April 20, 2018

トーマス・ヘルのアイヴズ「コンコード・ソナタ」

●19日はトッパンホールでトーマス・ヘルのリサイタル。シューマンの「クライスレリアーナ」とアイヴズのピアノ・ソナタ第2番「マサチューセッツ州コンコード 1840~60年」という2作を並べたプログラム。2曲を並べた狙いとしては後述のトークコーナーで、文学由来の2曲でヨーロッパとアメリカを並べたと語られていた。つまり「クライスレリアーナ」はE.T.A.ホフマン由来、「コンコード・ソナタ」は各楽章の題に掲げられたエマーソン、ホーソーン、オルコット、ソローにちなんで。ヘルのピアノ、音色は重厚でマッシブ。前後半ともにすばらしいんだけど、やはり後半に圧倒的な感銘。50分にもわたりもっぱら不協和音が鳴り響く大曲でだが、作品に挑むというよりは、古典作品を弾くといった趣きで、骨太の大きなドラマを描き出した。
●事前に何のアナウンスもなかったのだが、前半のシューマンの後にアーティストのトークが入った。ヘルとは旧知の間柄という野本由紀夫氏がステージに上がって通訳を務め、アイヴズの「コンコード・ソナタ」をピアノを弾きながら簡潔に解説。これがとても有益なガイドになっていた。(ベートーヴェンの)「運命」の動機などが引用されること、第2楽章で14インチ半の長い板を使って鍵盤を押さえるためにお手製の板が用意されていること、本日はピアノのみで演奏されるがこの曲にはヴィオラとフルートがわずかに参加する部分があって、会場売りのヘルのCDではヴィオラもフルートも入っているので買ってね、とか。で、トークの入る場所として、休憩前というのは最高の選択なんじゃないだろうか。開演前とか後半の演奏前なんかだと、いちばん「音楽を聴きたい」という気分になっているところにトークが入って客席のテンションが下がってしまう。その点、休憩前なら無問題。
●「コンコード・ソナタ」って、長大な割には比較的親切な曲だと思う。まず、楽章構成が古典的な4楽章構成になっているところ。第2楽章がスケルツォ相当で、調性音楽になっている第3楽章が歌謡風の緩徐楽章の役割。それと、引用でマーチングバンド風だったり、ラグタイム風だったり、賛美歌風だったりと、極端に大きなコントラストが付く部分が出てくるのがアクセントになっている。あとはなんといっても「運命」の動機。全編にわたって登場する。たとえば徒歩30分とか1時間の長い道のりを歩くとして、風景がずっと無個性なオフィスビルとか住宅地の連続だったりするとすごく長く感じるけど、途中でコンビニが点在していて、あ、このお店は駐車場付きの広いお店だとか、このお店はイートインがあって揚げ物メニューが充実しているとか、そういうエピソードが挿入されると、道のりが短く感じる。この曲の「運命」の動機にはそんな点在するコンビニ効果があって、50分の道のりを短く感じさせてくれるんじゃないだろか。アンコールにコープランド「真夏の夜想曲」。
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●今週末の「題名のない音楽会」(関東は土曜朝10時~)は、2月にナントで開かれた「ラ・フォル・ジュルネ」ロケ。これを見ると、ナントの会場の雰囲気がわかると思う。日本には来ないんだけど、クレーメル&クレメラータ・バルティカのカンチェリとか(こういうのも満席になる)、チョ・ソンジンのショパンの演奏シーンもあり。客席がフランス人という点を除けば、かなり東京に似た雰囲気だとワタシは思うんだけど、どうでしょ。

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