●なにか一冊、読みやすくておもしろい最近のミステリはないかと探して見つけたのが「数字を一つ思い浮かべろ」 (ジョン・ヴァードン著/文春文庫)。これはいい。リタイアしたばかりの名刑事が事件に巻き込まれるといった体裁で、渋めのトーンで描かれる主人公周りの人間模様と、犯人側の派手な仕掛けとのコントラストが味わい深い。書名にもなっている大仕掛けに、犯人が被害者に対して手紙で「1000までの数字をどれかひとつ頭に思い浮かべろ」と求め、その数字を鮮やかに的中するというものがある。そのトリックが、なんというか、いかにもワタシ自身が好みそうな手口だったんすよ! 納得感ありすぎて、そこの部分だけは犯人側に共感できる。
●以前、当欄でご紹介した「二流小説家」(デイヴィッド・ゴードン著/早川書房)が文庫化されている。これはジャンル小説専門の売れない作家が獄中の連続殺人鬼から告白本を書いてくれと頼まれるという話で、かなり可笑しい傑作。あるとき同じ著者の別の本を読もうかどうか迷って、そういえば旧作の「二流小説家」はどんな話だったけな……と本を読み返してみたら、ぜんぜん話の展開が思い出せない。あれれ、これって、その後どうなるんだっけとページをぺらぺらとめくっているうちに止まらなくなって、結局、最後まで再読してしまった。フツーに楽しく読めた。すごい勢いで自分の記憶が薄れていることを発見。なんかもう、新しい本を買わずにお気に入りの二周目をやってれば、それでいいんじゃないのかって気になる。
December 21, 2018