●今年のラ・フォル・ジュルネのテーマは「ラ・ダンス 舞曲の祭典」。備忘録的に思いつくままに。
●最終日のオネゲルのオラトリオ「ダヴィデ王」。オーケストラ版ではなく、オリジナルの小編成版のアンサンブルと声楽による演奏。ダニエル・ロイス指揮シンフォニア・ヴァルソヴィアのメンバー、ローザンヌ声楽アンサンブルに独唱3名、語り2名。本来小編成による4時間の劇音楽として書かれたものが、改訂の際にオーケストラ用の70分ほどのオラトリオに仕立てられているのだが、さらにそこから編成のみをオリジナルに戻したという、変則オリジナル版(という理解で合ってる?)。対訳も配布され、しかも字幕も付く親切設計。これって編成はコントラバス1本以外は弦楽器がないんすね。主に管楽器+打楽器+声楽という響きの透明感、輪郭のシャープさが印象的。通常のオーケストラより斬新さを感じさせるのでは。ただしオラトリオとしてはストーリーが断片的なつぎはぎのように感じられて、うまく追いかけられず。それでも幕切れに感動させられてしまうのが音楽の力。巫女役の語りの女性がすごい迫力(でも出番は一か所だけの豪華仕様)。ぜひもう一度この小編成版で聴いてみたい作品だが、そんな機会はそうそうないか。時間切れでカーテンコール途中で退出したけど、最後はロイスのソロ・カーテンコールまであった模様。
●リス指揮ウラル・フィルでタン・ドゥンの「パッサカリア~風と鳥の秘密」、ハチャトゥリアンのピアノ協奏曲(ベレゾフスキーが弾いた)、ヴィクトロワの「踊る天使」。タン・ドゥン作品はあらかじめ聴衆がスマホに音源をダウンロードしておいて、指揮者の指示で再生するという趣向。これが鳥の鳴き声風の音源で、最初は客席からさざ波のようにあちこちから時間差で鳴り響き、その後、オーケストラの演奏がはじまり、曲中にその音がオーケストラからも聞こえてくる。いつもは念には念を押してサイレントに設定したうえで電源を切っているタブレットを、堂々と客席で再生するというなんだか背徳的な体験。事前にダウンロードをする方法がどこにも見当たらなかったのだが(facebookページのストリームしかなかった)、当日会場に入ったらダウンロード用のQRコードが配布されていた。あわてて客席でまずQRコードリーダーのアプリをインストールして、それから音源をダウンロードしたのだが、なぜか再生ができない。やむを得ずfacebookページからストリーム再生したのだが、それでまったく問題はなかった。コンサートホールだと、自分一台分の音でもずいぶんよく音が響くのだなあと実感できたのが貴重な体験。そのほか楽員の発声や特殊奏法など過剰なくらい趣向満載の作品で、かなり愉快。一方、ハチャトゥリアンのピアノ協奏曲は豪快。ベレゾフスキー、こんな曲まで弾いてくれてうれしい。いい曲じゃん! しかし時間が予定よりかなり長引いており、この曲が終わった時点でもう次の公演が迫っていたので、最後のヴィクトロワはあきらめて退出。残念。
●これを途中退出して向かった先が、マタン・ポラトとアルデオ弦楽四重奏団のショスタコーヴィチ。2つの小品からポルカと、ピアノ五重奏曲。これがすばらしかった。擬古的な趣向を持ったピアノ五重奏曲という作品の性格もあってか、苦悩する作曲家像よりは音楽のみずみずしさが前面に。マタン・ポラトは各地のLFJでずいぶんいろんな作品を弾いていて、記憶にあるだけでもアイヴズやバッハも弾けば、今回のようにショーソン、ショスタコーヴィチも弾くという大車輪の働き。譜面台にやや大型のタブレットを置いていて、演奏終了後に確認したら、ペダルの左側に譜めくり用のワイヤレスのフットスイッチがあった。
●そのマタン・ポラトとアルデオ弦楽四重奏団は中日にニコラ・ドートリクールのヴァイオリンとともに、ショーソンの「ヴァイオリン、ピアノ、弦楽四重奏のためのコンセール」。ホールB7の後ろ半分がほとんど空いているというくらいの不人気。まあ、裏番組も強力だったし……。それにしても、この編成のわけのわからなさはすごい。弦楽四重奏にすでにヴァイオリンがふたりいるのに、別途ソロのヴァイオリンを置いて、そこにピアノが入るわけで。二重協奏曲的な意味合いなのかなとも思ったけど、そうでもない。これだったらヴァイオリンのソロを四重奏の第一ヴァイオリンが弾いてもいいような? というか、普通にピアノ五重奏曲に「約分」できたんじゃないかという疑問をつい抱いてしまうのだが。だいぶ遠い席で聴いてたので、もっと至近から聴けばまた違っていたのかも。ともあれ、これもめったなことでは聴けそうもないので、貴重な機会に感謝するしか。
●改めてそのすばらしさを実感したのはルイス・フェルナンド・ペレスの「ソワレ・グラナドス」。グラナドスのスペイン舞曲集、詩的なワルツ集、スペイン民謡による6つの小品。最後は熱くなってノリノリ。この濃密さ、豊かさ。ムンムンとした体臭が感じられて、なおかつ洗練されているという両方の要素を感じさせるのがペレス。
●ほかに印象に残ったピアニストはフランソワ=フレデリック・ギィ。最終日ホールD7でのベートーヴェンのピアノ・ソナタ第2番と第17番「テンペスト」。唸り声がひんぱんに聞こえてくる没入度の高いタイプだが、音楽的な身振りはむしろ抑制的なくらい。ほどよい茶目っ気というか、機知に富んでいるという点で、第2番がより楽しかった。しかし「ギィ」というカタカナは日本語でどう発声すればいいのか、悩む。ギでもギイでもギーでもなくギィ。ラジオなんかではどう発声すればいいんだろう。
May 8, 2017