●14日はサントリーホールでジョナサン・ノット指揮東京交響楽団。このコンビでエルガー「ゲロンティアスの夢」を聴けるとは! この曲、録音で聴いても今ひとつピンと来なかったのだが、すばらしい体験となった。声楽陣は東響コーラス(暗譜だった)、マクシミリアン・シュミット(テノール)、サーシャ・クック(メゾ・ソプラノ)、クリストファー・モルトマン(バリトン)。誤解を恐れずに言えば、「パルジファル」の後日譚というかエピローグ的な存在、あるいはワーグナーのオペラの結末でたびたび訪れる観念的な死を肉付けして敷衍した作品とでもいうか。冒頭の前奏曲からして、あまりにも「パルジファル」的。第2部の悪魔の合唱が出てくるあたりで、ワーグナーからむしろヴェルディの「レクイエム」に一瞬移行しかけて、おいおいと思ったら、その後は「ワグエルガー」が戻って来てほっとする。
●第1部に比べると、死後を描いた第2部は作品内死生観に共感しづらいこともあって距離の取り方が難しくなるのだが、おそろしくハイクォリティの合唱、独唱、オーケストラのおかげで音楽の喜びに浸ることができた。完璧な上演だったけど、ひとつだけ惜しいのは字幕がなかったことか。演奏中は暗くて(そして字が小さくて)対訳は読めないし……。昔はそんな便利なものはなかったんだけど、今やすっかり字幕に甘えてしまっている自分に気づく。
●それにしても19世紀末から20世紀初頭にかけてのワーグナー・ウィルスの猛威はすごい。エルガー、ドビュッシー、ショーソン、アルベニス、ストラヴィンスキー……。この感染力と来たら。
July 19, 2018