●いったいロシアまでどれだけのメキシコ人が来ているのか。ドイツ対メキシコ。どう考えてもドイツ人のほうが多そうなものだが、スタジアムの雰囲気はまるでメキシコのホームゲーム。自然発生的に歌声が広がって最高のムード。ドイツの選手たちが後ろでボールを回すとブーイングが起き、メキシコのパスに「オーレ」の声がかかる。そんなムードを反映して、立ち上がりから超ハイテンションの試合に。
●中盤構成力の高いドイツだが、メキシコは細かいパス回しで対抗。激しい当たりにも負けない。お互いにオープンに攻め合って、枠内シュートが異様に多い展開に。ミスが少ない。メキシコのキーパーはオチョア、ドイツのキーパーはノイアー。ともにセービング技術が高く、引きしまった好ゲームになった。ドイツのキーパーにはバルセロナのテアシュテーゲンもいるが、レーブ監督はバイエルンで出場機会を失っているノイアーを正キーパーに据え置き、チームの継続性を重視。メキシコは前線のエルナンデスがビッグスターだが、オランダPSVで売り出し中の若手ロサーノが希望の星。
●メキシコの監督はコロンビア出身のオソーリオ。かなりの策士のようで、ドイツのフリーキックのチャンスにも前に3人残してカウンターを狙うというリスキーな戦い方。左サイドをワイドに開いてカウンターの起点にするのも、ドイツの右サイドのキミッヒに攻めさせないという戦略か。意外と細かい約束事の多いチームなのかもしれない。
●メキシコは長い距離のカウンターに迫力がある。カウンターでボールを持って上がる選手が簡単にサイドのフリーの選手に出さず、ギリギリまで自ら突進する。前半35分、ついにカウンターが実を結んで、ロサーノが鮮やかな先制ゴール。なんという切れ味の鋭さ。前半は内容的にもメキシコが勝っていた。
●後半途中からドイツはケディラをロイスに代えて攻撃の枚数を増やす。エジルを少し下げて中盤の展開力を上げようという構え。前へ前へと怒涛の攻めが始まる。一方、メキシコは思い切りよく早めに選手を交代して、守備的な布陣へ。ついには39歳のレジェンド、マルケス(まだいたの!!)まで投入して、5バックで鉄壁の守りを敷く。ドイツはマリオ・ゴメスを投入して高さの勝負を仕掛ける。前半とは打って変わって、一方的にドイツが攻める展開へ。だが、メキシコもエネルギーは残っていて、ときどきカウンターが発動して、ラジョンが惜しい決定機を迎える。メキシコは足が止まらず、終盤になっても組織的な守備を忠実に実行する。後半43分、途中出場のドイツの若手ブラントが強烈なボレーシュートを放つがポストに弾かれる。47分、ドイツはコーナーキックでキーパーのノイアーが前線に上がり、グループリーグとは思えない捨て身の攻撃を仕掛けるが、それでもメキシコは耐えきった。爆発的に喜ぶメキシコの選手たちとサポーター。あの、憎たらしいほど用意周到なドイツが、まさか初戦で負けるとは。メキシコは最後は守りに賭けたわけだが、あくまで自分たちで主導権を握って選んだ展開であって、「守らされた」感がまったくない。オソーリオ監督のプラン通りの完璧な試合で、ドイツを強引にねじ伏せたといってもいい。選手たちのマッチョ性に知将の戦略が融合した恐るべきチーム。
●さて、ドイツと並ぶ優勝候補がブラジル。前回は地元開催でドイツに屈辱的大敗を喫したわけだが、予選途中でチッチ監督を迎えてからは好調が続く。攻守ともに前回より選手層も厚くなっていると思う。ブラジル対スイス。スイスは大会前にニッポン代表相手にレッスンをしてくれたわけだが、ブラジルが相手となると余裕はない。ネイマールに対してはガツガツとファウルで止めにゆく。前半20分、ブラジルはコウチーニョがこぼれ球を拾って強烈なミドルを叩き込んで先制。ここまではよかった。しかしリードをすると、淡白な攻撃が続き、どこか気の抜けたムードに。後半5分、スイスのコーナーキックで、フリーになったツバーがヘディングシュートを決めて同点。これでブラジルの目が覚めるかと思いきや、ボールはつながるもアイディア不足の攻撃が続いて、スイスを崩しきれない。一方のスイスも主導権を握れないまま、守りに追われる。ブラジルのシュート20本のうち、枠内はわずか4本。その前のドイツvsメキシコがやたらと枠内シュートの多い試合だったこともあるが、どうにも締まりがない展開が続いて、そのままドロー。ブラジルは常に決勝までの一か月の長丁場を前提に調整しているのだ、と考えれば初戦はこれくらいでいいのか。しかしこのグループ、他がセルビア、コスタリカ(前回8強)で、まったく気を抜けない。
●今大会、ここまでを見たところ、消極的な試合がほとんどなく、攻め合いの多いエキサイティングな試合が目立つ。どうしてなんでしょ。
ドイツ 0-1 メキシコ
娯楽度 ★★★★★
伝説度 ★★★★
ブラジル 1-1 スイス
娯楽度 ★★
伝説度 ★