●先日、セイジ・オザワ松本フェスティバルのために松本市に足を運んだが、音楽祭以外のもうひとつの重要ミッションがこちら。標高約800メートルにある広大な松本アルプス公園を訪れた。かねてより「ゾンビと私」にて書いてきたように、街がゾンビで埋め尽くされた場合、なによりもまず人口密度の薄い土地に逃げなければならない。そのため、東京近郊の低山をリサーチしてきたが、なにしろ東京は関東平野。都市が巨大で、山が遠い。その点、地方都市ではより有利な状況を望める。以前、松本に行った際には「乗鞍高原ハイキング」を敢行したが、いささか市街地から遠すぎたのではないかという反省があった。なにしろゾンビ禍が発生すると、すぐに車が使えなくなることは先行事例から明らか。徒歩で到達できる場所を考えるべきである。そこでグーグルマップで松本市を眺めて、ほどよい距離と高度を持つアルプス公園に目を付けた次第だ。
●まずなによりもこの公演は見晴らしがよい。写真のように街を一望できる。遠景に山があって実に美しいではないか。下界で人々が次々と噛みつかれていることを忘れてしまいそうなほど、心安らぐ見事な眺望である。
●そして71ヘクタールという都市公園とは思えない広大さもよい。広ければ広いほど、人口密度は薄まる。公園内でもいっそう小高い「花の丘」で一息。そういえば、週末であるにもかかわらず、ここに来るまで数えるほどの人しか見かけていない。お天気がもうひとつということもあるかもしれないが、都内ではまず考えられないこと。のびのびと過ごせる。
●そして、公園とは言いつつ、周辺部にはこのように低山ハイキングの気分を味わえるような散策コースも用意されている。一見、見通しが悪く安全性に欠けるように見えるが、このような道では必ず足音が聞こえる。足音の様子から、人間とヤツらを見分けることもできるのではないか。
●さて、松本アルプス公園を抜けて、続いてもうひとつの都市公園である城山公園へと下ることにする。標識から確認できるように勾配は10%。大前提として、なぜ高い場所へ逃げるかといえば、ヤツらは意図的に山を登らないはずという仮定がある。獲物を追いかける場合は別として、確たる意思を持たずにフラフラと移動する以上、自然に坂道は上るよりも下るであろうし、特に階段や急勾配を連続して上る確率はかなり低いと見ている。問題は10%の勾配が十分に急と言えるかどうか。人間が歩いてみると、かなり急である。もしこれが十分に急であるとすれば、ぐっと安全度は高まる。
●そして城山公園へと達したときに、恐るべき看板を見かけることになる。まさか、こんな市街地に近い場所にクマが出没するとは! 市の公園緑地課の看板は熊鈴の装備を勧めている。だが、熊鈴を装備すれば、こんどはゾンビをおびき寄せることになる。クマかゾンビか。大山倍達になるか、ミラ・ジョヴォヴィッチになるか。低山という逃げ場の有効性が根本から脅かされているのを感じながら、まつもと市民芸術館まで歩いたが結論は出ていない。
September 5, 2018
ゾンビとわたし その37:松本アルプス公園~城山公園~まつもと市民芸術館
>> 不定期終末連載「ゾンビと私」