●ベルリン・フィルのデジタル・コンサート・ホール、なんとなくシーズンオフになると、まとめて一年分のアーカイブを漁りたくなる。気になっていたラトル指揮によるブルックナーの交響曲第9番補筆完成版(SPCM、つまりサマーレ、フィリップス、コールス、マッズーカによる)を観た。この補筆完成版、2012年にも配信されてCD化もされているのだが、ラトルは2018年5月に改めて再度とりあげている。自身の音楽監督時代の総集編ともいうべきラストシーズンに、どうしてもこの補筆完成版を再演したかったのだろう。補筆者のひとりコールスによれば、復元された第4楽章は「全部で653小節。440小節はブルックナーのスコアに符合し、うち208小節は完全にオーケストレーションも施されている。他の117小節は彼のスケッチなどから再生でき、96小節は音楽的な類推技術を使って勝ち取らねばなからなかった。まったくブルックナーの手によらないのはわずか37小節に過ぎない」という。ラトルの表現では「85%はブルックナー本人のもの」。この「純度」をどう評価するかは考え方次第だろうが、現実に演奏されてしまえば、途中に何人が介在していようとひとつの作品に収束してしまうのがおもしろいところ。
●ラトルは気迫の指揮で、非常にエモーショナルな雰囲気。第1楽章から順番に聴いていくと、やっぱり第3楽章で「ああ、終わった」感に浸ってしまうのは、慣れ以外の何物でもないはず。で、終楽章だが2012年に観たときに比べると、微妙に印象が変わったかも。全般的に密度が「薄い」感じは否めないかな。部分的にオーケストレーションが薄いとか、起伏に乏しくて直線的とか。でも終盤の高揚感はすばらしい。前回聴いたときはブルックナーよりむしろ補筆者のアイディアが冴えているんじゃないか的な感想を抱いたっけ。今後、補筆完成版が定着するかどうかは、まだまだなんともいえないけど、補筆者の創造性が鍵という気もする。最後はラトルのソロ・カーテンコール。
●この終楽章を聴いた後、もう一回、第3楽章に戻りたくなる気分もなくはない。
July 31, 2018