●プレス試写でドキュメンタリー映画「新世紀パリ・オペラ座」(ジャン=ステファヌ・ブロン監督)を見た。これは良作。ジャン=ステファヌ・ブロン監督はまったくオペラには縁がない人で「80年代のポストパンクの流れにあるロックを聴いて育った」というのだが、とてもそうは思えないほどよくできていて、音楽の使い方も秀逸。音楽監督のフィリップ・ジョルダン(写真)やヨナス・カウフマン、ブリン・ターフェル、オルガ・ペレチャッコといった歌手たちも登場するが、映画の主役ともいえるのはオペラ座総裁のステファン・リスナーであり、さらにいえば劇場で働く無名の人たち。総裁がストで頭を抱えていたり、メディア対応とかチケット価格設定についての打ち合わせの場面とか、劇場の裏側をふんだんに目にすることができる。
●さらりとあちこちにユーモアが散りばめられているのが吉。合唱団の練習に一年間かけたという(ホントに!?)シェーンベルクの「モーゼとアロン」が出てくるんだけど、演出はカステルッチ(先頃来日したバイエルン国立歌劇場の「タンホイザー」を演出した人)。このオペラには「黄金の子牛」が出てくるのだが、本物の牛を使おうということになって、ウェブブラウザで写真を見ながら牛の品定めをしているシーンには爆笑。「こいつじゃなきゃ迫力が出ない」みたいなことを言って選ぶんだけど、しかしあんな巨体を舞台に出演させるとは怖すぎる。自分だったら絶対に共演したくない。内容の薄い会議とかやれやれな対立の場面なんかも笑いどころとして入っているんだと思う。けっこうカオス。
●同じ劇場を題材にした名作に、鬼才フレデリック・ワイズマンの「パリ・オペラ座のすべて」がある。あちらがバレエが中心で、かなり観客を選ぶタイプの芸術作品だったのに対し、このブロンの「新世紀パリ・オペラ座」はオペラが中心で、音楽好きならだれもが楽しめるようなバランスのよさがある。編集も巧みで、退屈な場面がない。ほかにも子供たちの教育プログラムの場面とか、ロシアの田舎から抜擢されてパリにやってきた若い歌手ミハイル・ティモシェンコのくだりとか、あれこれと考えさせられる。
November 8, 2017
ドキュメンタリー映画「新世紀パリ・オペラ座」(ジャン=ステファヌ・ブロン監督)
12月9日(土)Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー/配給:ギャガ/photo © 2017 LFP-Les Films Pelleas - Bande a part Films - France 2 Cinema - Opera national de Paris - Orange Studio - RTS