March 16, 2018

新国立劇場「愛の妙薬」(チェーザレ・リエヴィ演出)

新国立劇場「愛の妙薬」●16日は新国立劇場でドニゼッティのオペラ「愛の妙薬」。演出はチェーザレ・リエヴィ。このプロダクションは初出時の2010年に観て以来で久々。明るくてポップでカラフルな衣裳と舞台が圧倒的に吉。オペラ界最高のラブコメにふさわしい。ネモリーノにサイミール・ピルグ、アディーナにルクレツィア・ドレイ、ドゥルカマーラにレナート・ジローラミ、ベルコーレに大沼徹、ジャンネッタに吉原圭子。フレデリック・シャスラン指揮東フィル(指揮者は直前に変更があって代役)。主役ふたりがいい。サイミール・ピルグ、「パヴァロッティの後継者」っていうほど声は甘くないと思うんだけど、とてものびやかでリリカルで声質的にイケメン。2010年のときはジョセフ・カレヤで、純朴なネモリーノにしては押し出しが強すぎてどうかと思ったんだけど、ピルグは適役。アディーナもキュートなヒロインそのもの。
●ドニゼッティの「愛の妙薬」の台本はロマーニで、スクリーブの台本にもとづいて書かれたそうなんだけど、オペラのなかでは例外的にきれいに仕上がったラブコメだと思う。モーツァルトの「フィガロの結婚」とか「コジ・ファン・トゥッテ」なんかも便宜上自分はラブコメとか呼んだりするものの、ダ・ポンテの台本ってラブコメの向こう側にあれこれと本当に言いたいことがあったりとかするじゃないすか。でも「愛の妙薬」にはラブコメとしてきれいに話をまとめることを最優先にする潔さがあって、そこが偉大。軍人から詐欺師まで含めて、本当のワルがいない、善人たちのほのぼのワールド。こんな世界に住みたいぜー。
●この愛の妙薬、つまりトリスタンとイゾルデ伝説にもとづく惚れ薬が、ドニゼッティから33年後にワーグナーによってあんなに暗くておどろおどろしい物語になって帰ってくるとは。
●前にも書いた気がするけど、「愛の妙薬」って、ため息ばかりついてる他力本願なダメ少年が、都合の良い外的な力を借りて自己実現するという男の子の願望充足オペラなんすよね。つまり、ネモリーノがのび太、アディーナがしずかちゃん、ベルコーレがジャイアン、ドゥルカマーラがドラえもん。多くの演出でドゥルカマーラがコロコロした体形で描かれるのは、彼がドラえもんのメタファーだから。ウソ。