●スタジアムに響くゴッド・セイヴ・ザ・クイーンの大合唱。南米勢が去った後、ようやくイングランド・サポがスタジアムに熱いムードを生み出してくれた。若いイングランドに対して、ベテランが中心選手のクロアチア。ここまで2戦続けて延長PK戦を戦い抜いてきた。要の選手となるレアル・マドリッドのモドリッチ、バルセロナのラキッチがともに汗かき役としても絶大な存在だけに、ベンチには下げづらい。で、試合が始まってみると、やはりクロアチアの選手に疲労度を感じる。開始5分、イングランドはいきなりゴール前のフリーキックで、トリッピアーが見事な先制点。高い壁の上を超えてゴール右上に吸い込まれた。イングランドのプレイぶりはシンプル。自陣でボールを奪ったら、すぐに前線に残した快足スターリングにロングパスを出すという約束事がある模様。コーナーキックが特徴的で、中央に縦に選手が密集して並び、キッカーが蹴る瞬間にパッとめいめいの方向に散る。これはなかなか良策かも。クロアチアはモドリッチの位置が低く、組み立てでは有効だが、前線での攻撃のバリエーションが少ない。後半に入るとイングランドのプレッシャーにクロアチアが苦しむ場面も見られ、このままフリーキックの1点だけで勝敗が決しそうな勢い。
●ところが、後半23分、クロアチアは右サイドからブルサリコがアーリー・クロスを入れると、ゴール前でペリシッチが相手ディフェンダーの鼻先スレスレに足を延ばすような力技のシュートで同点ゴール。すると一気に形勢は変わり、クロアチアがイングランドを押し込むようになる。ゴッド・セイヴ・ザ・クイーンで励ますイングランド・サポ。お互い決定機はあったが、両キーパーの好セーブもあって延長戦へ。これでクロアチアは3戦連続の延長戦。疲れ果てた体で走り回る。この試合、一見、可能性の薄そうなアーリー・クロスをクロアチアはなんども入れているのだが、事前の狙いとしてあったのだろうか。1点目に続いて、2点目もアーリークロスから。延長後半4分、クロスボールへの競り合いのこぼれ球にすばやくマンジュキッチが反応して、左足で蹴り込んで逆転ゴール。次々と選手が動けなくなり両チームとも交代枠を使うが、イングランドのトリッピアーが動けなくなった頃にはすでに延長戦の4枚目の交替カードも使った後。トリッピアーは退場し、イングランドは10人で攻めようとするものの、クロアチアに隙はない。まさかの3連連続延長戦でまたしてもクロアチアが勝ち進むことになった。初めての決勝進出。
●これで決勝はフランス対クロアチアに決定。たまたまだが、決勝トーナメントの組合せが決まった時点で予想した通りの対戦カードになった。ワールドカップの優勝国というのは、実はとても限られている。リネカーの名言に「サッカーとは22人の男たちがボールを追いかけまわし、最後はドイツが勝つスポーツ」というのがあるが、端的に言えばドイツかブラジル、そうでなければイタリアか開催国(あるいは最近開催国だった国)が優勝する。例外は2010年のスペイン。フランスはかつて98年に開催国として一度優勝した。クロアチアは初めての決勝だが、やはり98年に3位になっている。どちらが勝っても「開催国ではない優勝国」がひとつ増える。ロシア大会ということを考えると、広い意味でのスラヴ文化圏ということでクロアチアが勝つストーリーも成立する。
●ところで、この試合、クロアチアのビダ(ヴィダ)がボールを持つたびにブーイングが執拗に起きた。イングランドとなんの因縁があるのか、ぜんぜんわからなかったのだが、かつてキエフに所属していたビダが親ウクライナ的な発言をしたということで、どうやらイングランド・サポではなくロシア人たちがブーイングをしていた模様。選手が不用意に政治的発言をするのはよくないが、しかし試合と無関係なブーイングにはがっかり。サッカー的な文脈のなかでのブーならわかるのだが。
クロアチア 2-1 イングランド
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★★