●19日は紀尾井ホールでシルヴァン・カンブルラン指揮による読響アンサンブル・シリーズ特別演奏会。プログラムは前半にヴァレーズ「オクタンドル」、メシアン「7つの俳諧」、後半にシェルシ「4つの小品」、グリゼー「音響空間」から「パルシエル」。常任指揮者として最後の一連の公演のなかで、こんなプログラムが実現するとは。大ホールではなく紀尾井ホールが会場、そしてピアノにピエール=ロラン・エマールまで招くというぜいたく仕様。客席は満席。
●前半の2曲はエキゾチシズムつながり。ヴァレーズ「オクタンドル」、実演で聴いてみると妖しく秘境的という以上にカラッとした楽しさも感じる。「春の祭典」も連想せずにはいられない。この日はコントラバスが活躍するプログラム。メシアン「7つの俳諧」は偏光フィルタを通して見た不思議ニッポン。そして「鳥のカタログ」極東出張編でもある。この一曲のためにエマール登場。エマールの透明感あふれるピアノにすっきりと心が洗われて、やっぱりエマールの洗浄力は抜群。
●後半は対照的な発想から生まれた響きの探究がどこかで一脈つながったかのようなおもしろさ。シェルシ「4つの小品」は一音だけで曲を作るという着想から、多種多様な音色と奏法、音程のゆらぎが駆使されて、移ろいゆく響きのなかから微妙な文脈が浮かび上がる。グリぜー「音響空間」から「パルシエル」では倍音の重なりが生み出す精緻な響きが、次第にノイズへと変貌していく。終盤はパフォーマンス入りのかなり意外な展開になって、カンブルランが真っ赤なハンカチを取り出して汗を拭いてみせたり、最後にシンバルにスポットライトが当たって、今にも打ち鳴らしそうなポーズだけを見せて暗転したりと、客席からは笑いも起きた。場内は大喝采、盛んに飛ぶブラボーの声。この日もカンブルランのソロ・カーテンコール。壮行会を何度もやってるかのよう気分だが、それにふさわしいプログラムとクォリティ。カンブルランはあともう一プログラムあるけど、自分はこれでおしまい。常任指揮者として9年間にわたって、数々のエキサイティングな名演を読響と聴かせてくれたことに感謝。
March 20, 2019