にスタートしたほうが休息日が増えるのは必然。初日はこの一試合だけが行なわれるという厚遇ぶり。これですっかりかませ犬みたいに思われているルーマニアがフランス相手に一泡吹かせればおもしろいことになるのだが……。
●フランスは醜聞の影響でベンゼマを招集せず。前線にはグリーズマン、ジルー、パイエ。中盤にはレスター優勝の立役者となったカンテ、ポグバ、マトゥイディ。もうひとつ派手さには欠けるものの、ルーマニアと比べれば個々の選手の力で優位に立つ。で、ルーマニアは引いて守るかと思えば、開催国相手に一歩も引かずに堂々とわたりあった。布陣は互いに4-3-3。序盤の最初の決定機でルーマニアが先制していてもおかしくなかったのだが、57分にジルーのゴールでフランスが先制。65分にPKでルーマニアが同点に追いつく。キーパーのファインセーブもあり、どちらが決勝点を奪ってもおかしくない展開が続くなか、ようやく89分にペナルティエリア外からパイエが豪快なミドルシュートを決め(これはスゴすぎ)、最後は個の力でフランスが勝利。やはり開幕戦のプレッシャーはあったのか、あるいはルーマニアに予想外の地力があったのか。フランスはドローでもおかしくない試合に勝ててしまったというのが率直な印象。フランス 2-1 ルーマニア。
●大会二日目で注目したのはダークホース同士の戦いで、ウェールズvsスロヴァキア。今まで国際大会で注目されることのなかったウェールズだが、昨年一瞬だけどFIFAランキングでイングランドを上回ってトップ10入りの快挙。ベイルやラムジーがいて、顔ぶれは地味ではない。しかしスロヴァキアにもハムシクがいる。お互いにチャレンジャーの立場らしく、オープンかつ激しく戦う見ごたえのある好ゲームだった。前半10分、鮮やかなベイルのフリーキック。スーパースターの貫禄。後半にスロヴァキアが追いつくも、81分、ゴール前にラムジーがバランスを崩しながらも侵入してパスを出し、これを受けたロブソン=カヌがボールをかすめる当たり損ねのようなシュートで決勝ゴール。ウェールズ 2-1 スロヴァキア。この組はほかにイングランドとロシアが同居しているのだが、激戦区になることは必至。特にウェールズ対イングランドが熱そう。
●中継で選手の所属クラブを見ていて気がついたんだけど、ルーマニアとかスロヴァキアの場合は、「海外組」にも西欧のリーグで活躍する選手のほかに、東欧や、さらには中東のクラブに所属する選手もいる。カタールのクラブでプレイしてたりとか。これってサッカー地理的にいえば「アジア組」の選手なんすよね。EURO出場選手の「アジア組」ベストイレブンとか組めないものだろうか。
ヒラリー・ハーンのヴァイオリン・リサイタル
●8日はオペラシティでヒラリー・ハーンのヴァイオリン・リサイタル(東京オペラシティ)。ピアノはコリー・スマイス。今回も果敢なプログラム。前半にモーツァルトのヴァイオリン・ソナタ ト長調K.379とバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番ハ長調、後半&アンコールはコープランドを別とすれば自らが委嘱した作品ばかり。アントン・ガルシア・アブリルの「6つのパルティータ」より第2曲「無限の広がり」、第3曲「愛」、コープランドのヴァイオリン・ソナタ、ティナ・デヴィッドソンの「地上の青い曲線」。ティナ・デヴィッドソンはアンコールが前もって本編に組み込まれているようなものだが、続いてアンコールとして、佐藤聰明「微風」(作曲者臨席)、マーク・アントニー・ターネジ「ヒラリーのホーダウン」、マックス・リヒター「慰撫」と続く。ティナ・デヴィッドソン作品以降はいずれもDGでレコーディングも果たしている「27のアンコールピース」プロジェクトの一環として委嘱された小品。
●前半のバッハが圧巻。異次元の巧さに場内絶句といった感。盛大な喝采が寄せられてひとまず充足できたわけだが、で、後半はどうなるかといえば、みんなぞろぞろと帰り出す……わけはなくて、しっかりお客さんは付いてきてるんすよ。いやー、ホントはバッハをもう一曲聴きたくないすか、みたいなイジワルな心の声に惑わされつつも、思い切り楽しむ。コープランドは少しジミな選曲かなと思いきや、これがとても味わい深く聴けるヒラリーの魔術。見たこともないアメリカの原風景を想像して仮想ノスタルジーに浸りつつしみじみと聴き入る。ティナ・デヴィッドソンは「地上の青い曲線」の題名通りの爽快な曲で、左手ピツィカートとハーモニクスを使った澄んだイントロダクションに続いて、のびやかなメロディが延々と繰り出されるという、果てしなく続く青空感。佐藤聰明「微風」で癒され、軽快なターネジ「ヒラリーのホーダウン」に胸がすく。
●で、これで終わりかな、終わってもおかしくないけど、なんだか一曲くらいはもっと激烈な曲、クレイジーな曲があってもいいんじゃないかなと期待しなくもない。が、最後にやってきたのはマックス・リヒターだった。かなりしっとりとアンビエントな(?)雰囲気で終わったのだが、これが目下自分にとって踏み絵みたいになっている痛いところを突かれた気分。LFJの「四季」リコンポーズドはどうしようかとさんざん迷った末に見送ることにしてしまったのだが、うーん、もう少しお友達になるべきなんだろうか、ポスト・クラシカル全般に。と迷い中。
METライブビューイングの「エレクトラ」と来シーズン
●6日はMETライブビューイングでR・シュトラウスの「エレクトラ」。今シーズン最後の演目。サロネン指揮、パトリス・シェロー演出。ニーナ・ステンメ、ヴァルトラウト・マイヤー、エイドリアン・ピエチョンカら歌手陣充実。もう明日(金)で上演が終わってしまうんだけど、これは強烈。ニーナ・ステンメの怪女っぷりがすごい。2時間弱、休憩なしで見やすいといえば見やすいが、休憩がないのでライブビューイング名物の幕間インタビュー等はなし。ダークグレーをベースとした簡素な舞台で、現代風の衣装を着た登場人物がどこでもない場所の物語として演じる「エレクトラ」。シェローの緊張度の高い凝縮された演出ではあるんだけど、気分はすっかり映画館モードなので(カップホルダーに飲み物を置くと一気にそうなる)むしろウルトラ長大な交響詩が作り出す響きの芸術に身を浸すといった気分に。
●で、来シーズンのラインナップが発表されている。第1作が「トリスタンとイゾルデ」新演出。ラトル指揮というのがびっくり。ここでもニーナ・ステンメが登場、イゾルデを歌う。トリスタンはスチュアート・スケルトン。こういった体力の要るものこそ映画館が向いていると思うのだが(カップホルダーあるし)、マリウシュ・トレリンスキの演出がどう出るか。過去にMETライブビューイングではチャイコフスキー「イオランタ」&バルトーク「青ひげ公の城」のダブル・ビルがこの人だったっけ。あのときはイオランタのハッピーエンドの後日譚を「青ひげ公の城」のユディットに見るという鋭く暗い視点があったのだが、「トリスタンとイゾルデ」でもなにか驚きがあるんだろうか。
●あと第3作がサーリアホの「遥かなる愛」。東京オペラシティの「コンポージアム2015」で演奏会形式で上演されている。コンポージアムとMETで同じ演目が上演されるとは。指揮はスザンナ・マルッキ。演出はロベール・ルパージュなので、視覚的には引きの強い舞台になりそう。ストーリーはむしろMET向きというか、「トリスタンとイゾルデ」と共鳴するところ大だが、音楽的には集中して聴き続けるのは容易ではないはずなので、はたして客席の反応はどうなることやら。
ニッポンvsボスニア・ヘルツェゴビナ代表@キリンカップ2016
●キリンカップの第2戦は対ボスニア・ヘルツェゴビナ戦。ハリルホジッチ監督の母国との対戦となった。キリンカップって「大会」の形式なので、この試合はデンマークを破ったボスニア・ヘルツェゴビナとの決勝戦っていう位置づけ。せっかくデンマークも来てるんだったらそっちとも試合をしたかったと思わなくもない。
●で、ボスニア・ヘルツェゴビナだがEURO出場権も逃しているし、主力選手も何人か欠いているようではあるが、FIFAランク20位というずっと格上の相手。士気も高く、コンディションもいい。そして平均身長でニッポンを10cmも上回る高さに驚く。特にトップのジュリッチは199cmという異次元の高さ。おまけに足元もしっかりしている。
●ニッポンの布陣は、GK:西川-DF:酒井高徳、吉田、森重、長友(→槙野)-MF:長谷部(→小林悠)、柏木(→遠藤航)-浅野、清武、宇佐美(→小林祐希)-FW:岡崎(→金崎)。香川と本田をコンディション不良で欠くが、おかげでいろいろな選手を試せた。序盤からボールがよく回り、相手ディフェンスをたびたび崩す。宇佐美は左サイドからドリブルでカットインする得意の形でなんども脅威を与えていた。前半28分、その宇佐美の仕掛けからニアサイドの清武に合わせて先制ゴール。ここまではすばらしい好ゲームだったが、1分後にすぐに失点。ディフェンスラインの裏へのパス一本でホジッチに頭で合わされ、西川が弾いたところにジュリッチが押し込んで同点。
●後半から柏木を遠藤航に交代。前の試合に続いて機能したことから柏木のめどが立ったということでもあるだろうし、この相手にはより中盤の守備力が必要ということでもあったのだろう。高さとパワーの勝負になれば局面でほぼ確実に負けてしまうので、ボールの出どころを抑えたい。しかし、後半21分、ステバノビッチのアシストからまたもジュリッチが足で決めて逆転。腹立たしいことに199cmのジュリッチに2度も足で決められてしまった! ちなみにジュリッチの所属はイタリアのチェゼーナ。今のニッポン代表選手の所属クラブから見れば「へー、チェゼーナなの、今セリエBだっけ?」くらいに軽くあしらいたいところだったのに、よりによって足で2ゴール。あーあ。
●その後、ニッポンが一方的に攻め込むが、最後の最後で決めきれず1-2で試合終了。ムッ。久々にかなり悔しい。なんでこんなに悔しいのかといえば、それはたぶん「強豪相手に好ゲームをやって勝てるんじゃないか」という手ごたえが途中まであったから。ニッポンのボール保持率は高かったが、ムダにパスを回している印象はなく、ハリルホジッチが目指しているであろう効率的な攻めがかなりできていたと思う。ただ、それでも簡単な形で失点するのが残念すぎるし、フィジカルで圧倒的に劣勢に立たされたときの脆さには激しく既視感あり。
●と、負けてかなり気分が悪かったのだが、落ち着いて振り返ればW杯最終予選に向けたテストとしては収穫が大きかった。香川も本田もいなくても、清武、宇佐美で中盤は成立する。浅野は終盤の決定機にパスを選び悔いが残るが、前の試合の初ゴールでハッピーエンドになるよりはこれくらいでちょうどいいのでは。磐田の小林祐希は代表デビュー。小林悠とともにダブルY.Kobayashiが実現。しかしインパクトは残せず。槙野の左サイドバックは微妙。五輪が終わったら、遠藤航と浅野はフル代表に定着してほしいものだが、どのタイミングで欧州に移籍するか(あるいはしないのか)が難しいかも。
ネゼ=セガン指揮フィラデルフィア管弦楽団のブルックナー、實川風ピアノ・リサイタル
●3日はサントリーホールでヤニック・ネゼ=セガン指揮フィラデルフィア管弦楽団。前半にシベリウスの交響詩「フィンランディア」と武満徹の「ノスタルジア アンドレイ・タルコフスキーの追憶に」(独奏:五嶋龍)、後半にブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」というバラエティに富んだプログラム。明るい音色、強力なブラス・セクション、そしてネゼ=セガンの伸びやかな音楽を堪能。特にブルックナーが新鮮。ぜんぜんドイツ的ではない。ネゼ=セガンが描き出すのは鬱蒼とした森ではなく、スカッと晴れわたる青空のようなブルックナー。健やかで歌心にあふれた、さわやかさんなブルックナーがありうると知る。ときおり、えっ、そこを強調するの?みたいな違和感があったり、歌い回しに過剰さを感じることもあるんだけど、独自のスタイルに一貫性が感じられて説得力大。終楽章は壮麗で、オーケストラに100%力を出し尽くしたという充実感がみなぎっていた(ような気がする)。とりとめのないプログラムかと思ったけど、3曲に一貫するのは無国籍性だったのかも。フィンランド的、日本的、ドイツ的であることからの自由さ。
●4日は渋谷のさくらホールで實川風ピアノ・リサイタル。2015年ロン・ティボー・クレスパン国際コンクール第3位の新鋭。「風」って書いて「かおる」って読むんすよ(男性です)。う、美しすぎる。しかも名前だけじゃなくて本人もカッコいい。全席完売。プログラムがずいぶん多彩で、ショパン、ベートーヴェン、ヌーブルジェ、ビゼー、ドビュッシー、リストの作品が並ぶ。作曲家としてよりもピアニストとしてもおなじみのジャン=フレデリック・ヌーブルジェの作品は「メリーゴーランドの光~ピアノのためのタンゴ」で、前述のコンクールの課題曲。どれも大いに聴きごたえがあったが、特にベートーヴェンの「ワルトシュタイン」に圧倒される。集中度が高く、堂々たる本格派。端然と彫琢された音楽の形を崩すことなく、豊かなパッションが注ぎこまれているのがすばらしい。超越的なリスト「ダンテを読んで─ソナタ風幻想曲─」にも引き込まれた。アンコール数曲。ぜひまた聴きたいピアニスト。
ニッポンvsブルガリア代表@キリンカップ2016
●週末はコンサートもあれこれあったのだが、遅ればせながらニッポン代表のブルガリア戦を。
●実は5年ぶりに開催されるキリンカップ。第一戦の相手はブルガリア代表。かつては国内リーグがシーズン中の日本代表と、欧州がシーズンオフに入った後に召集される海外の代表チームが戦う大会だったわけだが、今やニッポン代表も欧州でプレイする選手が大半になったので、立場は先方もこちらも似たようなものになった。逆に言えばシーズン中バリバリのJリーグ組はチャンスでもあり。
●メンバーはGK:川島-DF:酒井宏樹、吉田(→昌子)、森重、長友-MF:長谷部(→遠藤航)、柏木-小林悠(→浅野)、清武(→原口)、香川(→宇佐美)-FW:岡崎(→金崎)。本田がコンディション不良のため小林悠が先発したのが目を引く。川島が久々に復帰。所属クラブはどうなるのか。柏木をセントラルミッドフィルダーとして使っている。後方からプレイメイクするような従来の遠藤のイメージ。
●ブルガリアはまもなく開催されるEURO2016の出場権を獲得していないので、すでに選手たちはオフシーズンのコンディションだろう。プレイが軽い。そこでニッポンのホームゲーム。当然のようにニッポンがボール支配率で勝り、次々とチャンスを作り出す。ニッポンの攻撃の精度も高かった。前半4分、柏木が浮き球でラインを抜け出す岡崎の頭に合わせて、あっさりと先制。前半27分は柏木が左サイドの長友に展開、これをフリーでクロスを挙げるとファーの香川にドンピシャ、頭でゴール。さすがに余裕があるとこれくらいの精度のクロスが来るのか、という見事なプレイ。さらにゴールラッシュが続いて、前半でまさかの4ゴール、終わってみれば7対2というスペクタクル満載のゲームというか、大味なゲームというか。近年まれに見るスコア、しかも曲がりなりにも欧州の代表チーム相手にこんなスコアが実現するのだから驚き。
●ドイツでの評価の高さの割に近年の代表では立ち位置の微妙な清武が本領発揮。このポジションは交代出場した原口をはじめ、競争が激しい。2列目は国内組も含めて大激戦区。小林悠はあまりいい形でボールをもらえず持ち味を十分発揮できず。川島はビッグセーブを見せた。なにも衰えてはいないように見える。柏木は非常によかった。U23ではベンチに座りがちな浅野拓磨だが、ハリルホジッチの評価は高いのかフル代表に呼ばれ、交代出場。ペナルティエリア内で切れ味鋭い個人技で相手を交わし、ファウルを誘ってPK。猛烈なスピード。これを自分が蹴ると強く主張して(チームの約束事では宇佐美がキッカーだった模様)、代表初ゴールを決めた。ジャガー・ポーズも披露。いずれ代表のエースになってもらわねば。
ユーリ・テミルカーノフ指揮サンクトペテルブルグ・フィル、ネゼ=セガンとMET
●2日はサントリーホールでユーリ・テミルカーノフ指揮サンクトペテルブルグ・フィル。ショスタコーヴィチの交響曲第7番「レニングラード」一曲のみという潔いプログラム。この一週間は偶発的にできたロシア音楽強化週間でネーメ・ヤルヴィ&N響、ウルバンスキ&東響、カラビッツ&読響ときて、掉尾を飾るのがサンクトペテルブルグ・フィル。すさまじい「レニングラード」だった。オーケストラの響きは鋼のように強靭ではあるが、思った以上に洗練された響きでもあり。これはこれでベルリン・フィルともウィーン・フィルとも北米のオーケストラとも異なる別の体系に基づく、最高度に究められたサウンドなのだと思う。戦争交響曲でありパロディ交響曲でもある多義性を内包する作品だが、シリアスな要素が前面に打ち出されていた感。バージョンアップされた交響曲第5番、というと語弊があるか。終演後は盛大なブラボー、そしてテミルカーノフのソロ・カーテンコール。NHKの収録あり。
●弦楽器は今やすっかりおなじみの対向配置で、コントラバスは下手側。いちばん上手にトランペットが陣取るのが独特。少しおかしかったのは第2ヴァイオリンの各プルトとも楽譜をめくってもめくってもめくり返されてしまうという風のいたずら(?)。いったん弓で抑えても、弾いているうちにまたフワーっとめくり返されてしまう。応対の仕方が人それぞれ。
●帰宅した夜、ヤニック・ネゼ=セガンがジェイムズ・レヴァインの後を継いでメトロポリタン・オペラの音楽監督に就任するというニュースが入った。就任は2020年より(そんな先のことがどんどん決まっていく)。さらにフィラデルフィア管弦楽団音楽監督の任期を2025/26年シーズンまで延長することも発表されたのだが、そのネゼ=セガンは今まさにフィラデルフィア管弦楽団と来日中で、この日は大阪で公演があった。そんな大きなニュースをわざわざツアーで日本にいるときに発表するの?とも思うわけだが、そこはMET。公式サイトでライブストリーミングで中継が始まってピーター・ゲルブらが登場し、大阪のネゼ=セガンと話しているではないの。ニューヨーク・タイムズをはじめ、各メディアとも一斉に記事を掲載(朝日新聞は大阪で取材)。で、本日夜は東京でフィラデルフィア管弦楽団の公演が開かれる。ニュースってのはこうやって発信するものなのかと、感心するばかり。
「ウイルスは生きている」(中屋敷均著/講談社現代新書)
●「ウイルスは生きている」(中屋敷均著/講談社現代新書)をKindle版で読む。非常に刺激的な一冊だった。ウィルスというものに対してはなはだ曖昧な認識しか抱いていなかったのだが、この一冊を読むとウィルスの多様性やそのふるまいの面妖さに驚くばかり。そもそもウィルスは生物ではないと大昔に習ったような記憶があるのだが、読み進めるにしたがって生物と無生物の境界線がいかに頼りないものかを思い知らされる。巨大ウィルスの発見が2000年代になってからというから、トピックスとしてもすごく新しいんすよね。2000個以上の遺伝子を持って自己複製して進化するような巨大ウィルスが「物質」かと問われたら、そりゃ違和感はあるわけで、なるほど「生きている」と思ってしまう。あと、ウィルス側以上に生物側が思ったよりも例外だらけで、しかも可塑的であるというのが印象的。
●遺伝子の水平移行についてのくだりもかなりおもしろい。親から子へと垂直方向に受け渡されるのではなく、同時代の多種の生物間で遺伝子がやり取りされるのが水平移行だっていうんだけど、これが従来考えられていたよりずっと頻繁に起きている事象であるという。例として挙げられているのが大腸菌のO157。通常無害な大腸菌が水平移行によって出血性大腸炎を引き起こす遺伝子を獲得してO157となり、そこにはウィルスが一役買っているのだとか。細菌やウィルスレベルで見ると生命の世界は想像以上に動的だ。
●で、なによりこの本は「読ませる」のがすばらしい。内容は決して易しくはないんだけど、それを一から十まで無理に易しくかみ砕こうとするのではなく、代わりに興味深いエピソードなどを効果的に盛り込んで、先へ先へとページをめくりたくなるように工夫されている。序章の「スペイン風邪」の話とかとても読ませるんだけど、この話題を頭に置くことを思いついたのは著者だろうか、編集者だろうか。職業的な関心もわく。
カラビッツ指揮読響のプロコフィエフ「ロメオとジュリエット」他
●31日はサントリーホールでカラビッツ指揮読響。カラビッツは1976年ウクライナ生まれの若手。首席指揮者を務めるボーンマス交響楽団でのプロコフィエフ交響曲全集など、レコーディングでも話題の人。ちらっと録音を聴いても、ボーンマス交響楽団が鍛えあげられている様子が伝わってくる。読響には今回が初登場で、やはりプロコフィエフをメインにしたプログラム。定期演奏会での交響曲第5番他は聴けなかったのだが、名曲シリーズでベルリオーズの序曲「ローマの謝肉祭」、シベリウスのヴァイオリン協奏曲(ヴィクトリア・ムローヴァ)、プロコフィエフのバレエ音楽「ロメオとジュリエット」抜粋他を。
●ムローヴァは貫禄のソロ。しっかりとした芯のある音が軽々と出てくる感。つややかさと渋さを兼ね備えた美音に聞きほれる。カラビッツは鳴らすところは盛大に鳴らすが、まったくソロが埋没しない。
●で、カラビッツは豪快にオケを鳴らす指揮者で、容赦なくハイカロリー。なるほど、これだったらプロコフィエフでももっとワイルドな曲を聴きたくなるかも(第3番とか第2番とか)。パワフルだが決して荒っぽいとは感じない。「ロメオとジュリエット」は第2組曲をベースに、第5曲と第6曲を抜いて、代わりに第1組曲第6曲「ロメオとジュリエット」と第1組曲第7曲「タイボルトの死」を挿入するという全7曲。後半のメインプログラムにしては少しあっさりしているなと思ったら、アンコールでプロコフィエフ「3つのオレンジへの恋」行進曲。これも迫力満点。圧力の強さにたじろぎつつ。
●パパ・ヤルヴィ、ウルバンスキ、カラビッツとたまたま続くロシア音楽週間。もう一公演ありの予定。