●7日はサントリーホールでシルヴァン・カンブルラン指揮読響のイベール&ドビュッシー・プログラム。前半にイベールの「寄港地」とフルート協奏曲(サラ・ルヴィオン)、後半にドビュッシーの前奏曲集(ツェンダー編曲の5曲)と交響詩「海」。色彩感豊かで、壮麗。海にちなんだ名曲は数あれど、「寄港地」と「海」ほど海への憧憬を呼び起こす曲もない。イベールはフルート協奏曲の初演時に新聞記者に「もし音楽家にならなかったら、きっと船員になっていた」と語っていて、まったく同じことをドビュッシーも言っているのはなんという偶然。イベールのほうは実際に第一次世界大戦で海軍士官を経験しているので、それほど「もしも」の話でもなかったのかもしれない。サントリーホールで座って体験する船旅。
●今月で読響常任指揮者を退任するカンブルランに対しては名残惜しい気持ちでいっぱい。こういったフランス音楽プログラムやストラヴィンスキーなどで聴かせてくれた洗練された華やかな響き、ブルックナーやベートーヴェンなどドイツ音楽での軽快さ、小気味よさなど、ほとんどのレパートリーにおいて共感できる演奏を披露してくれた。こんなにたくさん日本に来てくれていて、それでも毎回ワクワクしながら会場に足を運べるのは稀有なケース。もう十分に務めてくれたのだからしょうがないことではあるのだけれど、このコンビが一区切りつくことが寂しい。って、まだこの後に「グレの歌」等も控えているのだが。
●ツェンダー編曲のドビュッシーではおびただしい数の打楽器が使用されていて、音色のコントロールがとてつもなく細密。モノクロームの世界を管弦楽で着色するとはいうけれど、ひとつの面を一色で彩色するのではなく、逐一グラデーションをかけたり、明暗の変化を付けたりするかのような凝ったオーケストレーション。ミュージカルソーなんかも出てきて、結果的にコミカルなテイストが強調される傾向があって、そこにいくぶんとまどいを感じなくもない。ちなみに、この編曲は弦楽器がソロでもトゥッティでも演奏できるということになっている。3曲目の「風変わりなラヴィーヌ将軍」は、ツェンダー自身が指揮した録音では曲の途中にフランス語のセリフのやりとりが聞こえるが、スコア上の指定ではセリフは弦がソロのときのみ発声されるとなっている。今回はトゥッティによる演奏なので発声されないという理解。
●前半のソリスト・アンコールはドビュッシーの「シランクス」。これしかない。
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●宣伝をひとつ。「東京・春・音楽祭」春祭ジャーナルに「Spark Joy! ときめきのシェーンベルク 第1回 頑固店主と正直すぎるお客たち」を寄稿しました。
March 8, 2019