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May 23, 2018

「生か、死か」(マイケル・ロボサム著/早川書房)

刑務所
●先日、衝撃的な事件があった。今治市の松山刑務所大井造船作業場から受刑者が脱走したという、あの事件。脱走した囚人が逃げ回っているうちは、遠方でもありそれほど気にしていなかったが、捕まった後に明らかになった脱走理由に戦慄した。「刑務所での人間関係がイヤになった」。刑務所でも人間関係に悩まされる。これほど、悪事を働いてはいけないと固く心に誓わせる一言もない。あと半年で出所できたのに、尾道市の向島から泳いで本州に渡るという逃走劇。あれ、これって似たようなミステリがなかったっけ?
●それはずばり、マイケル・ロボサム著の「生か、死か」(早川書房)。十年の刑に服し、刑務所でも酷い目にあったらしい主人公が、あと一日で出所というところで脱獄する。泳いで逃げる場面も出てくる。うーむ、似てる。もっとも、主人公の人間像は松山刑務所の事件とはだいぶ違っていて(たぶん)、なにせ主人公はタフでクールで賢い信念の人であり、深い思慮のもとに出所日前日に脱獄を敢行したんである。少しカッコよすぎるかなとは思うが、人物描写も秀逸。スティーヴン・キング絶賛。といってもこの惹句には悪い予感しかしないって人もいるか。
●しかし脱獄モノの名作をひとつ挙げるとするならば、そのスティーヴン・キングの中篇「刑務所のリタ・ヘイワース」を迷わず選ぶ(「ゴールデンボーイ―恐怖の四季 春夏編」収録)。この小説は後に映画「ショーシャンクの空に」になった。あの映画も悪くないのだが(特に「フィガロの結婚」からの一曲を囚人たちに聞かせる場面がいい)、惜しいのは結末が大幅に甘口になってしまっているところ。原作には忘れがたい余韻がある。