●18日はサントリーホールでダニエル・ハーディング指揮パリ管弦楽団。プログラムはベートーヴェンの交響曲第6番「田園」とマーラーの交響曲第1番「巨人」。カッコウのさえずりが聞こえてくる自然賛歌的な要素を持つ2曲の交響曲が並ぶ。弦は今や標準化しつつある対向配置。ハーディングは札幌公演の際に凍結した路面で転倒し、右足首を骨折したということで、車椅子で登場して椅子に座っての指揮。なんと、先般のズービン・メータ指揮バイエルン放送交響楽団に続いて、またしても車椅子の指揮者が座って指揮する「巨人」を聴くことになった。その意味合いは著しく違うわけだが……。
●後半の「巨人」が鮮烈。ハーディングの十八番であちこちのオーケストラで同曲を振っているだけに、趣向が凝らされ、練り上げられた解釈といった感。オーケストラの音色は明るく華やか、管楽器は名手ぞろい。スケルツォの切れ込みが鋭い。第3楽章のコントラバスはソロで、これが朗々と滑らかに歌われる。先日のバイエルン放送交響楽団でも同様に感じたけど、ソロ・コントラバスの流麗さというのは作品の想定外の味わいでは。終楽章は輝かしく壮麗。クライマックスへと猛進して、客席からは盛大なブラボー。「巨人」は今年だけでもブロムシュテット指揮N響、メータ指揮バイエルン放送交響楽団の名演があって、聴かなかったけどつい最近ゲルギエフ指揮ミュンヘン・フィルもあって、すごい演奏頻度なのだが、これだけ客席が熱くなる曲もそうそうない。ホルン隊が起立したときの視覚的なインパクトも抜群。
●ハーディングはカーテンコールができないので、ずっと指揮台上で喝采にこたえて、アンコールにエルガーの「エニグマ変奏曲」から「ニムロッド」。とてもエモーショナルで、官能的。客席はスタンディングオベーション多数。楽員が退出後も拍手が止まず、長く待った末に、上着を脱いだハーディングが杖をついて登場してソロ・カーテンコール。
●「巨人」の第1楽章、舞台裏で吹いていたトランペットがそっと入場することになるわけだが、黒服の男たちが静かに歩いてくる様子を見て、いつも葬列を連想するのはワタシだけだろうか。まるで第3楽章を予告するかのよう。
December 19, 2018