●新国立劇場開場20周年記念特別公演として、まもくなく上演されるベートーヴェン「フィデリオ」(5月20日~6月2日)。その演出家カタリーナ・ワーグナーとドラマツルグのダニエル・ウェーバーとの記者懇談会が16日に開かれた。カタリーナ・ワーグナーはバイロイト音楽祭総監督であり、作曲家リヒャルト・ワーグナーのひ孫。
●今回の新演出について活発に質問が寄せられた。いくつか要点を挙げると、まず、時代や場所については、特定のどこでもないような設定になる。音楽のないセリフの部分は大幅にカットされるが、プロットの展開上必要なところだけは残される。そして、結末の部分には余白が残される。つまり、見る人がそれぞれに考えさせられるようなオープンな結末になる。それと、このオペラでたびたび議論になる「女性が男性に変装する」という部分について、ほんの少しだけ趣向を明かすと、あえて変装する様子を見せるような演出になっている。「演出はたったひとつのアイディアだけでは足りない。作品すべてを満たせるようなアイディアのある作品だけを取り上げたいと思っている」(カタリーナ・ワーグナー)。説得力のある斬新な演出を期待してよさそう。
●新国立劇場についてカタリーナ・ワーグナーが語った点もまとめておこう。「このオペラでは特に合唱に魅力を感じる。新国立劇場の合唱団は本当にすばらしいので、ますます合唱のシーンにひかれるようになった」「演出家にとっては、劇場の姿勢も大切。そのプロダクションを世に出したいという強い姿勢がないといけない。新国立劇場はすべてのスタッフが高度にプロフェッショナルな仕事をしていて、しかもフレンドリー。あまりにも完璧な仕事ぶりなので、怒りの感情を忘れてしまうほど」。この「怒りの感情を忘れてしまう」というフレーズがなんだかおもしろい。
●東京ではつい先日まで、たまたまチョン指揮東フィルの「フィデリオ」演奏会形式が上演されていたわけだが、「フィデリオ」台本のトンデモぶりについてここで書いた。でも、カタリーナ・ワーグナーとダニエル・ウェーバーの「フィデリオ」には一本筋の通った現代性があるんじゃないかな、と期待を煽られる。ワクワク。
May 17, 2018