●「ウイルスは生きている」(中屋敷均著/講談社現代新書)をKindle版で読む。非常に刺激的な一冊だった。ウィルスというものに対してはなはだ曖昧な認識しか抱いていなかったのだが、この一冊を読むとウィルスの多様性やそのふるまいの面妖さに驚くばかり。そもそもウィルスは生物ではないと大昔に習ったような記憶があるのだが、読み進めるにしたがって生物と無生物の境界線がいかに頼りないものかを思い知らされる。巨大ウィルスの発見が2000年代になってからというから、トピックスとしてもすごく新しいんすよね。2000個以上の遺伝子を持って自己複製して進化するような巨大ウィルスが「物質」かと問われたら、そりゃ違和感はあるわけで、なるほど「生きている」と思ってしまう。あと、ウィルス側以上に生物側が思ったよりも例外だらけで、しかも可塑的であるというのが印象的。
●遺伝子の水平移行についてのくだりもかなりおもしろい。親から子へと垂直方向に受け渡されるのではなく、同時代の多種の生物間で遺伝子がやり取りされるのが水平移行だっていうんだけど、これが従来考えられていたよりずっと頻繁に起きている事象であるという。例として挙げられているのが大腸菌のO157。通常無害な大腸菌が水平移行によって出血性大腸炎を引き起こす遺伝子を獲得してO157となり、そこにはウィルスが一役買っているのだとか。細菌やウィルスレベルで見ると生命の世界は想像以上に動的だ。
●で、なによりこの本は「読ませる」のがすばらしい。内容は決して易しくはないんだけど、それを一から十まで無理に易しくかみ砕こうとするのではなく、代わりに興味深いエピソードなどを効果的に盛り込んで、先へ先へとページをめくりたくなるように工夫されている。序章の「スペイン風邪」の話とかとても読ませるんだけど、この話題を頭に置くことを思いついたのは著者だろうか、編集者だろうか。職業的な関心もわく。
June 2, 2016