November 15, 2018

エフゲニー・キーシン ピアノ・リサイタル

●14日は東京芸術劇場でエフゲニー・キーシンのピアノ・リサイタル。このホールでピアノ・リサイタルを聴く機会は珍しいかも。プログラムは前半がショパンの夜想曲第15番ヘ短調と夜想曲第18番ホ長調、シューマンのピアノ・ソナタ第3番、後半はラフマニノフの前奏曲集で、10の前奏曲op23の第1曲から第7曲まで、そして13の前奏曲op32の第10、12、13番を加えた計10曲。当初はベートーヴェン「ハンマークラヴィーア」が予定されていたのだが、その後、シューマンのピアノ・ソナタ第3番に変更になった。
●シューマンのピアノ・ソナタ第3番はかなり意外な選曲だけど、今シーズンのキーシンは熱心に取り組んでいるよう。昨シーズンもっぱら弾いていた「ハンマークラヴィーア」を、今季用の「新曲」に変更したと解せばいいのだろうか。ソナタとしては大作で、前半から一曲の交響曲を聴き切ったような気分。この曲、もともと、スケルツォ楽章なしの3楽章で「管弦楽のない協奏曲」として発表されたものを、後に初版で削られたスケルツォ(のひとつ)を復活させて4楽章のピアノ・ソナタにしている。そんな成立の経緯を思うと、「管弦楽のない交響曲」みたいな趣きも。作曲者のファンタジーと形式美があちこちで衝突を起こしているようなゴツゴツとした手触りが魅力なのか。鬱屈したポエジー満載。作品規模にふさわしい堂々たる力強い演奏に圧倒されるばかり。
●後半、ピアノの響きはぐっと輝かしさを増して、豪壮なラフマニノフへ。全身で楽器を鳴らし切る。多くの大作曲家たちの名曲は「神への供物」だろうけど、ラフマニノフは楽譜を通じて自身のピアニズムをキーシンに伝授しているかのよう。強靭で、スケールが大きく、情感豊か。
●アンコールは3曲。まずシューマンの「トロイメライ」で客席の興奮を収めて、続くいくぶんモダン風味のタンゴでふたたび会場をわかせる。知らない曲だなと思ったら、キーシン自作の「ドデカフォニック・タンゴ」なんだとか。最後はショパンの「英雄ポロネーズ」で、アンコールにふさわしい勢いと自在さで鮮やかに弾き切った。客席のほとんどがスタンディングオベーションという感動的な幕切れ。

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