●8日は東京オペラシティの近江楽堂でアンサンブル・リクレアツィオン・ダルカディア。松永綾子、山口幸恵(ヴァイオリン)、懸田貴嗣(チェロ)、渡邊孝(チェンバロ)の4名からなるアンサンブル。昨年、同アンサンブルで「ウィーンのトゥーマ」をテーマに知られざる作曲家トゥーマの音楽を聴いたが、今回はそのトゥーマの師匠筋であるフックスが主役。フックスはトゥーマよりは知られているにしても、作品を聴いて親しんでいるとはいいがたく、むしろ対位法の大家であり理論書「グラドゥス・アド・パルナッスム」の著者として教科書的な記述で目にする存在というべきか。どんな音楽辞典にも必ず乗ってる名前。そんな厳めしいフックス像が一新されるような、精彩に富んだ音楽を味わうことができた。練りあげられたプログラム。
●前半はヨハン・ゲオルク・オルシュラーのトリオ2曲の間にトゥーマのシンフォニアが1曲はさまる構成。オルシュラー……。うーん、まったく知らない人だ。ブレスラウ生まれで、ウィーンでフックスに作曲を師事した人なんだとか。前半終わりのトリオ ヘ短調(この日の2曲はどっちもトリオ ヘ短調なんだけど)はおしまいに堂々たるフーガが置かれていて、思い切りテンションが上がる。入念なフーガで、けっこう粘着質な人だったのかなと勝手な想像を膨らませる。
●後半はフックス尽くし。パルティータを2曲とシンフォニア。最初のパルティータ E.64はヘクサコードの定旋律で開始され、いかにも生真面目なフックスだが、続くパルティータ K.323は第1曲「戦闘員たち」、第2曲「勝者たち」という標題が示すようにバトルモード全開の音楽で、ハジけまくってる。「戦闘員たち」とか言われると、字面からついショッカーの「ヒーッ!」とか叫んでる手下たちを思い浮かべるが、そうではなく、トルコによるウィーン包囲。その描写を読みあげる渡邊孝さんの語りから曲に突入するという鮮やかな演出付き。でもこの曲、後半はメヌエットとかガヴォットとかリゴードンと普通に舞曲が続くという謎展開。トルコのモチーフは、続くシンフォニア ハ長調 K.331にも引き継がれ、トゥルカリア、イェニチェリといった各曲から怪しげなエキゾチック・トルコが浮かびあがり、フックスのユーモアに笑う。こんなにサービス精神の旺盛な人だったとは。
●前回の公演での渡邊孝さんのお話しで、フックスの作品番号はモーツァルトと同じくケッヘルが整理していて、このトルコ風のシンフォニアにK.331(モーツァルトだとトルコ行進曲付きのソナタ)が付いているのは確信犯だろうとあったのを思い出す。ふふ。
March 9, 2017