●今回のEURO2016、優勝候補の筆頭はドイツだろう。続いてスペイン、フランスあたりか。どの大会でも一致団結して全力を尽くすドイツだが、特にゆかりのない者から見ればドイツの勝利くらい見飽きたものはなく、よほどの変人でない限り彼らを応援する理由はない、おまけに連中のフットボールと来たら強いかもしれないがおもしろくもなんともない……という伝統的ドイツ観は今や過去のものになりつつある。今のドイツはエジルをはじめ好選手がそろってて、見ていておもしろかったりするんすよね、悔しいことに。おもしろくても腹立たしいし、つまらなくても腹立たしい、それがドイツ代表。
●で、ドイツ対ウクライナだが、さすがにドイツのメンバーは充実している。4-2-3-1の布陣で、トップは一応ゲッツェで、いわゆるゼロトップ的なスタイル。トップ下にエジル、サイドにミュラーとドラクスラー、セントラルミッドフィルダーにはクロースとケディラ。最後尾には異能のキーパー、ノイアーが立ちはだかる。開催地はフランスだがほとんどドイツのホームのような大声援。前半19分にクロースのフリーキックからムスタフィが頭で合わせてあっさり先制ゴール。しかしウクライナも負けてはいない。前半37分、コノプリャンカのシュートがノイアーの脇をすりぬけてゴールにもうほとんど入った、というところでゴールマウスに飛び込んだボアティングがボディバランスを崩しながらもライン上ぎりぎりで奇跡のクリア。ありえない身体能力、そしてあの場面であきらめない執念がドイツの伝統。ゴールライン・テクノロジーが導入されているおかげで、ウクライナも抗議のしようがない。
●後半はウクライナがチャンスを作れなくなる。時間とともに防戦一方になり、足が止まる。かなり前半から飛ばしていたのか。ノイアーの前に飛び出しすぎるくらい飛び出す守備は健在で、思い切り前に出ているところに味方のバックパスがふわりと飛んできてあわやの場面も。ロスタイムではコーナーキックの守備から、カウンターを発動、エジルが交代出場したシュヴァインシュタイガーにアシストして、2点目。相変わらず隙もなければ、容赦もない。全チームにとって打倒ドイツが最大の課題。ドイツ 2-0 ウクライナ。
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●ベルギーvsイタリアは「静かな番狂わせ」に終わった。時代は変わるもので、現在ベルギーはFIFAランキング2位、欧州では最高位。イタリアは12位だ。先発メンバーの顔ぶれを見ると、この順位以上の差がついているとすら思える。だってベルギー(4-2-3-1)はルカクがトップで、その下にアザール、デ・ブルイネ、フィエライニがいるんすよ。キーパーはクルトワと来たもんだ。一方、イタリア(3-5-2)はペッレとエデルの2トップ。えっ、だれよ?って感じだ。中盤もかなり地味。いつもならひとりふたりいるスーパースターが見当たらず、「史上最弱」の前評判も聞かれるほど。実際、ボールはベルギーが支配、攻めるベルギーに守るイタリアの図。
●ところが、32分、ハーフウェーライン手前からボヌッチの長距離縦パス一本が、ディフェンスラインの背後に抜け出たジャッケリーニに通り、これを冷静にゴール。なんのアイディアもないが、出し手の受け手の完璧な同期によってイタリアが先制する。その後もベルギーは攻めるが、ボールを持たされている感が強く、イタリアの堅い守備を崩せない。ベルギーのヴィルモッツ監督は試合終了後に「イタリアはカウンターだけに集中した戦いをしていた。彼らは本当のサッカーをしていない」と苦言を呈したそうだが、何十年も前からイタリアはそういう戦いが得意だったのでは。個の力では勝るベルギーだが、中盤での不用意なミスが目立ったのと、攻守の切り替えが遅い、言い換えれば選手間の連動性の不足が試合を難しくしてしまったと思う。
●そしてロスタイム、攻め込んだベルギーからボールを奪って、イタリアが「どカウンター」発動。ゴール前でカンドレーバはいったんシュートチャンスを失ったように見えたが、ファーに上がってきたフリーのペッレに慎重にクロスをあげ、ペッレがこれを難なく決めて追加点。ここでベンチから控えメンバーもピッチ内に飛び出して、もう試合が終わったかのように狂喜乱舞するイタリア。あっけにとられるが、本当にそのままどさくさに紛れるようにいつのまにか試合終了の笛が鳴っていた。真っ正直に戦ったベルギーが、イタリアの狡猾な罠に見事に引っかかってしまった。ベルギー 0-2 イタリア。
June 14, 2016