●9日はBunkamuraで記者会見。9月8日と10日に上演されるヴェルディの「オテロ」(演奏会形式)について、指揮のアンドレア・バッティストーニと映像演出を担うライゾマティクスリサーチの真鍋大度(写真左)が登壇。「演奏会形式と舞台上演の中間のようなものを目指したい。今まで見たことのないような最新のテクノロジーを駆使したオペラになる」(バッティストーニ)というように、演奏会形式とはいってもまったく新しい映像演出が試みられるところが最大の注目点。映像演出のライゾマティクスリサーチについてワタシは知らなかったのだが、メディアアートとしても研究開発要素の強いプロジェクトを扱っているということで、大いに期待できそう。というのも、これまで東京で上演されてきた「映像演出付き」のオペラは、テクノロジー面で周回遅れのような消極的なものが多かったという印象を持っているので。もっとも「先にネタバレしても……」(真鍋氏)ということで、具体的なイメージまではこの日の会見ではわからず。なお、映像演出はライゾマティクスリサーチだが、バッティストーニが指揮と演出を行なうと記載されている。芸術面に関してはバッティストーニが見てくれているので、作品内容から乖離した技術的デモンストレーションに陥る心配はなさそう。
●で、もちろん、純粋に音楽面だけでもバッティストーニが「オテロ」を振るとなれば注目度は高い。東京フィル、新国立劇場合唱団、フランチェスコ・アニーレ(オテロ)、エレーナ・モシュク(デズデーモナ)、イヴァン・インヴェラーディ(イアーゴ)といった陣容。バッティストーニはシェイクスピアにも相当に造詣が深いようで、言葉の端々から意気込みが伝わってきた。バッティストーニの「シェイクスピアは決して叫ばない」という言葉が印象的。たとえば、シェイクスピアはイアーゴがなぜオテロに悪意を持ったかをはっきりと書いていないと言い、そこにいろいろな可能性がありうることを指摘する。カッシオが副官に選ばれたから。イアーゴの妻がオテロと関係を持ったから。イアーゴがオテロを欲していたから(これは今風の作品解釈として、とても魅力的で筋が通っているんすよね。デズデーモナに嫉妬するイアーゴ)。物語世界の持つ奥行きの深さ、晩年に一段と高みに到達したヴェルディの音楽の革新性等、見どころ聴きどころは多い。
●なお、今回、通常の公演とは別に、9日にBunkamuraとソニー音楽財団とによる10代のためのプレミアムコンサート「はじめての演奏会オペラ~イタリア・オペラ編」という教育プログラムも開催される。そうそう、「オテロ」でなるべく若いうちに人間不信を植え付けておかないと……ってのはウソとしても、イヤーゴみたいな存在が放つ磁力って多感な時期の若者にこそ作用すると思うんすよね。
March 10, 2017