●11月10日、オーストリア大使館で来日中のウィーン国立歌劇場のプレス・カンファレンスが開かれた。こちらは来日公演についての会見ではなく、ウィーン国立歌劇場全体についての近況と、3年前からスタートさせているインターネット有料動画配信の話題が中心。劇場関係者からはドミニク・マイヤー総裁(写真)と、ライブストリーミングの担当の方(ごめん、お名前わからず)が登壇。以下、ウィーン国立歌劇場 live at homeの話題について。
●「live at homeでは、現在、1シーズンに45演目のオペラが配信されている。ライブだけではなく、ひとつの演目を3日間にわたって見ることができる。3年前のスタート時からは技術的に大きな進歩を遂げている。たとえば画質も向上し、暗い舞台でもよく見えるようになった。これなら中継のために劇場の照明を変える必要がない。劇場内には7台のカメラを配置している。これは一般のお客さまからはほぼ目に入らないように設置されている。カメラが見えてしまうと興ざめだから。音も立てない。画面は2種類を選べるようになっており、客席から見えるようなトータルビューと、映像演出家によるライブ・カットが用意される。これらはすべて自前のシステムを組んで中継している」
●このサービス、ワタシはまだ体験していないのだが(近々試してみるつもり)、生中継でない場合は「3日間まで見られる」というのが少々わかりにくい。サイト上にある日本語の説明を引用すると「ウィーン国立歌劇場のライブ中継は 72 時間以内に時間差放送されます。ご購入時に、ウィーン現地時間またはお住まいの地域のタイムゾーンに合わせたプライムタイムの中継をお選びいただけます。72 時間以内でのお好みの開始時間を選択してください」とある。つまり、3日間見られるというのは、その間いつでもオンデマンドでアクセスできるようにアーカイブ化されているという意味ではなく、3日間の猶予で時間差配信が可能、ということっぽい(違ってたら教えて!)。質疑応答で「3日間だけじゃなかなか忙しくて見れない人も多いから、もっと長期間アクセスできるようにしてもらえないか」と尋ねたところ、現状では2つの理由で難しいとのこと。ひとつは「権利や出演料の問題」。もうひとつは「オペラのライブではいつでもすべてがうまくいくとは限らない。だからあくまで1回限りのライブとして提供したい」とのこと。後者はもっともな話で、オペラの場合、生の舞台をそのまま配信する際のリスクはオーケストラのコンサートより格段に大きいはず。なお、ライブ中継とは別に、いつでもアクセスできる20~30作品がライブラリ化されているので、そちらはもっと増やしていきたいそう。また、ライブストリーミングといえばベルリン・フィルのデジタル・コンサートホールという強力な先行事例があるわけだが、ウィーン国立歌劇場はベルリン・フィルともディスカッションをしているのだとか。
●ウィーン国立歌劇場がlive at homeに本腰を入れていることは言葉の端々からも伝わってきて、このサービスによって劇場への来場者を増やし、オペラの新たなファンを獲得したいと述べていた。ウィーン国立歌劇場の場合、来場者の30%が外国人だということなので(7%が日本からなんだとか)、一般の劇場と比べて遠隔地の聴衆にアピールする意味が大きいとはいえるだろう。今回のプレゼンテーションで、彼らは自分たちの劇場についてこんな比喩を使っていた。「1869年生まれの年老いたおばあさんを若返らせる!」。
November 17, 2016