●この1月から2月にかけて、リムスキー=コルサコフの「シェエラザード」が集中的に演奏されているという話を先日書いたが、これと並行してUAEでアジア・カップが開催されているというシンクロニシティに気づいた。というのも、アジア・カップのベスト4が出そろったところ、なんとニッポン以外はすべて中東勢になってしまったんである。準々決勝で韓国がカタールに敗れ、前回王者オーストラリアはザッケローニ率いる地元UAEに屈した。これは番狂わせといってもいいだろう。地の利を生かしてか、中東勢が大健闘。本日の深夜、ニッポンがイランに勝たない限り、中東勢がアジア・カップを手にすることが決まる。めくるめくアラビアン・ナイト・フットボール。
●で、「シェエラザード」について気になったことがあって、「アラビアンナイト 文明のはざまに生まれた物語」(西尾哲夫著)をひもといてみたところ、冒頭の口絵にいきなり中国人風のアラジンの挿絵が載っていて、アラジンの物語の舞台は中国なのだと書いてある。そ、そうなんだ。「欧米では中国人の姿のアラジンは珍しくもなんともない」のであり、東洋文庫版「アラビアン・ナイト別巻 アラジンとアリババ」でも舞台は「シナ」の街となっているという(アラビア語の原文ではスィーン)。ヨーロッパ人たちが描く「東洋」「オリエント」はしばしばイスラム世界も中国や日本も含んでいたりするが、そもそもアラジンは原典からして中国だったんである。そして、アラジンの物語は本来の「千一夜物語」には含まれていなかったというのが定説らしい。
●そんなことも考えると、ヨーロッパ人たちが作りあげてきたフットボールの世界で、中東も中央アジアも東アジアも全部まとめて「アジア」に押し込められるのは、それなりに自然なことなのかもしれない。ニッポンもUAEも同じアジア。文化的にこんなに遠いのに。そして、2011年にニッポン代表を率いてアジアを制覇したザッケローニが、今回はUAEを率いて、ふたたびアジアの王座に近づいている。イタリアの名将はユヴェントスの監督を務めた後、日本代表、北京国安、UAE代表を巡る千一夜を超える東方への旅に赴いた。もし決勝でUAEとニッポンが対戦できれば、彼の旅はこれ以上ない美しい終着点を迎えることになると思うのだが、はたして。
January 28, 2019