●「エドガー・ヴァレーズ 孤独な射手の肖像」(沼野雄司著/春秋社)を読んでいる。日本語初のヴァレーズの本格評伝。500ページ級の大部な本で、ようやく第5章まで読み進めたところだが、これがめっぽうおもしろい。そもそもヴァレーズ、曲は聴いたことがあっても、どんな人物なのか、どんな人生を歩んできたのか、ぜんぜん知らなかったわけだが、こんなにも型破りな人だったとは。そして、会う人会う人がことごとくヴァレーズに支援の手を差し伸べてくれるという不思議に驚かずにはいられない。リヒャルト・シュトラウス、ホフマンスタール、ロマン・ロラン、ドビュッシー、ストコフスキ……。みんなヴァレーズを助けようとしてくれる。よほど人間的な魅力があったのか。
●この本は、資料的な価値が高いだけじゃなくて、「おもしろく読める」のがすばらしい。評伝とはこうあってほしいもの。序章でかの有名なストラヴィンスキー「春の祭典」初演のシャンゼリゼ劇場でのスキャンダルに触れて、それから41年後、同じ場所でヴァレーズの「砂漠」がヤジと嘲笑にさらされたことが述べられる。しかもヴァレーズは「春の祭典」初演にも立ち会っていたのだとか。一冊の本の書き出しとして、これほど魅力的なエピソードもない。
●そして、これは大事なことだが、読んでいるとヴァレーズの音楽を聴きたくなる。ヴァレーズの曲、正直なところ自分は年齢を重ねるにしたがって作品に向き合うエネルギーが不足してきているかもしれないんだけど(先日、ノット&東響の「アメリカ」を聴いてそう思った)、でもやっぱり聴きたくなるんである。Naxos Music Libraryにアクセスして検索してみよう。アルカナ、あるかな~。
February 8, 2019