●今、自分内ジャック・ヴァンス・ブームが到来中。国書刊行会の「宇宙探偵マグナス・リドルフ」「奇跡なす者たち」に続いて、早川文庫の「竜を駆る種族」をゲット。といっても、ずいぶん古い本で、古書でしか手に入らないと思う。2006年刊行となっているが、これは1976年に刊行されたものを復刊したもの。原著は1962年。すでに半世紀以上前に書かれた古典ということになる。ヒューゴー賞受賞作。
●やはりこれも異文化異世界ものなのだが、基本設定に関するアイディアの部分はさすがヴァンス!おもしろい!と思えるのだが、プロットは弱いと思う。これは別の一冊「ノパルガース」にもいえるんだけど、これだけ秀逸なアイディアがあれば、もっと話を膨らませることができるはずなのに、なにか「長い話を書くことに対するメンドくささ」みたいな気分が漂っているというか……。でも基本設定は無茶苦茶おもしろいので、そこのところだけ紹介しちゃう。
●舞台となる惑星では人類最後の生き残りと思われる人々が住んでいる。彼らは「竜」を戦士として操っているのだが、その「竜」というのは、かつて異星から攻めてきた爬虫類型異星人を捕虜として捕え、そいつらを何世代にもわたって人工交配して品種改良した種族なんである。いろんなタイプの竜がいて、それぞれ獰猛な戦士なんだけど、人間にすっかり飼いならされている。
●ところが、爬虫類型異星人がまたこの惑星に攻めてくる。で、爬虫類型異星人もやはり捕虜としてかつて人類をとらえていたので、その人類を品種改良した者たちを奴隷として使役したり、軍隊を編成させたりしている。つまり、こっち側と同じことをやってるわけ。この発想が秀逸。だから戦闘になると、人類は爬虫類型異星人を品種改良した竜に戦わせ、爬虫類型異星人は人類を品種改良した亜人みたいなのを戦わせるという、なんとも倒錯的な状況が生まれる。
●で、人類の側は、敵の爬虫類型異星人のことを「ベイシック」って呼んでいるんすよ。つまり、自分たちの操る竜の原種であるから「ベイシック」。ってことは、先方からすれば自分たち人類だって「ベイシック」ってことになるわけで。こういう少しブラックなセンスが味わい深い。
February 17, 2017