●どこの本屋さんに行ってもたくさん積んである第157回芥川賞受賞、「影裏」(沼田真佑著/文藝春秋)。紹介文を読んでみてもなんの話がぜんぜんわからなかったのが逆に気になって、読んでしまった。中篇というか、長めの短篇くらいの長さ、しかし文体は濃密。会社の出向で岩手に移り住んだ主人公が、ある同僚と親しくなり釣り仲間になる。やがて同僚は転職し、疎遠な間柄となる。震災をきっかけに、主人公は同僚のもう一つの顔を知ることになる……といったあらすじ。淡々とした日常の描写のなかから、やがて震災と性的マイノリティがテーマになった話だということがわかってくる。が、一定の距離感を保った描き方で、そこに目を向けなくても小説として読めてしまう。いちばん魅力的なのは釣りの場面。釣りなど一度もやったことがない自分が読んでも魅了される。もう釣り小説でいいじゃん!ってくらいに。
●で、読み終えてどうしても連想せずにはいられなかったんだけど、これってブリテンのオペラ「ピーター・グライムズ」とすごく重なってる。だって、海があって漁があって(釣りだけど)、嵐がやってきて、マイノリティの話で。
●この同僚の人物像が生々しい。ああ、こういう人、よく知っている気がする。そしてこの人物の父親が語る場面がハイライト。痛烈で、リアル。
August 3, 2017