●2002年の日韓大会に続いてまたもワールドカップでベルギーと対戦することになった。ただし、今回はベスト8を賭けての戦い。そしてベルギーはアザールやデブライネ、ルカクといった最高クラスの選手たちを擁するFIFAランキング3位の優勝候補へと飛躍している。グループリーグ第3戦で主力選手たちを休ませて万全の構え。一方、ニッポンも6人を交代させた第3戦から当初のメンバーに戻してきた。GK:川島-DF:長友、昌子、吉田、酒井宏樹-MF:長谷部、柴崎(→山口)-乾、香川、原口(→本田)-FW:大迫。
●ニッポンは本来のメンバーに戻ったことで第3戦で欠いていたオートマティズムを回復、序盤は強豪相手にもパスを回して対抗するが、時間とともにベルギーに押されるようになる。アザールのドリブルや、前線のルカクのパワーに手を焼き、次第に耐える展開に。しかし前半をスコアレスで乗り切れたのはゲームプラン通りだろう。後半3分、ニッポンはカウンターから柴崎が長いスルーパスを出し、原口がこれを受けて突進、いったんフェイントを入れてから右足を振り抜いてゴール。ここから試合が激しく動き出す。直後にベルギーもアザールがポストを叩く惜しいシュート。後半7分、今度はゴール前で乾が、相手のチェックが遅れてフリーになるとペナルティエリア手前から右足で思いきり無回転シュートを蹴り込む。これが右隅に入ってニッポンがまさかの2点目。キーパー、クルトワの長い手がわずかに届かず。ここで、はっきりとベルギーのペースが落ちた。ニッポンは攻勢を緩めず、3点目のチャンスすらあった。
●後半20分、ベルギーはメルテンスとカラスコに代えて、フェライニとシャドリを投入。長身のフェライニが加わり、高さ勝負を挑まれる予感。後半24分は悔やまれるシーン。川島のパンチングからディフェンスの中途半端なクリアに対して、左サイドでベルトンゲンがヘディング。これは中に折り返したボールだと思ったが、そのまま川島の頭を越えてゴールに吸い込まれてしまう。川島はスーパーセーブもあるのだが、キャッチングへの不安があるのか、大会中不安定なプレイが目立ったことは否めない。これでベルギーは一気に息を吹き返す。そして後半29分、恐れていたフェライニの高さに屈して2失点目。あっという間に2点を追いつかれてしまう。
●ニッポンは後半36分に疲労度の高い原口と柴崎に代えて本田と山口を投入。ルカクのシュートを川島が好セーブするなど、押されつつも耐える。フリーキックを得て、本田はかなり長い距離から無回転シュートを放つが、クルトワが飛びついて弾き出す。これが決まっていれば8年前を彷彿とさせる伝説だったが、このレベルではそうそう入らない。そして、ここで得たアディショナルタイムのコーナーキックが運命を分けた。本田のコーナーキックに、難なくクルトワがボールをキャッチして、すぐにデブライネに転がして電光石火のカウンターへ。ここでニッポンは戻れなかった。ムニエのクロスから中央でフリーのシャドリが決めて、延長戦目前の後半49分に大逆転。ベルギーが8強に進んだ。
●実のところ、2点をリードした時点で、次の試合のスケジュールを確認したくなるほど、ニッポン初の8強の可能性は高まっていた。これをひっくり返されたのだから力負けというほかない。第1戦目からそうだったが、ニッポンは守備を固めるのではなく、攻撃的な布陣で戦い、結果としてゴールも生まれたし、失点も多かった。カウンターで得たチャンスもたくさんあったが、最後はカウンターで敗れたともいえる。振り返ってみれば、開始早々にPKをもらって相手が一人退場したコロンビア戦しか勝っていないのだが、内容的にはセネガル戦やベルギー戦のクォリティが高く、大会を通してチームが成長したという充実感がある。ベテラン選手が多く、これが代表のひとつのサイクルの集大成だったといえるかも。本当に立派な戦いだった。ただ、ワールドカップで2点差をひっくり返されたことには屈辱感しかない。25分間で3失点。「守ったらやられる、攻めなければ勝ちきれない」というのが西野監督の哲学なんだろうか。実際、あそこで守れる選手を投入してゴール前に壁を築いても守りきれたという保証はないのだから、すべては結果論でしか語れない。チーム一丸となって組織的に戦った結果、痛感するのは逆説的だけど個の力の大切さ。この上を目指すには、欧州のビッグクラブやプレミアリーグなど、普段から高いレベルでプレイする選手をどれだけ増やせるか(特にキーパー)にかかっている。あとは、局面ごとの戦術的な柔軟性をもう一段、高められれば。
●深夜に起きて生中継を見たが、朝になってみるとぜんぶ夢だったみたいな気もする。甘美な夢だったような気もするし、悪夢だったような気もするし……。ワールドカップはこれから佳境に入る。
ベルギー 3-2 ニッポン
娯楽度 ★★★★
伝説度 ★★★★