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September 1, 2016

「ギター音楽リスナーズ・バイブル」「ベル・エポックの音楽家たち―セザール・フランクから映画の音楽まで」

●最近出た本から、目を引いたものを。
●まずは「ギター音楽リスナーズ・バイブル」(朝川博著/アルテスパブリッシング)。クラシック音楽全般について幅広く聴くというリスナーであっても、ギターだけは盲点という方は少なくないはず(自分もそうなのだが)。ギター音楽の歴史、ギター名曲、ギター作曲家についての平易な入門書であり、この分野にこれから近づこうという人には心強い一冊。手にしてみて強く感じたのは、「そういえば、近年、こういうリスナーズ・ガイドってあまり見かけなくなったな」ということ。まずなにから聴いていいのかわからない人向けのガイドって(名曲ガイドであれ名盤ガイドであれ)、かつては音楽書の最強売れ筋商品だったと思う。でも今はネットで調べれば済むから……ということなのか。でも、少し違うんすよ、そこは。この種のリスナーズ・ガイドでもっとも価値があるのは、なにが書いてあるか以上に「なにが選ばれているか」。つまり「ギター名曲100」を選ぶときに、著者個人の視点でどれを選ぶのか、っていうのが最大のポイントで、この辺の機能はネットではうまく代替できない部分じゃないだろうか。著者は元「音楽の友」編集長で、アマチュア・ギタリスト。
●すばらしい一冊だけど、ひとつだけリクエストを。ギター名曲100のところで、作曲者名と曲名に欧文表記を添えてほしかった。これを読んで、この曲を聴きたいなと思ったとき、Apple MusicやGoogle Play Musicで(あるいは人によってはYouTubeかもしれない)検索するときには、みんな欧文で検索すると思う(ストリーム配信時代が到来したら、もう日本語へのローカライズなんてほとんどだれも気にしてくれなくなった)。今、聴くために必要な情報は、国内盤のCD番号より曲名の欧文表記。重版の際にぜひ!
ベル・エポックの音楽家たち―セザール・フランクから映画の音楽まで●もう一冊は、「ベル・エポックの音楽家たち―セザール・フランクから映画の音楽まで」(フランソワ・ポルシル著、安川智子訳/水声社)。この本、かなりの大著であり、装幀とか書名とかからしてパッと見はお堅い学術書のように見える。でもそうじゃなくて、むしろ楽しげな読み物かと。まだほんの一部を目にしただけだが、次々とおもしろい話が飛び出してきそうな予感。たとえば、前書きに出てくるこんな一節はどうだろう。

「春の祭典」の初演50周年記念で指揮をしにやってきたピエール・モントゥーは、熱烈な喝采を遮ってただこう言い残した。「50年前と同じようにここでこの作品を指揮することができて実に楽しかった……。また50年後にもぜひお聞かせしたいものです!」 彼は88歳だった。

ふふ。いいよねえ。あともう一か所、最初の「フランク信仰」のところ。パリ音楽院のアンブロワーズ・トマの生徒にエマニュエル・シャブリエがいた。シャブリエはこう言った。

「音楽には3種類ある。よい音楽、悪い音楽、そしてアンブロワーズ・トマの音楽だ」

はっ、それがどうした、なんと意味ありげで意味レスな表現なんだろうか。実によい。ともあれ、今、トマの「ミニョン」序曲を久しぶりに聴いてみようかなという気にはなった。気ままに拾い読む形になりそうだが、付きあい甲斐のありそうな一冊。
●しかしamazonに書影が載ってないのは惜しい、渾身の一冊なのに。しかも一時的に在庫切れでプレミアムを乗せた中古本がいくつも出品されているようだが、本来は定価5000円+税なので、ご注意を。