●24日はMETライブビューイングでサーリアホの「遥かなる愛」へ(東劇)。現代フィンランドの作曲家サーリアホのオペラが、はたしてメトロポリタン・オペラの保守的と言われる聴衆にどんなふうに受け入れられるのかと思いきや、これが客席大喝采のスタンディング・オベーション。むむ、この反応は読めなかった。指揮はスザンナ・マルッキ。
●演出は映像の魔術師ロベール・ルパージュ。舞台上に約5万個のLEDライトを並べたという「光の海」が作り出される。逆に言えばそれ以外の舞台は簡素で、抽象的。これは海オペラでもあり舟オペラでもある。テーマはずばり純化された「愛」。「トリスタンとイゾルデ」を連想する。なので、舞台があるとはいっても演奏会形式でもそれほど不足なく上演できてしまう作品でもあって、一昨年だったか東京オペラシティでの演奏会形式による上演と受けた印象はそう変わらない。
●改めてストーリーを紹介しておくと、こんな感じ。舞台は12世紀のフランス。ブライユの領主でトルバドゥールであるジョフレは、はるか遠くトリポリの女伯クレマンスに理想の女性を見出し、まだ見ぬ遠い恋人への思いを募らせる。一方、クレマンスも巡礼の旅人から受け取ったジョフレの詩に接して、心を動かされる。ジョフレはついに海を渡って、クレマンスに会うことを決意する。船旅に出たジョフレは来たるべきクレマンスとの面会を恐れ、心を乱す。自分はまちがった決断をしたのではないだろうか。ついにジョフレがクレマンスと出会うとき、ジョフレは病により死に瀕していた。ふたりは愛の言葉を交わすが、クレマンスの腕のなかでジョフレは息絶える……。
●って話なんだけど、クレマンス役のスザンナ・フィリップスはぴったりとして、ジョフレ役にエリック・オーウェンズというのにびっくり。この人の深みと温かみのある低音は好きなのだが、愛を語る詩人にしては年を取りすぎているし、キャラが立ちすぎなような。でも歌は見事。
●このオペラ、19世紀的なオペラを期待してしまうと肩透かしをくらうわけで、物語的にも音楽的にも起伏に富んだスリリングな展開が続くようなものではないので、予備知識ゼロでご覧になる方はそのつもりでどうぞ。サーリアホの音楽は繊細で抒情的で、美しい音響が連綿と続く。とりわけ前半は静的で、疑似中世風といった雰囲気を醸し出しつつ淡々と進む。後半は張りつめた場面も出てくるが、それでもアグレッシブではなく、響きの持続的な美しさにうまく浸れるかどうかで、この作品から受ける印象はずいぶん違ってくるはず。
January 25, 2017