●8日は東劇でMETライブビューイング「コジ・ファン・トゥッテ」。お目当てはフェリム・マクダーモットの新演出。コニーアイランドの遊園地を舞台にした50年代レトロアメリカン・テイストがカッコいい。おまけで見世物小屋の大道芸人たちが加わっておもちゃ箱をひっくり返したような賑やかさ。火吹き女に蛇つかい女、小人、ひげ女、剣食い兄妹……。みんな本物。黙役なのにオーラが半端ではない。遊園地テーマのセットもMETならではの手のかかったもの。歌手たちの動きもよく練られていて、1幕のモーテルの部屋で扉を開け閉めしながら出入りする場面の手際の良さに舌を巻く。こういうのを見てしまうと、もう並の演出には耐えられなくなるんじゃないかと心配になるほど。
●歌手陣では2組4人のカップルをアマンダ・マジェスキー(フィオルディリージ)、セレーナ・マルフィ(ドラベッラ)、ベン・ブリス(フェルランド)、アダム・プラヘトカ(グリエルモ)が好演。みんな歌も演技も達者。異質なのはケリー・オハラのデスピーナで、通常なら若い小娘的な役柄のところを、モーテルの掃除のオバチャン的な役柄になっていて、若い娘に説教する成熟した女性といった感。所作のモッサリ感がかなり気になるんだけど、そういうデスピーナもありうるのか。ドン・アルフォンソのクリストファー・モルトマンはいかにも老獪。指揮はデイヴィッド・ロバートソン。マッチョなモーツァルトで、もう少し軽快さやスピード感が欲しくなるが、立派ではある。
●「コジ・ファン・トゥッテ」って、きわどいテーマを含んでいるわけだけど、この演出はコメディに徹している。なにせ、実際に笑える。これはオペラでは貴重。安い笑いを強要したりせず、気の利いたさらっとした笑いを散りばめているのが吉。で、ハッピーエンドなんだけどハッピーエンドになるわけがない結末の解釈は、聴衆の側に委ねられる。どうするんすかねー、これからこの4人は。
●開幕前に流れるMETのプロモーションビデオみたいな映像から、レヴァインの姿が消え、代わってネゼ=セガンが映し出されている。当初の予定を早めて音楽監督に就任。幕間にピーター・ゲルブとの対談コーナーもあって、もうすっかりMETの顔といった様子。フィラデルフィア管弦楽団の音楽監督も務め、ベルリン・フィルにも客演し、八面六臂の活躍ぶり。
May 9, 2018