●2日はサントリーホールで下野竜也指揮日本フィル。練り上げられたプログラムで、前半はスッペの「詩人と農夫」序曲と尹伊桑のチェロ協奏曲(ルイジ・ピオヴァノ独奏)、後半はマクミランの「イゾベル・ゴーディの告白」とブルックナー(スクロヴァチェフスキ編曲)の弦楽五重奏よりアダージョ。前半はチェロのソロが共通項になっていて、「詩人と農夫」序曲では日フィルの辻本玲が朗々としたソロを披露。続く尹伊桑作品が自伝的性格を持った作品であることから、日本でチェロを学んでいた尹伊桑の追憶を暗示させる「詩人と農夫」序曲でもあったよう。尹伊桑の後に予想外のソリスト・アンコール。アブルッツォ地方の子守唄(作曲者不詳)というまったく知らない曲だったのだが、なんと、途中からチェリストが歌い出した。チェロを「歌うように弾く」とはよく言うが、「歌いながら弾く」という手があったとは。これは奏者が子供時代に日々耳にしていた子守唄なのだろうか?
●後半は事前にマクミランとブルックナーをつなげて演奏するので拍手を控えてほしいという案内あり。マクミランの「イゾベル・ゴーディの告白」にあるイゾベル・ゴーディとは、17世紀のスコットランドに実在したとされる魔女。というか、自称魔女。魔女狩りの時代にわざわざ自ら出頭して自分は悪魔と契約した魔女だと告白し、数々の罪を自白してしまったものだからさあ大変、魔女っ子イゾベルの運命はいかに。となれば、尹伊桑が霞むほどの激烈な音楽が展開される。異教的というか邪教的というか、ストラヴィンスキー「春の祭典」を思わせるところも(とくに最強奏13連打は「春の祭典」第2部の11連打へのオマージュか。素数だし)。魔女集団の悪行が凶暴な響きによってくりひろげられるが、しかし最後は弦楽器を中心とする穏やかな祈りの音楽へと収束する。魂の昇天の後、無事に拍手なしでブルックナーのアダージョへ。この瞬間が鳥肌もの。曲想としては交響曲の縮小版といった感じ。もとが弦楽五重奏曲なのでこちらは弦楽合奏のみ、照明も弦楽器にのみあてられて儀式的な雰囲気に。
●前半と後半とそれぞれの2曲の間につながりがあって、なおかつ1曲目と4曲目がオーストリアの豊かな田園風の音楽、2曲目と3曲目が苛烈な運命に翻弄される音楽ということで、緊密に4曲が絡み合っている。ソリストアンコールも含めれば5曲がシンメトリカルに並んだともみなせる。プログラム全体でひとつのメタシンフォニーになっているかのよう。
March 5, 2018