amazon
October 11, 2017

ヴァレリー・アファナシエフ ピアノ・リサイタル

●ニッポン代表の親善試合を気にしつつも、10日は浜離宮朝日ホールでヴァレリー・アファナシエフのピアノ・リサイタルへ。プログラムは前半にシューベルトの4つの即興曲D899から第1曲、第3曲、第4曲、ラビノヴィチの「悲しみの音楽、時に悲劇的な」(1976)、後半にブラームスの4つのバラードと2つのラプソディ。大曲がなく、小曲の集積からなるプログラム。全体を貫くキーワードは反復、同音連打、メランコリーといったところだろうか。
●すごいんすよ、アファナシエフは。袖からフラッとやってきて、なんだか自宅の練習室に置いてあるピアノに向かうみたいに、さっくり弾き始める。儀式性ゼロ。ていうか、あの衣装、一応黒ではあるんだけど、なんか寝巻っぽくない? これほど「自然体」という言葉が似合わない人もいないんだけど、ものすごい日常感。ちらりと0.3秒くらい客席のほうを向いて愛想笑いを浮かべて、さっとピアノに向き合ったら「なにもかもにすっかり倦んでいる」とばかりの老人の表情を浮かべて弾き始める。しかしそのタッチの強靭さ、そしてベーゼンドルファーから紡ぎ出される音色の多彩さと来たら! 強靭な打鍵によるダイナミズム、ときに思いきり入る謎のタメ。筆圧の強さがひりひりするような緊張感を生み出す。各曲のおしまいの和音をたっぷりと鳴らし切って、だらりと手を垂らしながら放心して聴き入るような姿。なんだかいろんな意味で解放されている。アンコールは2曲。21時前に余裕を持って終わった。かつてのような異常に遅いテンポ設定ではないので。
●サイン会あり。新譜は「テンペスト~プレイズ・ベートーヴェン2」(ソニークラシカル)。こちらはベートーヴェンのソナタ第1番、第7番、第17番「テンペスト」という3曲。大勢のファンが並んでいた。