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2018年5月アーカイブ

May 31, 2018

新国「フィデリオ」(ネタバレなし)、ニッポンvsガーナ代表戦

●30日は、新国立劇場でカタリーナ・ワーグナー新演出によるベートーヴェン「フィデリオ」へ。事前の記者会見などで結末にひと工夫あることは承知していたわけだが、肝心の部分はネタバレしないように当日まで耐えた。ホントに耐えきった。だから、ほとんどなにも知らないままにこの新解釈を堪能することができた。で、あともう一公演、6月2日にあるんすよね。だからここではネタバレを控える。とにかく大胆なアイディアが披露されているということだけはいえる。詳しくは終わった後でまた書くつもりだけど、ひとことでいえば、めったに決まらない悪役レスラーの大技が飛び出たような感触かな(なんだそりゃ)。ブーイングが出なかったらおかしい演出だし、納得できない部分もあるのだが、自分はとても楽しめた。
●で、同じ日にワールドカップのメンバー決定直前の壮行試合として、ニッポンvsガーナ代表戦が行われた。最終選考の場にして西野朗ジャパンの初陣。トホホ。最大の変化は長谷部を3バックの真ん中にして新しいフォーメーションを試したこと。所属チームでは長谷部はずっとこのポジションでプレイしているので選択肢のひとつではあると思うが、その場合、サイドの守備をどうするのかが3バックの永遠の課題。西野監督はウィングバックに左に長友、右に原口を置いて、ずいぶん攻撃的な人選だと思った。
●個のメンバーを見れば、ニッポン代表はおおむねブンデスリーガ1部の下位くらいの水準のチーム。吉田のようにプレミアリーグでレギュラーの選手もいるが、一方でブンデスリーガで控えや2部だったり、フランスやメキシコやJリーグでプレイする選手もいる。一方、対戦相手にはプレミアリーグやスペインリーグの上位、ブンデスリーガのトップレベルの選手たちがたくさんいる。だからワールドカップでは、「アジアの戦い」と違って、ニッポンは「弱いチームが強いチームに勝つにはどうすればいいのか」が問われるわけだ。そのためのスペシャリストがハリルホジッチ前監督でもあり、また縦に速いサッカーが求められていたはず。西野ジャパンはポゼッション重視のサッカーをガーナ相手に仕掛けると、完敗するということを改めて確認した。0対2。たとえホームゲームで相手がW杯に出場しないという条件であっても、ガーナくらいが相手だとこうなる。ブーイングが盛大に出たが、こちらのブーイングは「フィデリオ」と違って、なんのワクワク感も残してくれない。

May 30, 2018

「ゴールデンゴールド」(堀尾省太著/講談社)

●Kindleというかamazonのレコメンド機能がスゴいと思うのは、普段、リアル書店であれば絶対に出会わないようなタイプでありながら、きっちり好みの本を見つけ出してくるところ。自分の場合は、長年書店のコミック売り場に近づきもしなかったのに、しつこくamazonで勧められて読んでしまったのがこの「ゴールデンゴールド」(堀尾省太著/講談社)。おもしろい。コミカルなタッチで描かれた一種のホラー。瀬戸内の島で暮らす少女が、あるとき「福の神」のような置物を拾う。これに願いをかけたことから、異形の「福の神」は命と意思を持って動き出す。この「福の神」が視覚的に不気味で怖いんだけど、こいつがなにをするかというと、人の願いをかなえるんすよ。さびれていた町が、好景気に沸き、住人たちが儲かる。そこがじわじわと怖い。願望を満たす恐怖というのが秀逸だと思った。
●最近、やっと第4巻が出たところ。約半年ごとに1冊のペースなので、続きが待ち遠しい。

May 29, 2018

読響次期常任指揮者セバスティアン・ヴァイグレ記者会見

読響次期常任指揮者セバスティアン・ヴァイグレ
●28日は東京芸術劇場で読響の次期常任指揮者セバスティアン・ヴァイグレの記者会見。既報の通り、シルヴァン・カンブルランの後を継いで、2019年4月よりヴァイグレが読響第10代常任指揮者に就任する。最初の任期は2022年3月までの3年間。ヴァイグレは2008年からフランクフルト歌劇場の音楽総監督を務めている。オペラでの経験が豊富で、少しずつコンサートを振る回数が増えてきて「もう少しコンサートを振る回機会を増やしたい」と思っていたところに読響からのオファーが届いたとか。ヴァイグレ「読響常任指揮者はとても名誉ある肩書。読響との仕事は、仕事というよりも楽しみだと思っている。これまでになんどか共演しているが、楽員のみなさんがいつも100%の力で向き合ってくれる。そしてスポンジのようにこちらの求めることを吸収する。多くの楽員がヨーロッパ、ドイツで勉強しており、海外で学んだことを自分の楽団に持ち帰っているという印象を受けた」「読響はサウンドのポテンシャルが高いオーケストラ。私が目指すのはその作品にふさわしいサウンドを作ること」
●読響側からは「保守本流のドイツ・オーストリア音楽のプログラムをできる人、そしてオーケストラ・ビルダーとして演奏水準を高められる人」としてヴァイグレを選んだそう。また前回共演時が好評を博し、とりわけ楽員からの評価も高かったという。最初のシーズンでは2019年5月に3プログラム(ヘンツェの7つのボレロ、ブラームスの交響曲第4番、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」他)、その後6月に東京二期会主催公演で「サロメ」、9月に3プログラム(ハンス・ロットの交響曲、マーラーの交響曲第5番他)、2020年3月に2プログラム(ブラームスの交響曲第1番、シュトラウスの「英雄の生涯」他)を指揮する。
●まだ具体的にはなにも決まっていないが、たとえばフランクフルト歌劇場との協力でフランクフルトのプロダクションを演奏会形式で持ってくるといったアイディアもある模様。また、新作の委嘱も考えている、と。
●ヴァイグレが来日するのは今回でなんと21回目(!)なんだとか。初来日は80年代にシュターツカペレ・ベルリンのホルン奏者として。ホルン奏者時代にソリストとしても来日しており、その後、指揮者となってからサイン会でホルン奏者時代のCDを持ってきてくれるお客さんがいたという嬉しい経験も。日本は大好きだというヴァイグレ。「日本人のプロ意識の高さ、裏方の人々の仕事のレベルの高さ、そして各地のホールのクォリティの高さには毎回感動する。残念ながら、ドイツではそうではない」
●実は今回の会見、当初は先々週に予定されていたのだが、急病で入院することになり、この日に延期になった次第。「盲腸のため、今回の来日は10日間予期せぬ延長になってしまった」。もうすっかり元気ということだが、まさかそんなことになっていたとは。

May 28, 2018

ようこそイニエスタ、全ショップポイント2倍セール

●週末になったがJリーグの試合はない。ワールドカップに向けて中断期間に入った。したがって、ポステコグルー監督率いるマリノスのクレイジー戦術も見れない。波瀾万丈の昼メロのごとく「次はどうなる?」と思わせる中毒性のある戦術だけに、しばらくのポステコ断ちに不安を覚えるほどであるが、そこにJリーグ的に超ビッグニュースが。
●なんと、イニエスタが楽天に移籍。じゃない、ヴィッセル神戸に移籍。まさかJリーグでプレイするイニエスタの姿を見られるとは。さっそく楽天市場ではドーンとイニエスタの写真を使って「ようこそイニエスタ 感動をありがとう!」キャンペーンで、全ショップ対象ポイント2倍セール実施中。まだなにもプレイしてない段階からイニエスタの楽天感が高まっている。これでリーグ戦が再開したらどうなるのか。イニエスタのパスでポイント2倍、ドリブルでポイント4倍、アシストでポイント8倍、ゴールでポイント16倍とポイントが付きそうな予感。どんとこい、楽天メルマガ。
●ともあれ、イニエスタは近年Jリーグにやってきた「大物外国人選手」たちとはぜんぜん意味合いが違う。フォルランみたいなことにはならない。異次元の技術の高さや視野の広さ、判断の速さなど、フィジカルに頼るプレイスタイルではないので、まだまだトップレベルのプレイができるはず。性格的にも真摯に取り組んでくれるだろう。報道によると推定年俸32.5億円でしかも3年契約。ちなみにマリノスは全選手合わせて7~8億円くらい。クラブのオーナーが親会社のオーナー/創業者でもあるという神戸じゃなきゃ、こんな大胆な決断はできないだろうとは思う。あー、イニエスタの超ロングシュートが飯倉の頭の上を超えてゴールに吸い込まれる絵がもう頭に浮かんでる~。

May 25, 2018

読むか、止めるか、ニュースレター

EUのGDPR●ここ数日、ロンドン・フィルだとかChandosレーベルとか、イギリスの団体や企業からいくつか似たようなメールが届いた。内容は、改めてニュースレターの購読を継続する意思があるかを確認するもので、なにもしないと購読者リストから外れてしまうという。えっ、なんでそんな購読者数を大幅に減らすような損なことをやっているんだろう? 継続しようと思ってボタンをクリックしたら、その先で氏名を入力し直して、さらに確認メールを登録アドレスに送って、そこに書いてあるリンクを踏んだらようやく購読手続き完了。これってなんなの。
●と、いぶかしんでいたら本日5月24日からEUで新しい個人情報保護ルール「一般データ保護規則(GDPR)が施行されることをニュースで知る。なるほど、そうだったのね。しかし、企業や団体側からすると、これはなかなか手痛い感じ。こんなふうに意思確認をさせるとなると、大幅に購読者数が減ってしまうはず……と、思っていたら、さっき届いた別の企業のメールは、なにもしなくても引き続きメールを送るよーみたいな内容で、どういう基準になっているのか、よくわからない。あと、明らかにそんなの一度たりとも購読を許した覚えはないようなところからも届いてて苦笑。どさくさに紛れてスパムまがいのメールも送られていそう。
●しかし、この種のプロモーションのメール、Gmailなんかだとぜんぶ「プロモーション」のタブに自動で整理されちゃってほとんど読まれてない気もする。実際、自分も読んでない。もし日本でも同じようなことがあったら、大半を止めてしまうかも。

May 24, 2018

パーヴォ・ヤルヴィ指揮N響のストラヴィンスキー

●23日はサントリーホールでパーヴォ・ヤルヴィ指揮N響。「三大バレエ」抜きのオール・ストラヴィンスキー・プログラムで、バレエ音楽「ミューズの神を率いるアポロ」、同「カルタ遊び」、3楽章の交響曲。先日に続いてあまり実演で聴けない曲を、精緻なアンサンブルと切れ味鋭いサウンドで堪能。
●「ミューズの神を率いるアポロ」は弦楽合奏の響きの精妙さが吉。この曲、ストーリー性が薄く、ツンと澄ましすぎていて近寄りがたい印象だったんだけど、やっと親しみを感じることができたかも。遠くで聴くより近くで聴くべき曲というか。「カルタ遊び」はこの日の白眉。この曲名、訳語はずいぶん昔についたんだろうけど、今だったら「カードゲーム」、あるいはもっと直接に「ポーカー」か。楽しくて、気まぐれ、というポーカー。ストラヴィンスキーは当時だれとポーカーをプレイしていたのだろうか。賭けのレートはどれくらいなんだろう。曲の主役はジョーカー。ポーカーでジョーカーを使うもの? この曲のワルツ、自分はウィンナワルツよりもラヴェル風って感じがする。「セビリアの理髪師」序曲を引用するのはなにか理由があるんだろうか。3楽章の交響曲は、ストラヴィンスキー版の「管弦楽のための協奏曲」。バルトークの傑作とまったく同時期に書かれていることに気づく。
●この日の弦楽器はパーヴォが好むいつもの対向配置ではなく、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスと音域順に並ぶ配置。チェロを外側に置くのは、N響の主要指揮者ではデュトワくらいだったか。だんだんどれが標準的な配置とも言えなくなってきた。

May 23, 2018

「生か、死か」(マイケル・ロボサム著/早川書房)

刑務所
●先日、衝撃的な事件があった。今治市の松山刑務所大井造船作業場から受刑者が脱走したという、あの事件。脱走した囚人が逃げ回っているうちは、遠方でもありそれほど気にしていなかったが、捕まった後に明らかになった脱走理由に戦慄した。「刑務所での人間関係がイヤになった」。刑務所でも人間関係に悩まされる。これほど、悪事を働いてはいけないと固く心に誓わせる一言もない。あと半年で出所できたのに、尾道市の向島から泳いで本州に渡るという逃走劇。あれ、これって似たようなミステリがなかったっけ?
●それはずばり、マイケル・ロボサム著の「生か、死か」(早川書房)。十年の刑に服し、刑務所でも酷い目にあったらしい主人公が、あと一日で出所というところで脱獄する。泳いで逃げる場面も出てくる。うーむ、似てる。もっとも、主人公の人間像は松山刑務所の事件とはだいぶ違っていて(たぶん)、なにせ主人公はタフでクールで賢い信念の人であり、深い思慮のもとに出所日前日に脱獄を敢行したんである。少しカッコよすぎるかなとは思うが、人物描写も秀逸。スティーヴン・キング絶賛。といってもこの惹句には悪い予感しかしないって人もいるか。
●しかし脱獄モノの名作をひとつ挙げるとするならば、そのスティーヴン・キングの中篇「刑務所のリタ・ヘイワース」を迷わず選ぶ(「ゴールデンボーイ―恐怖の四季 春夏編」収録)。この小説は後に映画「ショーシャンクの空に」になった。あの映画も悪くないのだが(特に「フィガロの結婚」からの一曲を囚人たちに聞かせる場面がいい)、惜しいのは結末が大幅に甘口になってしまっているところ。原作には忘れがたい余韻がある。

May 22, 2018

マリノスvs V・ファーレン長崎、大量得点は悪魔の甘い罠

トリコロール●連戦が続いたJリーグもこの試合でワールドカップ中断期間に入る。洗練された超高度戦術を武器に華麗なる残留争いに加わるマリノスは、ホームに高木琢也監督率いるV・ファーレン長崎を迎えた。長崎といえばジャパネットの傘下に入り、高田明社長のもと、夢のJ1昇格を果たして昇竜の勢い。スタジアムには高田社長も観戦に来ている。こうでなくてはっ! まったく頭が下がるというか、うらやましいというか。サッカーはこれだ。今まちがいなく高田社長は人生を楽しんでいるはず。テレビショッピングで財を成し、事業を後進に譲った後は、サッカークラブの経営者となって長崎市民とともに夢を分かち合う。最高じゃないか。巨大企業から出向する「担当者」じゃなくて、本物の「オーナー」だ。アウェイの試合にもかけつける。デジカメや液晶テレビは安売りしても、勝点は安売りしない。昇格したばかりなのに長崎の順位はマリノスより上だ。しかし高田社長には最大限の敬意を込めて、マリノス・サポとして言っておきたい。ワタシはデジカメも液晶テレビもヨドバシカメラやAmazonで買う。ジャパネット? 使ったことないねっ!
●さて、試合だ。ハイライン、ハイプレス、ハイリスク、ハイ失点のポステコグルー監督による戦術だが、実は少し変化があった。キーパー飯倉のポジションがだいぶ常識的になっている。さすがに前節の何度目かのスーパーロングシュートを決められて意気消沈したのか、キーパーがゴールマウスの近くに立っている。それを裏付けるように飯倉の走行距離は4.8キロしかない。どうした、飯倉。今日は7キロ走ってくれないのか? それじゃ相手キーパーと大差ないぞ。おまけにスプリント回数はゼロ。今までは試合中に何度も全力ダッシュしていたのに。マリノスは相変わらずディフェンスラインからボールをつないで高いボール保持率を実現してはいたが、飯倉が後ろにいるままなので、いつもに比べるとフィールドプレーヤーがひとり足りないかのようだ。
●で、どうなったかというと、長崎に先制されるも逆転し、5対2で勝った。久々に勝った! ポステコグルー監督の戦術がいよいよ機能しはじめたということなのだろうか。試合後のコメントで監督は「もっと点を獲れたはず」と悔しがってみせた。しかし、よく考えてみよう。5ゴールの内訳は大津、仲川、仲川、扇原、ミロシュ・デゲネク。大津はPKだ。仲川の2ゴール目は仲川の個人技と相手キーパーのミスから生まれたゴール、扇原のゴールはセットプレイのこぼれ球、ミロシュ・デゲネクはコーナーキックを頭に合わせたゴール。5ゴール中4ゴールは別に戦術とか、関係なくね? 長崎の選手との個の能力差そのものが出ただけでは。
●さて、これからどうする、マリノス。大量得点できたから今の戦術でいいのか、それとも飯倉のポジションを手直ししたように、もっと常識的なサッカーで勝点を積みあげるのか。この5ゴールは悪魔が仕掛けた罠なんじゃないか。なんだか信仰心が試されているような気がする。
●ちなみに、「V・ファーレン」は、「ヴィ・ファーレン」と呼ぶ。クラブ名称にウ濁(ヴ)もナガグロ(・)も入っていて、クラシック音楽愛好家との親和度は高そうである。しかもマスコットが「ヴィヴィくん」と来たらもうたまらない。

May 21, 2018

パーヴォ・ヤルヴィ指揮NHK交響楽団のトルミス、ショスタコーヴィチ、ブルックナー

●18日はNHKホールでパーヴォ・ヤルヴィ指揮NHK交響楽団。トルミスの序曲第2番、ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第2番(アレクサンドル・トラーゼ)、ブルックナーの交響曲第1番ハ短調(リンツ稿)という、日頃耳にする機会の少ない曲が並んだ貴重なプログラム。
●トルミスはパーヴォと同じくエストニア出身の作曲家で、2017年に世を去ったばかり。この序曲第2番は1959年の作品。リズミカルで反復的、スポーティといっていいくらいのエンタテインメント性。結尾で「終わった」と思った後にもう一撃あるという、いじわるなワナ。ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第2番、第2楽章だけが妙に神妙で真摯な音楽になっているが、トラーゼは最弱音を効果的に使って陶酔的な表現。第3楽章の狂躁とのコントラストが鮮やか。カーテンコールを繰り返した後、パーヴォに「ささ、どうぞ椅子に座って」とばかりに促されて、アンコールとしてスカルラッティのゆったりとしたソナタを一曲。指揮台の隅に腰かけて聴き入るパーヴォ。次第に消え入るような弱音で余韻たっぷり。
●休憩をはさんで(長大な「ブルックナー行列」といいたいところだが、NHKホールはいつもそうかも)、ブルックナーの交響曲第1番。さすがに粗削りで、「つなぎ目」の目立つ仕上がりだと感じるが、脈絡のない気まぐれさは新鮮で吉。パーヴォ&N響のきびきびとして弛緩することのない演奏があってこその楽しさか。交響曲第2番での飛躍を思わずにはいられない。終楽章の冒頭主題のダサカッコよさに身悶え。時代劇のテーマ曲とかに使えないだろうか。コーダは力技のクライマックスだが、一曲目のトルミスとは逆にいくぶん肩透かし気味で曲を閉じる。「あれ?」みたいな一瞬の沈黙をはさんで、大喝采。

May 18, 2018

夢のなかのスタジアム

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●先日、本当に見た夢の話だ。ワタシはフランスを訪れており、バスに乗っていた。すると、次の停留所が「ムサシノ・リクジョー・キョギジョー」みたいな発音でアナウンスされた。あ、これって武蔵野陸上競技場のことか。そうそう、あのスタジアムって東京とフランスの境目にあるから、フランス側にもバスが通っているんだった。「次止まります」とフランス語で書いてあると思しきボタンを押して、バス停で降りる。すると、人気のない昼間のスタジアムに着いた。フランス人たちがぽつぽつとまばらに立っている。ここはまだフランス国内なのだ。巨大なコンクリートの柱の足元を歩いていると、いつの間にか国境を越えたらしく、日本の風景に変わった。日本の子供たちが野原で遊んでいる。へえ、ここからだと簡単に帰国できて便利じゃん。パスポート見せずに通ってしまったけどいいんだろうか。ま、いいか、帰国できたわけだし。このバスで帰国するルートはとても便利だ。飛行機を使わずに済む。このお得情報はぜひブログで紹介しよう。いや、待て待て。フランスと日本が地続きになっているわけがないじゃないの。そうだ、これはただの夢だ! なんだ夢かー。せっかくブログのネタにしようと思ったのに、これじゃあ使えない。

May 17, 2018

新国立劇場「フィデリオ」演出家カタリーナ・ワーグナー記者懇談会

カタリーナ・ワーグナー
●新国立劇場開場20周年記念特別公演として、まもくなく上演されるベートーヴェン「フィデリオ」(5月20日~6月2日)。その演出家カタリーナ・ワーグナーとドラマツルグのダニエル・ウェーバーとの記者懇談会が16日に開かれた。カタリーナ・ワーグナーはバイロイト音楽祭総監督であり、作曲家リヒャルト・ワーグナーのひ孫。
●今回の新演出について活発に質問が寄せられた。いくつか要点を挙げると、まず、時代や場所については、特定のどこでもないような設定になる。音楽のないセリフの部分は大幅にカットされるが、プロットの展開上必要なところだけは残される。そして、結末の部分には余白が残される。つまり、見る人がそれぞれに考えさせられるようなオープンな結末になる。それと、このオペラでたびたび議論になる「女性が男性に変装する」という部分について、ほんの少しだけ趣向を明かすと、あえて変装する様子を見せるような演出になっている。「演出はたったひとつのアイディアだけでは足りない。作品すべてを満たせるようなアイディアのある作品だけを取り上げたいと思っている」(カタリーナ・ワーグナー)。説得力のある斬新な演出を期待してよさそう。
●新国立劇場についてカタリーナ・ワーグナーが語った点もまとめておこう。「このオペラでは特に合唱に魅力を感じる。新国立劇場の合唱団は本当にすばらしいので、ますます合唱のシーンにひかれるようになった」「演出家にとっては、劇場の姿勢も大切。そのプロダクションを世に出したいという強い姿勢がないといけない。新国立劇場はすべてのスタッフが高度にプロフェッショナルな仕事をしていて、しかもフレンドリー。あまりにも完璧な仕事ぶりなので、怒りの感情を忘れてしまうほど」。この「怒りの感情を忘れてしまう」というフレーズがなんだかおもしろい。
●東京ではつい先日まで、たまたまチョン指揮東フィルの「フィデリオ」演奏会形式が上演されていたわけだが、「フィデリオ」台本のトンデモぶりについてここで書いた。でも、カタリーナ・ワーグナーとダニエル・ウェーバーの「フィデリオ」には一本筋の通った現代性があるんじゃないかな、と期待を煽られる。ワクワク。

May 16, 2018

ルービックキューブ、今どきの

ルービックキューブ、今どきの
●ルービックキューブは知らない間に進化を遂げていた。最初に発売された当時は猫も杓子もこの六面体に夢中になる特大ブームが訪れて、正規品だけでは供給が追い付かず、いくぶん雑な作りの偽物が横行したという記憶があるが、それから38年。今ではさまざまなメーカーから多種多様のキューブが発売されているばかりか、根本的な動作原理が進化したらしく、一昔前のものとは違って「ヌルヌル」と動くっぽい。
●ということで、買ってみたのは Newislandスピードキューブ。競技用(ってなんなんだ)をうたっているだけあって、ヌルヌルと動く。回りすぎるくらい回る。きっちりと角がそろってなくても、えいやで回ってしまいそうな滑らかさ。自分が以前から持っていたものと比べると、ほんの少しサイズが小さく、配色が微妙に違うのだが、こちらが世界標準らしい。あと、この商品がいいと思ったのは、各面にシールが貼ってあるのではなく、プラスチックそのものが着色されているので、シールが剥がれて汚くなる心配がない。インテリア的に使うのにも吉かと。
●親切にも6面完成攻略書までついているのだが、こちらは読まずに、子供の頃に覚えたそろえ方を記憶の奥底から呼び戻してみる。

May 15, 2018

ARK Hills Music Week 2018 ~ サントリーホール ARKクラシックス 記者会見

ARKクラシックス 記者会見
●14日、サントリーホールのブルーローズ(小ホール)にて、ARK Hills Music Week 2018 ~ ARKクラシックスの記者会見。毎年に秋に開催されている「アークヒルズ音楽週間」が今年より ARK Hills Music Week と名称を変更するのだが、そのオープニングを飾るコンサートシリーズとして「サントリーホール ARKクラシックス」が新たに始まることとなった。主催はサントリーホールとエイベックス・クラシックス。アーティスティック・リーダーとして、写真左より三浦文彰(ヴァイオリン)と辻井伸行(ピアノ)。10月5日から8日にかけて全9公演。三浦文彰と辻井伸行によるフランクのヴァイオリン・ソナタをはじめ、シューベルトの「ます」、ショパンのピアノ協奏曲第2番室内楽版など、室内楽が中心。出演者はほかにユーリ・バシュメット&モスクワ・ソロイスツ、ザ・ベース・ギャング(コントラバス四重奏)、ヴィキングル・オラフソン、川久保賜紀、遠藤真理、三浦友理枝他。
●三浦文彰と辻井伸行のおふたりは以前より交流があり、プライベートでもカラオケや食事にも行くという間柄。三浦「10年前くらいからヨーロッパで室内楽を演奏する機会が増えてきた。日本でももっと室内楽を演奏できればと思っていたが、今回このような機会が実現してうれしい。室内楽ではお互いがお互いをよく知ることが大切。辻井さんは自然体で多忙なスケジュールをこなす一方で、本番での集中力はすごい」。辻井「三浦さんとはとても気が合う。室内楽は音と音による会話がおもしろい。オーケストラと合わせるのとはちがった楽しさがある」
●4日間で9公演だが、そのうち10月6日(土)は昼から夜にかけて5公演が開催される。9公演中6公演は休憩なしの1時間プログラム。アークヒルズと近隣でもさまざまな無料コンサートやイベントが開催されるということなので、合わせて楽しめるようになっている。カラヤン広場で無料のパブリック・ビューイングも。ヴィキングル・オラフソンはDGからフィリップ・グラスの作品集をリリースしている売出し中のピアニストで、やはりフィリップ・グラスを弾く。

May 14, 2018

マリノスvsガンバ大阪、戦術さえ機能すればもはや勝点などどうでもいい

トリコロール●さて、残留争いを戦うマリノスは下位同士の直接対決、マリノスvsガンバ大阪戦。J1ではどうやら広島がぶっちぎりの1位でリードしているそうなのだが、そんな頂上の出来事などわれわれの眼中にはない。ハイライン、ハイプレス、ゴールキーパーとディフェンスラインの一体化を掲げ、ポステコグルー教祖のもと「機能すると勝てず、機能しないと勝てる」ポストモダン戦術によってJリーグを席巻するマリノス。こんなサッカー、見たことない。今年のマリノスさんは強いですねえ。対戦相手が口々にそう言い続けて3勝5分6敗で15位。戦術が特殊すぎて孤高の存在、いや孤低の存在になりつつある。
●で、ガンバ大阪戦。またゴールキーパーの飯倉がやられた。戦術の都合上、毎試合6~7キロは走らなければならないというウチのキーパーは、かなりの時間帯でゴールをがら空きにしてディフェンスラインに加わってゲームの組み立てに参加している。だから対戦相手は毎試合のように臆面もなく超ロングシュートを狙ってくる。ふふ、なんと安直な考え、そんな超ロングシュートがそうそう入るわけがなかろう……といいたいところだがっ! これが入るんだっ! 本当に容赦なく入るっ! こんどは藤本淳吾にハーフラインよりずっと手間から60メートル弾を決められたよっ! もう今季3本目じゃないか超ロング入れられたの。恐ろしい、Jリーグのレベルは高い。今季のマリノスはこんなふうにボカスカと失点している。対戦相手の高笑いが聞こえてくるようだ。
●一方、マリノスは天野純の完璧なフリーキックで1点を返した。このキック、左足で蹴って左から巻いてゴール左上に入るというキックで、あの位置から決められるレフティはそうそういない。しかし、よく考えてみよう。マリノスは特殊戦術のおかげでかなりの時間、ボールを支配し、主導権を握って攻撃し続けていたわけだが、ゴールが入ったのは戦術とは無関係な天野純の超絶技巧のおかげなんである。戦術が機能すると失点はするが得点はできず、戦術と無関係なシーンで得点が生まれる。なんという倒錯的戦術なのか。1対1でドロー。
●しかし勝点など気にしてどうする。今われわれはこのうえなくエキサイティングな戦術を完成させつつあるのだ。この美しいアタッキングフットボールのためなら、J2に落ちようが、J3に落ちようが関係ない。ポステコグルー監督には地獄の果てまでこのチームを率いていただきたい。もはやありきたりのサッカーでは、刺激に乏しく満足できない。これは伝説だ。なぜほかのチームはウチの戦術をマネようとしないのだろうか?

May 11, 2018

チョン・ミョンフン指揮東フィルの「フィデリオ」演奏会形式

●10日は東京オペラシティでチョン・ミョンフン指揮東フィルのベートーヴェン「フィデリオ」演奏会形式。今月は新国立劇場でも「フィデリオ」が上演されるので、初台駅のあっち側とこっち側で「フィデリオ」を聴くことができるという僥倖。東フィルはすでにBunkamuraとサントリーホールでも「フィデリオ」を演奏していて、これが3公演目。5月の東京は「フィデリオ」大強化月間なのだ。
●で、東フィルの「フィデリオ」だが、「フィデリオ」序曲ではなく「レオノーレ」序曲第3番で開始された。この序曲、あまりにも完璧な作品なので使わないのはもったいないし、かといって使うとそれ自体でドラマが完結してしまっていて浮いてしまうという悩み深い存在だが、これを冒頭に持ってくるとは。いきなりクライマックスみたいな開幕。20世紀巨匠風の雄渾なベートーヴェン。序曲の後、いったん指揮者が袖に帰って、そうだ、これは演奏会形式なのだと思い出す。以降、音楽のないセリフの部分を割愛してサクサクと進む。先日のパーヴォの「ウエスト・サイド・ストーリー」なんかもそうだったけど、あらかじめストーリーを知っていないとなにが起きているのか理解できないわけだが、演奏会形式とはそういうものといえばそういうものか。合唱は東京オペラシンガーズ。
●レオノーレにマヌエラ・ウール、ロッコにフランツ=ヨーゼフ・ゼーリヒ、ドン・ピツァロにルカ・ピサローニ。みんなすばらしいんだけど、2幕でフロレスタンのペーター・ザイフェルトが第一声を発声した瞬間にガラッと世界が変わった。みずみずしい美声でまだまだ声は若々しく、声量も表現力もずば抜けている。オーラすごすぎ。フィナーレではパワフルな合唱とオーケストラが高らかに勝利を告げて、圧倒的な高揚感。客席の盛り上がりぶりは大変なもので、盛大なブラボーとスタンディングオベーション。今年自分が足を運んだ公演では最高の熱狂度か。これは東フィルの東京オペラシティ定期シリーズの一環として開かれた公演なんだけど、東フィルのお客さんは若い人もかなり多い。あとなぜか外国人率がとても高い。
●で、ここからはベートーヴェンに苦情だ。あのさ、このオペラってゾンライトナーって人が台本を書いてるんだけど、作曲する前にどうしてこれにダメ出ししなかったのよ? おかしいでしょ、これ。オペラには奇妙な台本がいくらでもあるけど、そのなかでも「フィデリオ」は群を抜いてひどいと思う。男女の入れ替えとかは別にいいんすよ、それは様式だから。いちばんよくないのは、最大の山場であるはずのレオノーレが自分の正体を明かして、ドン・ピツァロからフロレスタンを守ろうとする緊迫の場面で、さあ、この窮地をいったいどうやって抜け出すのかなという劇的展開が期待されるところを、「正義の大臣、到着しました~」っていうのんびりしたトランペットひとつで解決してしまっているところ。19世紀にもなって、広げた風呂敷をデウス・エクス・マキナで畳まないでほしい。いくらテーマと主張が高邁であっても、そこに有効なプロットを肉付けしなかったら物語は成立しないんだと台本作家に言いたい。
●じゃあ、あの場面、どう展開すればいいのか。ドン・ピツァロがふたりとも殺してやろうとナイフを持ってレオノーレに襲いかかる。しかし、そこに飛び出たのがロッコだ。この物語で唯一善と悪の間で葛藤を見せる生きた人物がロッコ。ロッコは身を挺してレオノーレを守り、身代わりになって死ぬ。なぜそんなことをするのかと動揺するドン・ピツァロ。レオノーレはロッコの死体からナイフを抜く。そしてドン・ピツァロの心臓を一突き。レオノーレは言う。「これがレオノーレのキッスよ!」(←それは違うオペラだ)。
●でも、いくら台本の代案を考えても、ベートーヴェンの曲はだれも書けないんすよね。台本はいくらでも直せるけど、ベートーヴェンが曲をつけたらもうだれにも直せない。この音楽は神の領域。

May 10, 2018

「そしてミランダを殺す」(ピーター・スワンソン著/創元推理文庫)

●最近読んだミステリのなかでも、とりわけ感心したのが、ピーター・スワンソンの「そしてミランダを殺す」(創元推理文庫)。実に手際よく、鮮やかなページターナー。といっても、なにか驚くべきような大ネタがあるとか、重厚な読みごたえがあるというのではまったくない。むしろ逆。できのいい海外ドラマをカウチで寝そべって眺めているような気安さがあって、なにも身構えずに楽しめるのが吉。ぜんぜん話は似てないけど、たとえるなら「刑事コロンボ」の傑作回くらいの感じ。
●男が空港でたまたま会った美女と殺人計画を練るというのが事の発端で、男女4人の思惑が交錯して、女が浮気して、男も浮気を企んで……って、あれ、なんだか暗黒の「コジ・ファン・トゥッテ」みたいじゃないの。これってシンクロニシティ?
●話の閉じ方がうまい。絶妙。

May 9, 2018

METライブビューイング「コジ・ファン・トゥッテ」

●8日は東劇でMETライブビューイング「コジ・ファン・トゥッテ」。お目当てはフェリム・マクダーモットの新演出。コニーアイランドの遊園地を舞台にした50年代レトロアメリカン・テイストがカッコいい。おまけで見世物小屋の大道芸人たちが加わっておもちゃ箱をひっくり返したような賑やかさ。火吹き女に蛇つかい女、小人、ひげ女、剣食い兄妹……。みんな本物。黙役なのにオーラが半端ではない。遊園地テーマのセットもMETならではの手のかかったもの。歌手たちの動きもよく練られていて、1幕のモーテルの部屋で扉を開け閉めしながら出入りする場面の手際の良さに舌を巻く。こういうのを見てしまうと、もう並の演出には耐えられなくなるんじゃないかと心配になるほど。
●歌手陣では2組4人のカップルをアマンダ・マジェスキー(フィオルディリージ)、セレーナ・マルフィ(ドラベッラ)、ベン・ブリス(フェルランド)、アダム・プラヘトカ(グリエルモ)が好演。みんな歌も演技も達者。異質なのはケリー・オハラのデスピーナで、通常なら若い小娘的な役柄のところを、モーテルの掃除のオバチャン的な役柄になっていて、若い娘に説教する成熟した女性といった感。所作のモッサリ感がかなり気になるんだけど、そういうデスピーナもありうるのか。ドン・アルフォンソのクリストファー・モルトマンはいかにも老獪。指揮はデイヴィッド・ロバートソン。マッチョなモーツァルトで、もう少し軽快さやスピード感が欲しくなるが、立派ではある。
●「コジ・ファン・トゥッテ」って、きわどいテーマを含んでいるわけだけど、この演出はコメディに徹している。なにせ、実際に笑える。これはオペラでは貴重。安い笑いを強要したりせず、気の利いたさらっとした笑いを散りばめているのが吉。で、ハッピーエンドなんだけどハッピーエンドになるわけがない結末の解釈は、聴衆の側に委ねられる。どうするんすかねー、これからこの4人は。
●開幕前に流れるMETのプロモーションビデオみたいな映像から、レヴァインの姿が消え、代わってネゼ=セガンが映し出されている。当初の予定を早めて音楽監督に就任。幕間にピーター・ゲルブとの対談コーナーもあって、もうすっかりMETの顔といった様子。フィラデルフィア管弦楽団の音楽監督も務め、ベルリン・フィルにも客演し、八面六臂の活躍ぶり。

May 8, 2018

ラ・フォル・ジュルネTOKYO2018を振り返る その2

●LFJ2018、音楽面については昨日振り返ったので、続いてイベント全体について。今年の開催結果が報告されているので、昨年と比較してみよう。

[2018年 モンド・ヌーヴォー 新しい世界へ]
来場者総数(のべ人数)432,000人
チケット販売数 119,177枚(有料チケット総数 182,007枚)
販売率 65.5%

[2017年 ラ・ダンス 舞曲の祭典]
来場者総数(のべ人数)422,000人
チケット販売数 115,778枚(有料チケット総数 141,574枚)
販売率 81.8%

今回は丸の内エリアと池袋エリアでの分散開催となったので、その影響がどういうふうに出ているのかなと思ったのだが、来場者総数とチケット販売数は昨年を上回り、販売率は下がった。チケット販売数は昨年から約3%ほどの増。分散開催になり公演数が増え、分母の有料チケット総数が大きく増えているため、販売率はぐっと下がっている。「人は増えたけど人口密度は薄まった」というのは肌で感じたところと一致しているかな。
ロッシーニバーガー
●丸の内エリアでは、地上広場で初登場の「俺のフレンチ」がフォワグラとトリュフソースのロッシーニバーガーを販売。1個1000円也。これが大人気でいつ店の前を通りかかっても行列ができているか、売り切れ。早期にオペラ作曲家から引退して食通として名を馳せたロッシーニは、料理の世界にもロッシーニ風ステーキといった名を残しているわけだが、そんな逸話にちなんでのしゃれっ気のあるメニュー。これまで屋台村は音楽祭とは別個に勝手に繁盛しているみたいな感じだったが、やっぱり音楽祭と連動したメニューがあると盛り上がる。もっとも、行列に並ぶのが苦手な自分は結局ロッシーニバーガーをあきらめて、ケバブを食べていたというチキン。
●今回、東京国際フォーラムにOTTAVAのブースがなかったじゃないすか。あそこにOTTAVAのブースがないと、すごくひっそりした感じになる。あのブースから音楽祭が得ていた「お祭り感」は大きかったんだなと気づく。

May 7, 2018

ラ・フォル・ジュルネTOKYO2018を振り返る その1

ラ・フォル・ジュルネTOKYO2018 東京芸術劇場
●今年から主催者側の体制が変わり、丸の内エリアと池袋エリアの2か所で並列開催されることになったLFJ。いろんなことが一新されて、新たに誕生したものもあれば失われたものもある。いうなれば音楽祭のメジャー・バージョンアップ。でもナント側でのLFJはなにも変わっていないわけで、コンテンツは同一だけど、ローカライズのあり方がバージョンアップしたと考えればいいのだろう。
●で、聴いた公演に関して言えば、とても楽しめた。体力的なことも考えて「朝から晩まで」と欲張らなかったのがよかったかも。初日は有楽町→池袋、二日目は有楽町、三日目は池袋。以下、特に印象的だった公演のみ備忘録的に。
●初日は、東京国際フォーラムの展示ホールで「題名のない音楽会」の収録があり大盛況。石丸幹二さんの人気ぶりを改めて実感。ルネ・マルタンも登場して、何人かのアーティストを次々と紹介してくれたが、いちばん目をひいたのはマリー=アンジュ・グッチ。なにを弾くのかと思ったら、サン=サーンスのピアノ協奏曲第5番「エジプト風」の終楽章と思しき曲を弾きはじめた。あの協奏曲、「トッカータ」というソロの曲として再利用されていたんすね。初めて聴いたかも。演奏後に一言求められて、なんと、日本語による自己紹介を敢行。日本で演奏することが決まったからと日本語を勉強してきたのだとか。まだ20歳。
●その後、池袋に移動して東京芸術劇場地下のシアターウエストで、そのグッチのリサイタル。ショパン、ラフマニノフと来て、メインはプロコフィエフのピアノ・ソナタ第6番。強靭な打鍵から透き通った音色が生まれてくる。キレも重みもあり、技巧は鮮烈、堅牢。アンコールにラヴェルの左手のためのピアノ協奏曲から弾きはじめて、ついさっき有楽町で聴いたサン=サーンスと合わせて「今にも協奏曲を弾くぞ」感がひしひし。この人もあと何年かしたら「忙しくなってLFJを卒業するアーティストたち」の一員になってしまうのだろうか。ところでこの人の姓の綴りは Nguci で、だれも読み方がわからなかったのだが、2月のナント・ツアーで関係者が本人に確認したら「あの有名ブランドと同じ発音」ということで「グッチ」と日本語表記されることになった次第。
●二日目はたくさん聴いた。ホールCでベレゾフスキーとギンジンの巨漢デュオがバルトークの2台ピアノと打楽器のためのソナタを演奏(パーカッションは安江佐和子、藤本隆文)。合わせてラフマニノフの交響的舞曲もやはり2台ピアノと打楽器版で演奏されたのだが、これはどういう編曲なんでしょ。しかし恐るべきパワーを誇る大男たちでも打楽器の音量には打ち勝てないのであった。同じくホールCでラルス・フォークトは純然たる指揮者として、自身が音楽監督を務めるロイヤル・ノーザン・シンフォニアを指揮。室内オーケストラの機動力が生かされた清新で軽快なモーツァルトとストラヴィンスキー。ホールB5でルーカス・ゲニューシャスがヒンデミットの「ルードゥス・トナリス」全曲。これは強烈。くらくらとするようなニュアンスの豊かさとダイナミズム。LFJとしては長めの公演で、大曲を聴き切った満足感。譜面台にタブレットを置いて、フットスイッチでセルフ譜めくり方式。吉。アンコールにデシャトニコフの「ブコビナの歌」前奏曲を弾いて、小さな会場がわき上がった。夜はふたたびホールB5でルイス・フェルナンド・ペレスでアルベニスの「イベリア」全曲演奏のvol.1とvol.2。得意の「イベリア」とあって、圧倒的な熱量と官能性。最後はよれよれになりながらゴールのテープを切ったという風。ペレスはむらっけのある人だと思うんだけど、気持ちが乗ったときの攻めの姿勢は本当にすばらしい。この曲集にみなぎる怪物的ローカリズムとロマンにあらためて圧倒される。アンコールでモンポウの「子供の情景」より「庭の乙女たち」とソレールのソナタを一曲。夜遅くになったがお客さんは大満足だったはず。
●三日目、この日は唯一東京芸術劇場のコンサートホールで「0歳からのコンサート」が開催された。角田鋼亮指揮兵庫芸術文化センター管弦楽団で、司会は中村萌子。これほど会場のすぐれた音響効果がものをいう公演もないと実感。東京国際フォーラムのホールAと比べると客席とステージの距離がはるかに近いことと、客席数が半分以下であることの相乗効果で迫力が増し、舞台と聴衆の結びつきがぐっと強まっていた。司会と指揮者のトークもよく客席の心をつかんでいて感心するばかり。しかも、コルンゴルトが11歳で書いたというバレエ「雪だるま」序曲とか、同じくコルンゴルトの「シュトラウシアーナ」とか、ツェムリンスキーの「時の勝利」からの3つのバレエ音楽から第3番とか、そんな珍しい曲も聴けてしまう。ストラヴィンスキーの「サーカス・ポルカ」で、音楽に合わせて子供たちがゾウさんのマネをするとかいう趣向なんかも、ストラヴィンスキーが草葉の陰でどんな顔をしているかと思うと実に痛快。そして公演を通して聞こえる大勢の赤ちゃんたちの泣き声ほど希望にあふれた環境音はなく、立ち上がって赤ちゃんを抱っこしてあやす親御さんたちの姿はこのうえなく眩しく、感動的な光景だった。

May 2, 2018

ベルリン・フィルの2018/19シーズン

ベルリン・フィルの2018/19シーズンが発表されたので眺めてみる。キリル・ペトレンコは来季になってもまだ「次期首席指揮者」。それなりに出番は増えているが、プログラムの数はかなり限られている。オープニング・コンサートにシュトラウスの「ドン・ファン」「死と変容」とベートーヴェンの交響曲第7番を指揮、ツアーではこのプログラムに加えてすでにDCHでも公開されているユジャ・ワンとのプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番とフランツ・シュミットの交響曲第4番をくりかえし指揮。2019年3月になってコパチンスカヤとのシェーンベルクのヴァイオリン協奏曲とチャイコフスキーの交響曲第5番。ワンシーズン経ってもこれくらいしかDCHのアーカイブが増えないわけで、渇望感が煽られるところではある。
●その分、客演指揮者の数は多めか。デビューを果たすのがヤクブ・フルシャとミヒャエル・ザンデルリング、コンスタンティノス・カリディス。あとはドゥダメル、ハーディング、ネルソンス、ガッティ、ロト、ビシュコフ、オラモ、パーヴォ・ヤルヴィ、ゲルギエフ、イヴァン・フィッシャー、バレンボイム、ソヒエフ、ヤンソンス、ギルバート、ヤノフスキ、ネゼ=セガン、メータ、ハイティンク、ブロムシュテット。作曲家枠(?)でジョージ・ベンジャミンも。もちろんラトルも登場。こうして並べると、けっこう日本のオーケストラと縁の深い人も多いなと感じる。
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●さて、明日から三日間はラ・フォル・ジュルネTOKYO。今年は行ってみないとわからないことがいくつもあってドキドキする。有楽町と池袋、行先をまちがえないようにせねば!

May 1, 2018

マリノスvs鹿島アントラーズ、オレたちはカルトだ

トリコロール●ったく、日本サッカー協会に代わってハリルホジッチ前監督にお詫びしたい。いいのか、あれで。いいわけない。言いたいことは山ほどあるが、そこはぐっとこらえて、Jリーグだ。試合が終わったと思ったら、もう次の試合がやってくる。ワールドカップイヤーのうえにゴールデンウィークだ。盆と正月がいっぺんにやってきた。そんな嵐のようなリーグ戦で、わがマリノスは華々しい過激戦術を敢行してひそかに残留争いに巻き込まれつつある。Jリーグ創設時の「オリジナル10」のなかで、一度もJ2降格を経験していないのが、マリノスと鹿島アントラーズ。そんな両者がぶつかったマリノスvs鹿島アントラーズ戦。こちらも低迷しているが、鹿島まで低迷しているではないの。常勝軍団がこんなところにいるとは。
●さて、試合だ。試合前のインタビューで語っていたようにポステコグルー監督は、相変わらずハイライン、ハイプレス、異常ゴールキーパーポジションの戦術を貫徹するようである。が、どうだろうか、これまでよりも少し選手間の距離は広めなのでは。そして、攻め込まれたときは場合によってはクリアもやむなしという常識的な判断がほんの少しではあるが垣間見えた気がする。もちろん、ゴールキーパーの飯倉はこの日も走り回っている。自分たちがボールを保持している場面では、キーパーはディフェンス・ラインの一員としてビルドアップに参加する(だからゴールはガラ空きだ。今日もまた超ロングシュートを狙われてあわや)。そうすることでフィールドプレーヤーの数を11対10の数的優位に保つというのがポステコグルー戦術の肝。これによってマリノスはボール保持率を飛躍的に高めることができる。
●ところが、この鹿島戦、マリノスのボール保持率はちっとも上がらない。鹿島もまた前線からプレスをかけ、積極的なアタッキング・フットボールを目指してきた結果、ボール保持率もパスの本数もほぼ拮抗するという展開になってしまった。これは焦った。なにしろ今までなら楽にボールを持てたのに、この相手だと半分は相手にボールを持たれ、半分の時間は攻められてしまうのだ。いつもと同じ戦術で戦っているつもりが、こちらの目指すサッカーが体現できない。すると、どうなったか。ずばり、3対0で完勝してしまった! ゴールは遠藤渓太、天野純(俊輔ばりのフリーキック)、中町公祐(仲川の完璧なアシスト)。戦術がうまく機能しなかったら勝てたのだ。 ぐわぉ! どこまで倒錯的なんだ、ポステコグルー監督の戦術は。戦術が正しく機能すると負ける。機能しないと勝つ。ハハハ、これが負けるための戦術、ポストモダン・フットボールというものなのだよ。そんな監督の高笑いが聞こえてきそうである。事実、試合後のインタビューで監督はこう語っている。「うれしい結果になったが、非常に難しい試合になってしまった。ここ数試合と比べるとあまりコントロールできていなかった」。その「ここ数試合」でわれわれはずっと勝てなかったわけだが。
●負けても強気だったポステコグルー監督は、鹿島相手に完勝して反省している。そう、われわれは勝敗など眼中にない。順位もだ。大事なのは戦術を機能させること。これはカルトだ。革命的戦術のためなら勝敗がなんだというのだ。理想のフットボールの実現にむけて、われわれはポステコグルー同志とともに力強く歩みたい。伝説は続く。

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