●記者会見の翌日、23日はミューザ川崎でサイモン・ラトル指揮ベルリン・フィル。このコンビ最後の来日ということもさることながら、やはりベルリン・フィルを聴けるというのは特別な体験。ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」(1947年版)、チン・ウンスクの「コロス・コルドン」(委嘱作品、2017年ベルリンで初演)、ラフマニノフの交響曲第3番というプログラム。前半から「ペトルーシュカ」というごちそう感が半端ない。鮮やかで切れ味鋭いストラヴィンスキー。チン・ウンスク作品は色彩感豊かな10分強ほどの小曲。ラフマニノフの第3番もベルリン・フィルのようなウルトラ・ヴィルトゥオーゾ集団が演奏すると土臭さはすっかり洗い落とされ、洗練された音響彫刻のよう。世界に超一流と呼ばれるオーケストラはいくつかあるけど、そのなかでもベルリン・フィルだけは別次元のうまさという気がする。驚異的な解像度、緻密さ。弦楽器は各パートがまるでひとつの楽器みたいな緊密さで鳴っていて、あたかも巨大な弦楽四重奏(いや五重奏か)。一方で管楽器のソロはオレがオレがの超絶腕自慢大会。視線や体を動かしたりしながら演奏中のコミュニケーションもすごく盛んで、特にフルートのパユとオーボエのマイヤーのノリノリの掛け合いは視覚的にも楽しませてくれる。あ、ついでに主要首席奏者をメモっておくと、クラリネットはフックス、ホルンはドール、トランペットはヴァレンツァイ(「ペトルーシュカ」でのソロは怪物)、ティンパニはゼーガース、コンサートマスターは樫本大進、その隣にやはり第一コンサートマスターであるノア・ベンディックス=バルグリー。
●ラフマニノフのキレキレのフィナーレの後、盛大な拍手のなかでカーテンコール。ラトルがメッセージを述べ、最高の聴衆、そして最高のコンサートホールとミューザ川崎を讃えて、アンコールへ。プッチーニの「マノン・レスコー」間奏曲。これがもうエグいほどエモーショナルな演奏で、ベルリン・フィルが全力で弦楽器を鳴らし切っている姿に震撼。ラトルのソロ・カーテンコールあり。これが最後ということもあってか、いつにもまして客席前方に集まる人が多く、何人かは舞台上のラトルと握手することに成功。スターだ。
●なお、この日と同プログラムのアジアツアーでの別公演がデジタルコンサートホールで公開されている。
●ラトルがベルリン・フィルの首席指揮者に就任したのは2002年のこと。ラトルといえばベルリン・フィル、ベルリン・フィルといえばラトル。もう自分にはラトルとベルリン・フィルの音楽のつなぎ目がすっかり見えなくなっている。これからそれぞれに新しい門出が待っているわけだけど、どうなることかとワクワクせずにはいられない。
November 28, 2017