●15日はサントリーホールでジョナサン・ノット指揮東京交響楽団。創立70周年記念ヨーロッパ公演プレコンサートとして、ツアーでのプログラムを先立って東京でも。前半にベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲(イザベル・ファウスト)、後半にショスタコーヴィチの交響曲第10番。エキサイティングな公演だった。
●ベートーヴェンではナチュラルトランペットを使用。ティンパニがバロックなのはいつも通り。弦も対向配置なのだが、普段と違ってコントラバスが後方に一列に並んでいる(ウィーン楽友協会シフトなんじゃないかの声、多数)。最初の一小節のティンパニの刻みからゾクッと来た。イザベル・ファウストのソロは語り口豊かで、新鮮。カデンツァはベートーヴェンが同曲をピアノ協奏曲として編曲した際に作られたバージョンをもとにしたものを採用。独奏ヴァイオリンにティンパニが共演するという異色のカデンツァ。このバージョンを使う試みはけっこう昔からあると思うんだけど、いまでも効果抜群。そもそもベートーヴェンがカデンツァにティンパニを入れてやろうと思った先駆性が今も生きているわけで。第1楽章が終わったところで拍手が出たが(東京のオケ定期ではきわめて珍しい)、これはもうイザベル・ファウストへのスペシャル賛辞としか取れない。
●第2楽章から第3楽章に移行する際に入るカデンツァ、さらに第3楽章に突入した後、独奏ヴァイオリンにロンド主題が回帰する直前のフェルマータでも小さなカデンツァが入っていたけど、これらもたしかベートーヴェン本人がピアノ協奏曲用に編曲した際に書いたカデンツァに由来しているんすよね? ベートーヴェンは自分用に編曲したわけではないんだけど、やっぱりピアノ用に書けば入念なカデンツァになるのだな、と。なにせピアノ協奏曲にはあれだけ立派なカデンツァを書いているわけだし。
●後半のショスタコーヴィチは壮絶。常々、会見などでノットは「リスクを取った演奏をしたい」というようなことを語っているけど、まさにそんな感じで、オケをギリギリまで追い込むような指揮ぶり。交響曲第10番といえば、作曲者の名前を音名に読み替えたDSCH音型が大活躍するオレオレ交響曲だが、第3楽章で頻出するホルン音型が親しい教え子の名前を音名に読み替えているっていうじゃないすか。どんだけ露出したいんすか、ショスタコーヴィチは。エゴ大爆発のオレオレ無双。わけわからん。だけど、あまりに苛烈な音響に心揺さぶられる自分が悔しい。
●終演後、客席の喝采がなかなか止まない。楽員が退出しても止まずに、ノットのソロ・カーテンコールに。この日の演奏のすばらしさに加えて、欧州ツアーにエールを送るといったニュアンスもあったと思う。
●コンサートの後の復習(?)としては、イザベル・ファウストがアバド指揮モーツァルト管弦楽団と共演した録音もあるわけだが(カデンツァはやはりピアノ協奏曲編曲版を使用)、そもそもそのベートーヴェンがピアノ用に編曲したピアノ協奏曲ニ長調op61aも聴きたくなる。録音はいくつかあるけど、ベレゾフスキーの独奏でダウスゴー指揮スウェーデン室内管弦楽団っていうのがおもしろそう。
October 19, 2016