●6日は東京芸術劇場でヤツェク・カスプシク指揮読響。前半はギドン・クレーメルのヴァイオリンでヴァインベルクのヴァイオリン協奏曲(日本初演)、後半はショスタコーヴィチの交響曲第4番という激烈なプログラム。ヴァインベルクは近年クレーメルが力を注ぐポーランド生まれのソ連の作曲家。あらかじめ録音で少し聴いて、なるほどこれはショスタコーヴィチにずいぶん似てるな、これではショスタコーヴィチの陰に隠れるのもしょうがないかも……と思ってたら、クレーメルによればヴァインベルクがショスタコーヴィチに影響を及ぼしてもいるのだとか。ペシミズムと歪んだ笑い、ユダヤ調の民俗音楽、はりつめた緊迫感と抒情性。やっぱりすごく似てる。ヴァインベルクになくて、ショスタコーヴィチにあるのはなんなんすかね。クレーメルはもう70歳。もちろん全盛期と同じはずはないんだけど、70歳になっても変わらず音楽の伝道師であり続ける姿に凄みを感じる。アンコールにヴァインベルクの「24のプレリュード」から、第4番と第21番。後者にはショスタコーヴィチのチェロ協奏曲の主題が出てくるが、これを選ぶということはヴァインベルクのほうが先だったってこと?
●後半はショスタコーヴィチの交響曲第4番。大編成による長大な交響曲。最強奏では芸劇の空間が飽和ほどの凶暴な音圧。この曲、いろんな過去作品がちらちらと垣間見える曲なんだけど、特に第3楽章はぶっ飛んでいる。冒頭の葬送行進曲がマーラーの「巨人」第3楽章っぽかったり(マーラーではコントラバスだけど、ここではファゴット)、マーラーを連想させるところがいくつもあって(「巨人」や第7番「夜の歌」)、終結部はチェレスタが「大地の歌」を思わせる一方で、コントラバスの重い足取りはチャイコフスキーの「悲愴」終結部風でもある。あと、続く交響曲第5番と共通する要素もかなり多い。同じような素材から、暴れん坊スタイルで形成された第4番と、お行儀よしスタイルで作り直された第5番、みたいな兄弟風の性格を感じる。
●終演後は長い沈黙が訪れて、その後に大ブラボー。カスプシクはいつもショパン・コンクールでピアノ協奏曲の伴奏をしている「いい人オーラ」全開のオジサン(そしてときどきLFJに出てくる人)かと思いきや、こんなにねっとりしたショスタコーヴィチを振ってくれて、これが本領なのか。ていうか、ショパン・コンクールは5年に1回しかないんだから、いつもショパンの伴奏ばかりしてるわけがないじゃないの。
September 7, 2017