●29日はすみだトリフォニーホールでキット・アームストロング ピアノ・リサイタル。このホールの名物企画であるゴルトベルク変奏曲シリーズの一環で、ついこの前のピーター・ゼルキンに続いて、同じホールでまたこの曲を聴くことに。プログラミングがおもしろい。ピーター・ゼルキンがゴルトベルク変奏曲にモーツァルトの晩年の作品を添えたのに対し、キット・アームストロングはバードとスウェーリンク、ジョン・ブルという16世紀後半から17世紀前半の作曲家たちを組み合わせた。それってむしろピーター・ゼルキンが好きそうなプログラムでは。
●で、しかも各々の曲が変奏曲になっていて、バードのヒュー・アシュトンのグラウンド、スウェーリンクの「我が青春は過ぎ去りし」、ブルのウォルシンガム変奏曲。前半は軽めのプログラムかと思いきや、ウォルシンガム変奏曲は主題と30の変奏からなる壮麗な大変奏曲。まさかこんなクライマックスが前半に待っていようとは。
●アルフレート・ブレンデルのお気に入りだというキット・アームストロングは、1992年ロサンゼルス生まれ。風貌は東アジア系で、以前のインタビューによれば「8分の1は日本人」なのだとか。なんどか来日していると思うが、今回ようやく聴けた。よどみなく流れる自然体の音楽。ピーター・ゼルキンが自身のトレードマークとでもいうべき作品を前に苦闘の儀式をくりひろげたのに比べると、アームストロングは万全のメカニックでやすやすと弾いてみせるといった感。ダイナミクスは控えめに設定するものの、語り口はしなやかで、情感豊か、パッションも欠いていない。清潔すぎるかな、と思わなくもないんだけど、なにせプログラムが見事なのでまた聴いてみたくなる。
August 31, 2017