November 26, 2018

ズービン・メータ指揮バイエルン放送交響楽団

●22日は東京芸術劇場でズービン・メータ指揮バイエルン放送交響楽団。当初はヤンソンス指揮でマーラーの交響曲第7番「夜の歌」が予定されていたのだが、健康上の理由によりメータが代役で登場、曲もモーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」とマーラーの交響曲第1番「巨人」に変更になってしまった。75歳のヤンソンスの代役に82歳のメータが登場するのも驚きだが、さすがに「夜の歌」をそのまま振るわけにはいかず。正直なところ、また「巨人」か……と少々落胆していたのだが、これが予想を超えた凄絶な演奏に。長く記憶に残る一夜になった。
●まず、あのエネルギッシュでマッチョなメータが、老巨匠となって杖をついて登場し、晩年のカール・ベームのように椅子に座って棒を振る姿に動揺する。時の流れに思いを馳せずにはいられない。指揮台にはスロープが据えられて、助けを借りながら慎重に上るが、それでも足元にはらはらする。しかし座って棒を構えるとカリスマは健在。やはりメータは大指揮者。小編成、対向配置のモーツァルトでは、弦楽器のなめらかで温かみのある音色に聴き惚れる。「巨人」はまさかの「花の章」入りで第2楽章でびっくり。特にアナウンスされていなかったように思うのだが、プログラムノートにはちゃんとそう書いてあった。スケルツォから次第に火がついて、骨太で句読点を力強く打つメータらしさの片鱗が次第に顔を覗かせる。コントラバスのソロはかつて聴いたことがないほど流麗。終楽章は巨大な音楽になった。小さな身振りだったメータの棒が鋭角的になり、オーケストラが燃え上がる。壮絶なクライマックスを築いて、客席からは盛大なブラボー。アンコールはヨハン・シュトラウス2世の「爆発ポルカ」。ウィーン・フィルの来日中に他の外来オケでシュトラウスのポルカを聴くことになるとは。
●客席はさらに湧き上がり、スタオベ多数。メータは歩行が大変なのでカーテンコールは省略、客席もみんなで集中豪雨的に大喝采して一回で済ませようモードに。が、オーケストラが舞台から去っても拍手は止まず、最後は車椅子に乗ってメータが姿を見せた。客席にはキーシンの姿も。
●完成度でいえば前半のモーツァルトなのだが、何年もして思い出すのは、あのどこへ連れて行かれるか分からないような「巨人」にちがいない。

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